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新しい日常

三年生になって三日目。


僕は、これまで考えてもいなかったことに気づいた。


別々のクラスになること自体は、別に難しくない。


難しいのは、それに慣れることだった。


二年生の頃は、ほとんどいつでも舞夜と話すことができた。


何か分からないことがあれば、振り返るだけでいい。


何か見せたいものがあれば、彼女の席まで行けばいい。


授業中に面白いことが起きれば、自然と目が合って、二人で笑いをこらえることだってあった。


けれど、今は違う。


物理的には、ほんの少しの距離しか離れていない。


それでも、何かをする前に考えるようになってしまった。


――いつなら、舞夜に会えるだろう?


そんなことを考えながら、僕は三年一組へ向かって歩いていた。


途中でスマートフォンを取り出すと、メッセージが届いていた。


舞夜からだった。


『おはよう、大樹くん。もう学校に着いた?』


僕は思わず微笑んだ。


『うん。今、教室に入るところだよ』


数秒後、返事が届く。


『私もだよ』


さらに、もう一通。


『最初の休み時間に会える?』


僕はすぐに返信した。


『もちろん』


スマートフォンをしまったところで、声をかけられた。


「おはよう」


顔を上げると、結衣が目の前に立っていた。


「おはよう」


結衣は僕の顔を数秒間じっと見つめた。


「……舞夜?」


「うん」


「もう今日の予定を相談してるの?」


「休み時間に会うだけだよ」


結衣は大げさにため息をついた。


「朝から何てロマンチックなの」


「別にロマンチックじゃないだろ」


「はいはい」


「本当だって」


ちょうどそのとき、松がやってきた。


「何の話?」


結衣が楽しそうに答える。


「大樹が舞夜と秘密の会合を計画してるの」


「秘密の会合じゃない!」


松はにやりと笑った。


「じゃあ、デートか?」


「それも違う!」


結衣と松は顔を見合わせた。


そして、声をそろえて言った。


「はいはい」


「お前らな……」


思わず笑ってしまった。


これも、三年生になってからの変化なのかもしれない。


以前なら、舞夜のことを話題にされるだけで、もっと恥ずかしがっていた気がする。


けれど、今は少し違う。


彼女が自分にとって特別な存在だということを、無理に隠そうとは思わなくなっていた。



───



一時間目の授業が始まった。


僕は真面目に集中しようとした。


そして、今回は十分钟ほど頑張ることができた。


……いや、十分钟って短すぎるだろ。


そのあと、僕の視線は自然と時計へ向かっていた。


休み時間までは、まだずいぶんある。


思わずため息が漏れた。


「誰かを待っているのか?」


突然、先生に声をかけられた。


どうやら、時計ばかり見ていたことに気づかれたらしい。


「い、いえ」


「なら、授業に集中しなさい」


「はい、先生」


隣のほうから、結衣が必死に笑いをこらえている気配がした。


……あとで覚えてろよ。


そんなことを考えながらも、僕は何とか授業に集中し直した。


そして、ようやくチャイムが鳴った。


僕は急いで教科書を片づけ始める。


「大樹!」


「何?」


結衣が呆れたように僕を見ていた。


「そんなに急がなくてもいいでしょ」


「急いでないよ」


「歩くの、速すぎるから」


「それは……」


言いかけて、僕は口を閉じた。


舞夜に会いに行くから。


そう言いそうになったからだ。


結衣は、そんな僕の反応を見逃さなかった。


「……会いに行くんでしょ?」


「うん」


もう、否定する意味もなかった。


「行ってらっしゃい」


結衣は笑いながら手を振った。


僕は教室を出た。


二つの教室をつなぐ廊下へ向かうと、ちょうど舞夜も同じタイミングで出てきたところだった。


僕たちの目が合う。


そして、どちらからともなく笑顔になった。


「大樹くん」


「舞夜」


僕は彼女のそばへ歩み寄った。


「待った?」


「ううん。大樹くんは?」


「僕も待ってないよ」


「じゃあ、ちょうど同じタイミングだったんだね」


「そうみたいだね」


舞夜は嬉しそうに微笑んだ。


「私、こういうの好きだな」


「こういうの?」


「うん。こうやって、ちゃんと会えること」


僕は少し考えた。


確かに、特別なことではない。


ただ休み時間になって、廊下で待ち合わせただけだ。


それでも、嬉しかった。


今までは、同じ教室にいるから自然と会えていた。


けれど、今は違う。


会いたいと思って、自分から会いに行く。


そして、相手も自分に会いに来てくれる。


もしかしたら、だからこそ、こうして顔を合わせる瞬間が特別に感じられるのかもしれない。


「じゃあ、これから毎日こうしようか」


僕が言うと、舞夜は少しだけ目を見開いた。


「毎日?」


「うん。できる限りはね」


舞夜は一瞬きょとんとしたあと、嬉しそうに笑った。


「……約束だよ?」


「約束」


そう答えると、彼女は満足そうに頷いた。


僕たちは並んで廊下を歩き始めた。


たった数分の休み時間。


それでも、こうして一緒に過ごせることが嬉しい。


そして僕は、ようやく気づいた。


僕たちの新しい日常は、もう始まっているのだ。


これまでは、同じ教室にいるから一緒にいられた。


けれど、これからは違う。


一緒にいたいと思うから、自分たちで会いに行く。


そんな小さな変化が、僕たちの関係を少しずつ変えていくのかもしれない。


……いや。


もしかしたら、変わるというよりも。


今まで気づかなかった気持ちを、もっとはっきりと感じられるようになるのかもしれない。


舞夜が隣で笑っている。


僕も、自然と笑顔になっていた。


同じ教室にいるから一緒にいるのではなく。


一緒にいたいから、僕たちはお互いを探す。


そう考えると、不思議なくらい、彼女との距離が近くなったような気がした。

第311話を読んでくださって、ありがとうございます!


新しいクラスにも少しずつ慣れ始めた大樹。

舞夜と会うために自分から行動することが、新しい日常になってきました。


これから二人がどんな時間を重ねていくのか、引き続き見守っていただけたら嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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