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思いがけない一枚

昼休みは、思っていたよりも早くやってきた。


昼食を食べ終えたあと、廊下を歩いていると、舞夜が僕を見つけて声をかけてきた。


「大樹くん」


「どうしたの?」


「カメラ、持ってきた?」


「もちろん」


僕は鞄から小さなカメラを取り出した。


それを見た途端、舞夜の顔がぱっと明るくなる。


「じゃあ、行こう!」


「どこに?」


「ちょっと考えてる場所があるの」


舞夜に案内されるまま、僕は校舎の裏手へ向かった。


そこは、特に目立つような場所ではなかった。


いくつかのベンチと木々があり、小さな花壇もある。


昼休みでも、ほとんど生徒が訪れない場所らしい。


「こんなところ、知ってたんだ?」


「昨日、凛奈ちゃんが教えてくれたの」


舞夜はベンチの一つを指さした。


「ここなら、ほとんど誰も来ないんだって」


僕たちは並んで腰を下ろした。


しばらくの間、二人で静かな時間を楽しんだ。


「確かに、静かだね」


僕が言うと、舞夜は嬉しそうに頷いた。


「でしょ? だから気に入ったの」


彼女は周囲を見回した。


「これから、ときどきここに来るのもいいかもね」


「お昼ご飯を食べに?」


「うん。一緒に食べたり、ゆっくり話したりしたいな」


僕は笑った。


「じゃあ、ここも僕たちの秘密の場所だね」


舞夜は楽しそうに目を細めた。


「ふふっ。いい響きだね」


……昨日見つけたテラスに続いて、また秘密の場所が増えてしまった。


これでは、卒業する頃には秘密の場所だらけになっているかもしれない。


そんなことを考えながら、僕はカメラを取り出した。


「せっかくだし、写真を撮ろうか?」


「うん!」


舞夜は立ち上がり、木々の前まで歩いていった。


「ここでいい?」


「いいと思うよ」


僕はカメラを構えた。


けれど、シャッターを押そうとした瞬間、舞夜が小さく顔をしかめた。


「ちょっと待って!」


「どうしたの?」


「髪が……」


ちょうど風が吹き、彼女の髪が少し乱れてしまったらしい。


舞夜は両手で髪を整えようとしたけれど、なかなかうまくいかない。


「うまくまとまらないよ……」


「ちょっと貸して」


僕は彼女に近づいた。


そして、顔にかかっていた一房の髪をそっと指でよけ、耳の後ろへ流した。


舞夜はぴたりと動きを止めた。


「……ありがとう」


「うん。これで大丈夫」


僕は一歩下がって、もう一度カメラを構えた。


「今度こそ、撮るよ」


舞夜は笑顔を浮かべた。


「ねえ、大樹くん」


「ん?」


「今度は、私が大樹くんの写真を撮ってもいい?」


「僕の?」


「うん!」


「でも、舞夜のほうがずっと写真映えすると思うけど……」


「そんなの関係ないよ」


舞夜は僕からカメラを受け取った。


「ほら、あそこに立って!」


「分かったよ」


言われたとおり、僕は木の前に立った。


「これでいい?」


「うん、いい感じ!」


舞夜はカメラを構えた。


しかし、いざシャッターを押そうとした、その瞬間。


「大樹ー!」


背後から、聞き慣れた声が響いた。


僕は反射的に振り返った。


「……結衣?」


そこには、こちらへ走ってきた結衣が立っていた。


「あっ、ごめん! 撮影中だった?」


舞夜がくすくすと笑い始める。


「ちょうどいいところに来たね」


「え? 何が?」


「写真を台無しにするのに、ちょうどいいタイミングだったよ」


「ちょっと! わざとじゃないからね!?」


そこへ、結衣の後ろから松も現れた。


「何してるんだ?」


結衣は僕たちの手元にあるカメラを指さした。


「二人で仲良く写真撮影!」


「違う! 普通の写真だよ!」


松は大笑いした。


「なるほど。つまり、仲良しカップルの撮影会ってことか!」


「だから違うって!」


「はいはい、分かった分かった」


「絶対分かってないだろ!」


舞夜は口元を押さえ、必死に笑いをこらえていた。


……もう、勘弁してほしい。


結局、結衣と松は用事を思い出したらしく、そのまま歩き去っていった。


二人の姿が見えなくなってから、僕は深いため息をついた。


「……撮影のタイミング、逃しちゃったね」


「そうだね」


僕が答えると、舞夜はカメラを持ち上げた。


「でも、まだ終わりじゃないよ」


「え?」


「今度は、二人で撮ろう!」


「二人で?」


「うん!」


舞夜は僕の隣へやってきた。


「大樹くん、ここに立って」


「分かった」


僕たちは並んで立った。


舞夜はカメラを近くの手すりに置き、セルフタイマーを設定した。


「何秒かあるからね」


「……で、どうするの?」


「笑顔!」


「それが一番難しいんだけど」


「もう、そんなこと言わないの!」


舞夜は僕の隣にぴたりと並んだ。


肩と肩が、そっと触れ合う。


その距離の近さに、少しだけ意識が向いてしまった。


「三……」


カメラのタイマーが動き始める。


「二……」


舞夜が僕の顔を見上げた。


「一!」


カシャッ。


小さなシャッター音が響いた。


「撮れた!」


舞夜はすぐにカメラへ駆け寄った。


僕もその後を追いかける。


二人で写真を確認する。


そこには、木々の下に並んだ僕たちが写っていた。


少しぎこちない表情だったけれど、二人とも笑っていた。


完璧な写真とは言えないかもしれない。


それでも、不思議と悪くない一枚だった。


「……私、これ好き」


舞夜が嬉しそうに言った。


「僕も気に入ったよ」


彼女は写真を大切そうに扱った。


「じゃあ、これが一枚目だね」


「一枚目?」


「うん。私たちの三年生のアルバム、その最初の一枚!」


僕は笑った。


「それなら、これからもっと増やさないとね」


舞夜は大きく頷いた。


「もちろん!」


そして、少しだけ真剣な顔になった。


「卒業する頃には、一か月ごとに何ページも必要なくらい、たくさんの写真を撮りたいな」


「それは、ものすごい枚数になりそうだね」


「それが目標だもん!」


舞夜は満足そうに笑い、カメラを鞄にしまった。


僕は、そんな彼女を見つめていた。


もしかしたら、この小さなアルバムは、僕たちが思っている以上に大切なものになるのかもしれない。


写真を残すこと自体が目的なのではない。


そこに写る景色や表情。


そのとき交わした言葉。


二人で過ごした時間。


そうしたものを、忘れないように残しておくためなのだ。


これから始まる、高校生活最後の一年。


どんな出来事が待っているのか、僕たちにはまだ分からない。


楽しいことも、思いがけないことも、きっとたくさんあるだろう。


そして、その中には、今の僕たちが想像もしていないような変化だってあるのかもしれない。


それでも。


いつか卒業の日を迎えたとき、このアルバムを開けば、今日のことを思い出せるはずだ。


校舎の裏で撮った、少しぎこちない一枚。


結衣と松に邪魔されたこと。


舞夜の髪を整えたこと。


そして、肩を寄せ合って笑ったこと。


そんな小さな出来事まで、全部。


僕は舞夜の隣で、静かに微笑んだ。


この一年が、どんな一年になるのか。


その答えは、まだ誰にも分からない。


けれど、少なくとも今日。


僕たちは、忘れたくない思い出を一つ手に入れた。

第313話を読んでくださって、ありがとうございます!


大樹と舞夜のアルバムに、三年生になって初めての二人の写真が加わりました。

少しぎこちなくても、二人が笑っているなら、それだけで大切な一枚ですね。


これからアルバムがどんな思い出でいっぱいになるのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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