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変わり始めた気持ち

カメラを鞄にしまったあと、僕たちはゆっくりと校舎へ戻り始めた。


まだチャイムが鳴るまで時間があったので、急ぐ必要はなかった。


舞夜は僕の隣を歩いていた。


時折、首元の小さなペンダントに指を触れている。


星と花をかたどった飾りが、歩くたびにかすかに揺れていた。


「ねえ、大樹くん」


「どうしたの?」


「ちょっと聞いてもいい?」


「もちろん」


舞夜はすぐには話し始めなかった。


数秒ほど考えてから、そっと口を開いた。


「……何か、変わったと思う?」


「何が?」


「三年生になってから、私たちのこと」


僕は少し考えた。


「……うん。変わったと思う」


「どんなふうに?」


前を向いたまま、僕は答えを探した。


「うまく説明できないんだけど……」


「うん」


「前は、舞夜と一緒にいると楽しいなって、普通に思ってたんだ」


舞夜は黙って耳を傾けていた。


「話をするのも好きだったし、一緒に写真を撮るのも好きだった。一緒に出かけるのも、楽しかった」


「うん」


「でも、今は……何かが違う気がする」


舞夜が少しだけ視線を落とした。


「……どう違うの?」


「舞夜が近くにいないと、会いに行きたくなるんだ」


舞夜は小さく微笑んだ。


「それなら、今までもそうだったよ?」


「うん。自分でも分かってる」


僕も思わず笑った。


「でも、今はただ話したいから会いに行くんじゃないんだ」


「……じゃあ、どうして?」


僕は足を止めた。


舞夜も立ち止まり、こちらを見つめる。


僕は彼女の瞳を見つめ返した。


「……舞夜と一緒にいたいから」


舞夜の紫色の瞳が、わずかに大きくなった。


数秒間、僕たちは何も言わなかった。


「……大樹くん」


「まだ、自分でもうまく説明できないんだけどね」


僕は少し困ったように笑った。


「何となく、そう思うんだ」


舞夜は優しく微笑んだ。


「ううん。無理に説明しなくてもいいよ」


「……いいの?」


「うん。何となく、分かる気がするから」


その言葉に、僕は少しだけ安心した。


僕たちは再び歩き始めた。


けれど、心臓はまだいつもより速く鼓動していた。


自分の気持ちを、まだはっきりと言葉にする勇気がない。


ずっと前から、胸の奥で少しずつ大きくなっていたもの。


それが何なのか、本当はもう分かっているのかもしれない。


ホワイトデーよりも前から。


もしかすると、もっとずっと前から。


舞夜と初めて話した日のことを思い出す。


彼女が僕に近づいてきて、こう言ったこと。


――私に恋をする必要があるんだよ。


あの頃の僕は、そんな言葉を本気にしていなかった。


文化祭。


一緒に撮った写真。


クリスマス。


お正月。


初詣。


そして、舞夜が過去と向き合わなければならなかった日。


中学時代に起きたことや、文芸部での出来事。


あの日、僕は彼女のそばにいた。


起きてしまったことを、なかったことにはできなかった。


彼女の傷を、簡単に消してあげることもできなかった。


それでも、隣にいることはできた。


そして、二人で少しずつ前に進んできた。


やがて、バレンタインが訪れた。


舞夜が僕のために用意してくれたチョコレート。


ホワイトデーに、僕が彼女のために選んだペンダント。


僕の手を握ってくれたこと。


そして、これからも一緒にいたいと伝えてくれた、あの声。


たくさんの思い出が、ほんの数秒の間に頭の中を駆け巡った。


そこで、ようやく気づいた。


この気持ちは、突然生まれたものじゃない。


一日で変わったわけでもない。


小さな種が少しずつ育っていくように、僕たちが一緒に過ごす時間の中で、ゆっくりと大きくなっていたのだ。


「……舞夜」


「なあに?」


僕は彼女を見た。


「僕、たぶん……」


そこまで言って、口を閉じた。


舞夜は急かさず、じっと僕の言葉を待っていた。


けれど、どうしても最後まで言えなかった。


「……いや、何でもない」


舞夜は少しも責めることなく、柔らかく微笑んだ。


「そっか」


「……何を言おうとしたのか、気にならない?」


「気になるよ」


「だったら……」


舞夜は僕の顔を見上げた。


「だって、いつか大樹くんが話してくれると思うから」


その言葉に、僕は驚いた。


「もし、すごく時間がかかったら?」


「待つよ」


舞夜は迷いなく答えた。


「大樹くんが自分の気持ちに気づくまで、待ってたみたいにね」


胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


舞夜はそっと僕の手を取った。


「だから、焦らなくていいんだよ」


「……ありがとう」


「でもね」


「ん?」


舞夜は少しだけいたずらっぽく笑った。


「できれば、あんまり遅くならないでほしいな」


「えっ?」


思わず聞き返すと、舞夜はくすくすと笑った。


「だって、私も気になるんだもん」


「……舞夜」


「ふふっ。冗談、じゃないけどね」


彼女の頬が、ほんのりと赤くなった。


そのとき、授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。


そろそろ教室へ戻らなければならない。


僕たちは手を離し、それぞれの教室へ向かって歩き始めた。


けれど、廊下を歩いている間も、舞夜の言葉が頭から離れなかった。


焦らなくていい。


いつか、自分の口から伝えられる日が来る。


舞夜は、そう信じてくれている。


……だったら、僕も自分の気持ちから逃げるのは、もうやめよう。


まだ、はっきりと言葉にする準備はできていない。


それでも、以前のように、ただの仲のいい友達だからと自分に言い聞かせることはできなくなっていた。


舞夜と一緒にいたい。


彼女に会いたい。


これからも、彼女の隣を歩いていきたい。


そんな気持ちを、単なる親しさだけで説明することは、もうできない。


何かが変わった。


いや……。


本当は、ずっと前から変わり続けていたのかもしれない。

第314話を読んでくださって、ありがとうございます!


自分の気持ちが少しずつ変わっていることに気づき始めた大樹。

そして、答えを急がずに待ってくれる舞夜。


大樹が自分の想いを言葉にできる日は、そう遠くないのかもしれません。


二人の関係がこれからどう進んでいくのか、引き続き見守っていただけたら嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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