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変わらない想いと明日の約束

授業が終わると、僕はゆっくりと帰り支度を始めた。


今日は、どこか不思議な一日だった。


特別な出来事があったわけじゃない。

大きな事件が起きたわけでもない。

誰かと喧嘩をしたわけでも、何か問題が起きたわけでもなかった。


それなのに、今日という日が何か新しいことの始まりだったような気がしていた。


三年生。


別々になった教室。


新しい日常。


そして、舞夜との間にできた小さな距離。


「大樹」


机のそばに結衣がやってきた。


「また舞夜を待つの?」


「うん」


「じゃあ、私は松と麻美と一緒に帰るね」


「分かった」


結衣は笑顔で手を振った。


「また明日ね」


「うん、また明日」


すると、松が少し離れたところから声を上げた。


「勉強するのも忘れるなよ!」


「お前もな」


「俺は別だ」


「何でだよ?」


松は妙に真剣な顔で答えた。


「俺には優先事項があるからな」


結衣が不思議そうに首を傾げる。


「優先事項って?」


松は胸を張った。


「三年生を無事に生き延びることだ!」


「何それ!」


結衣が笑い出した。


「まあ、頑張ってね」


「おう!」


三人が楽しそうに歩いていくのを見送ってから、僕は廊下へ目を向けた。


それから、数分ほど待った。


やがて、見慣れた姿が現れた。


「大樹くん」


「やあ」


「待った?」


「いや、全然」


舞夜は少しだけ頬を膨らませた。


「大樹くん、いつもそう言うよね」


「本当に待ってないからね」


「ふふっ。そういうことにしておくね」


彼女は嬉しそうに笑った。


僕たちは一緒に学校を出た。


しばらくの間、特に会話をすることもなく、並んで歩いた。


けれど、沈黙は少しも気にならなかった。


隣に舞夜がいる。


それだけで、今日一日の疲れが少しずつ和らいでいくような気がした。


「ねえ、大樹くん」


やがて、舞夜が口を開いた。


「今日って、何だか変な感じだったね」


「うん。僕もそう思う」


「でも、ちょっと楽しかった」


「楽しかったの?」


舞夜は僕を見上げた。


「うん。今日一日、休み時間に大樹くんと会うたびに、何だか特別なことをしてるみたいに感じたの」


僕は微笑んだ。


「……僕もだよ」


今までは、同じ教室にいることが当たり前だった。


だから、わざわざ会いに行く必要なんてなかった。


でも、今は違う。


会いたいと思ったら、自分から足を運ぶ。


そして、相手も自分に会いに来てくれる。


その小さな変化が、思っていた以上に嬉しかった。


僕たちは再び歩き始めた。


「それでね、大樹くん」


「ん?」


「明日は何をしようか?」


「明日?」


「うん」


舞夜は期待するような目で僕を見つめた。


「何かしたいことがあるの?」


「写真を撮りたい!」


……やっぱり、それか。


「もう?」


「だって、せっかく買ったカメラだもん。もっと思い出を残さなきゃ!」


舞夜は楽しそうに笑った。


僕は鞄から、昨日買ったばかりの小さなカメラを取り出した。


「それなら、撮る場所を考えないとね」


舞夜は少し考え込んだ。


「じゃあ、放課後に公園へ行くのはどう?」


「いいね」


「本当?」


「うん。僕も行きたい」


舞夜の顔がぱっと明るくなった。


「じゃあ、約束だよ?」


そう言って、彼女は小指を差し出してきた。


僕はその小指を見つめた。


「……また約束?」


「うん。小さな約束!」


舞夜は得意げに頷いた。


僕は苦笑しながら、自分の小指を絡めた。


「分かった。約束」


舞夜は満足そうに笑った。


「えへへ。楽しみだなあ」


その笑顔を見ていると、明日が来るのが少しだけ待ち遠しくなった。


僕たちは、そのまま駅まで歩いていった。


駅の入り口に着くと、舞夜が足を止めた。


「大樹くん」


「どうしたの?」


「今日は、会いに来てくれてありがとう」


僕は少し驚いた。


「そんなの、お礼を言うことじゃないよ」


「ううん。言いたいの」


舞夜は優しく微笑んだ。


「だって、クラスが別々になっても、何も変わってないんだって思えたから」


僕は彼女を見つめた。


「……何も変わってないよ」


そう答えると、舞夜は少しだけ俯いた。


「そっか」


そして、嬉しそうに笑った。


「それが聞きたかったの」


ちょうどそのとき、舞夜が乗る電車がホームに到着した。


彼女は乗り込む前に、首元のペンダントへそっと触れた。


「じゃあ、また明日ね」


「うん。また明日」


「カメラ、忘れないでね?」


「忘れないよ」


舞夜は満足そうに頷くと、電車に乗り込んだ。


扉が閉まり、電車がゆっくりと動き始める。


僕はその姿が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。


やがて電車が見えなくなると、ポケットの中でスマートフォンが震えた。


画面を見ると、舞夜からメッセージが届いていた。


『もう明日が楽しみだよ』


僕は思わず笑みを浮かべた。


『僕もだよ』


そう返信してから、スマートフォンをしまい、家へ向かって歩き始めた。


こうして、三年生になった最初の日が終わった。


帰り道、僕はふと考えた。


去年一年間で、僕は大切なことを学んだ気がする。


心に残る思い出は、必ずしも大きな出来事から生まれるわけじゃない。


何気ない会話。


一緒に撮った写真。


分け合った飲み物。


小指を絡めて交わした約束。


そして、放課後に並んで歩く時間。


そんな小さな瞬間が、いつの間にか忘れられない思い出になっている。


今、僕たちの教室は別々になった。


これからは、今までとは違う方法で会う時間を作っていかなければならない。


でも、それはきっと悪いことじゃない。


会いたいと思うから、会いに行く。


一緒にいたいと思うから、隣を歩く。


そうして、二人で新しい思い出を増やしていけばいい。


……そして、もう一つ。


僕はまだ、舞夜に伝えられていない気持ちを抱えている。


それが何なのか、本当は自分でも分かっているのかもしれない。


ただ、まだ言葉にできずにいるだけで。


それでも、未来のことを考えるとき。


僕は今も、変わらず舞夜が隣にいる姿を思い浮かべていた。

第310話を読んでくださって、ありがとうございます!


三年生になっても変わらない二人の気持ち。

そして、明日の公園で新しい写真を撮る約束をしました。


大樹がまだ言葉にできずにいる想いも、少しずつ形になっていくのでしょうか。


これからも二人の歩みを見守っていただけたら嬉しいです!

次回もよろしくお願いします!

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