↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
306/313

いつもと違う休み時間

二度目の休み時間は、思っていたよりも早くやってきた。


僕はまだ、新しいクラスに慣れようとしているところだった。


先生は授業の時間割や、三年生になってからの活動、それから今年度に変更されるいくつかのことについて説明していた。


話の内容はちゃんと聞いていたつもりだ。


……ただ、どうしても視線が時計へ向かってしまう。


あと何分だろう。


そんなことばかり考えているうちに、ようやくチャイムが鳴った。


結衣が席を立つ。


「舞夜のところに行くの?」


「うん」


「やっぱりね」


松が笑い声を上げた。


「チャイムが鳴り終わってもいないのに、もう行く気かよ」


「待たせたくないんだ」


そう答えると、結衣が微笑んだ。


「はいはい。じゃあ、行っておいで」


僕は二人に軽く手を振り、教室を出た。


今回は、まっすぐ三年二組へ向かったわけじゃない。


その前に、自動販売機へ立ち寄った。


飲み物を二本買う。


一本は自分の分。


もう一本は、舞夜のために。


彼女の好きな飲み物を選んでから、僕は三年二組の教室へと向かった。


教室の前に着くと、舞夜が凛奈と話しているのが見えた。


僕が顔を出したことに、舞夜はすぐに気づいた。


彼女の目が、ぱっと輝く。


「大樹くん」


「こんにちは」


近づいて、買ってきた飲み物を差し出した。


「これ、飲みたいかなと思って」


舞夜はボトルと僕の顔を交互に見た。


「私に?」


「うん」


彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう」


その様子を見ていた凛奈が、感心したように言った。


「気が利くねえ」


舞夜の頬が、ほんのり赤くなる。


「凛奈ちゃん……」


「何も言ってないよ?」


「絶対、何か考えてるでしょ」


凛奈は両手を上げて、降参するような仕草をした。


「はいはい。ちょっと席を外してあげるから」


そう言って、彼女は少し離れたところへ行ってしまった。


……気を遣ってくれたのだろうか。


それとも、あとでからかうための準備だろうか。


たぶん、両方だ。


舞夜はもう一度、手元の飲み物に目を落とした。


「私の好きなもの、覚えていてくれたんだね」


「いつも買ってるから」


「覚えてたの?」


「もちろん」


そう答えると、舞夜はますます嬉しそうに笑った。


「じゃあ、大樹くんはちゃんと私のことを見てくれてるんだね」


「……どういう意味?」


「何でもないよ」


舞夜は楽しそうに言って、ボトルに口をつけた。


一口飲んでから、小さく頷く。


「おいしい」


僕は壁に背中を預けた。


「新しいクラスはどう?」


「うん、いい感じだよ」


「本当に?」


舞夜は素直に頷いた。


「本当だよ」


それから、ほんの少しだけ間を置いた。


「……ただね」


「ただ?」


舞夜は僕を見上げた。


「ちょっとだけ、大樹くんが恋しい」


思わず、顔が熱くなった。


「まだ一時間も経ってないのに?」


「分かってるよ」


舞夜はくすっと笑った。


「だから、『ちょっとだけ』って言ったの」


「そ、そうなんだ……」


あまりにも自然に言われて、僕は思わず笑ってしまった。


すると舞夜は、今度は僕の教室があるほうへ目を向けた。


「大樹くんは?」


「え?」


「私のこと、恋しくなった?」


その質問に、僕は少しだけ考えた。


……いや、考える必要なんてなかった。


「僕も、舞夜に会いたかったよ」


今度は舞夜が驚く番だった。


「本当に?」


「うん」


舞夜は俯いた。


頬が、さっきよりもずっと赤くなっている。


「……嬉しい」


その声があまりにも小さくて、僕は聞き返しそうになった。


でも、彼女の表情を見れば十分だった。


しばらく、二人の間に静かな時間が流れた。


そのとき、舞夜が首元へ手を伸ばした。


指先が、小さなペンダントに触れる。


星と花をかたどった飾りが、廊下の明かりを受けてきらりと輝いた。


「ちゃんと持ってきたんだね」


僕が言うと、舞夜は頷いた。


「うん。見てたんだ?」


「もちろん」


「えへへ……」


舞夜はペンダントを指先でそっとつまんだ。


「三年生になった最初の日だから、一緒にいてほしかったの」


その言葉に、胸の奥が温かくなった。


「似合ってるよ」


「ありがとう」


舞夜はペンダントを大切そうに握った。


「これを見るたびに、ホワイトデーのことを思い出すんだ」


「僕もだよ」


「あの日、二人で話したこともね」


「……うん」


あの日のことを思い出す。


手作りのチョコレートを渡したこと。


ペンダントを彼女の首にかけたこと。


そして、これからも一緒に思い出を作っていきたいと、二人で話したこと。


どれも、簡単には忘れられない。


僕たちは顔を見合わせた。


二人の間には、何かが変わり始めている。


それが何なのか、まだはっきりとは分からない。


ただ、確かに感じていた。


新しい学年が始まったからだろうか。


別々のクラスになったからだろうか。


それとも、ここ数か月の間に積み重ねてきた時間が、少しずつ僕たちの気持ちを変えてきたからだろうか。


どれも、きっと間違いではない。


少なくとも、もう以前と同じではいられない。


僕たちの気持ちは、無視できないところまで来ているのかもしれなかった。


そのとき、再びチャイムが鳴った。


舞夜が小さく息を吐く。


「戻らなきゃ」


「そうだね。僕も戻らないと」


せっかく会えたのに、休み時間はあっという間に終わってしまう。


舞夜は教室へ入る直前、くるりと振り返った。


「大樹くん」


「どうしたの?」


「放課後、また会おうね」


「うん。もちろん」


舞夜は嬉しそうに笑った。


「約束だよ?」


「約束」


その言葉を聞いて満足したのか、彼女は教室へ戻っていった。


僕も自分の教室へ向かって歩き出す。


廊下の時計を見ると、まだ授業は何時間も残っていた。


……放課後まで、まだ結構あるな。


そんなことを考えてから、僕は小さく笑った。


別々のクラスになったことで、彼女に会うまでの時間は、以前より少し長くなる。


でも、その分だけ。


一日の中で交わす短い言葉も、ほんの少しの笑顔も、こうして一緒に過ごす休み時間も、今まで以上に特別に感じられるのかもしれない。


会いたいと思う。


会いに行けば、彼女は笑ってくれる。


そして、彼女もまた、僕に会いたいと思ってくれている。


それだけで、今日は十分に嬉しかった。


……もしかしたら。


別々のクラスになることは、悪いことばかりじゃないのかもしれない。

第306話を読んでくださって、ありがとうございます!


短い休み時間でも、会えれば嬉しい。

そんな二人の気持ちが、少しずつ近づいていますね。


別々のクラスで始まった三年生の毎日。

これから二人がどんな思い出を重ねていくのか、ぜひ見守ってください!


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。