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残しておきたい思い出

太陽がゆっくりと傾き始めていた。


空はオレンジ色に染まり、僕たちは夕暮れの公園を歩いていた。


舞夜は、今もペンダントを身につけている。


ときどき指先でそっと触れているのは、そこにあることを確かめているからだろうか。


「……そんなに気に入った?」


僕が尋ねると、舞夜は微笑んだ。


「はい。とっても」


「それならよかった」


僕たちは、しばらくそのまま歩き続けた。


無理に話をする必要はなかった。


今日、あれだけたくさんのことを話したからだろうか。


隣にいるだけで、不思議と心が落ち着いた。


やがて、舞夜が足を止めた。


「大樹くん」


「どうしたの?」


彼女は僕のほうを向いた。


「……写真を撮りたいです」


「写真?」


「はい」


舞夜はスマートフォンを取り出した。


「今日のことを、ちゃんと残しておきたいんです」


僕は笑顔でうなずいた。


「いいよ」


僕たちは、夕日が木々の間から差し込む場所に並んだ。


舞夜がスマートフォンを構える。


「もう少し、こっちに来てください」


「これくらい?」


「もうちょっとです」


僕は小さく一歩、彼女に近づいた。


肩と肩が触れ合う。


舞夜は満足そうに微笑んだ。


「……完璧です」


カシャッ。


シャッター音が響いた。


撮影を終えた舞夜は、すぐに画面を確認した。


「見てください」


僕も隣から画面を覗き込む。


そこには、笑顔で並ぶ僕たちの姿が写っていた。


そして、二人の間には、少しだけ見えにくいけれど、星と花のペンダントが輝いている。


「いい写真だね」


「はい」


舞夜は大切そうに写真を保存した。


「……これだけは、絶対に消しません」


「絶対?」


「絶対です」


僕は笑った。


「じゃあ、僕も消さないよ」


舞夜はスマートフォンをしまった。


「今日は、ありがとうございました」


「こちらこそ。プレゼントを受け取ってくれてありがとう」


「……違います」


舞夜は小さく首を振った。


「準備してくれたことに、ありがとうって言いたいんです」


その言葉に、僕は自然と笑顔になった。


「それなら、お互い様だね」


「お互い様?」


「舞夜はバレンタインにチョコレートをくれて、僕はホワイトデーにチョコレートを渡したから」


舞夜はくすっと笑った。


「そうですね」


けれど、彼女は胸元のペンダントに目を落とした。


「……でも、これは別です」


「どうして?」


「だって、特別すぎますから」


「それなら、今日の思い出ってことにしよう」


舞夜が顔を上げた。


「今日の思い出……?」


「うん。ホワイトデーの思い出」


舞夜は嬉しそうに微笑んだ。


「……じゃあ、これが最初の一つですね」


「最初?」


「はい。これから、もっとたくさん作るんです」


彼女は僕のほうへ少し近づいた。


「まだ、約束したことがたくさんありますから」


僕は、これまでの会話を思い返した。


旅行。


お祭り。


写真。


また一緒に行くお寺。


そして、何気ない放課後を一緒に過ごすこと。


これから作っていきたい、数え切れないほどの思い出。


「……そうだね」


「だから、途中で後悔しちゃ駄目ですよ?」


「後悔なんてしてないよ」


「本当ですか?」


「本当」


舞夜は満足そうにうなずいた。


「それなら、決まりです」


「何が?」


「これからも、二人で思い出を作っていくんです」


僕は微笑んだ。


「うん。そうしよう」


僕たちは再び歩き始め、公園の出口へと向かった。


空は、いつの間にか暗くなり始めていた。


駅に着くと、舞夜が足を止めた。


「……明日も会えますね?」


「もちろん。学校で会えるよ」


「それから……」


彼女は、もう一度ペンダントに触れた。


「明日も、これをつけてきますね」


「……見たいな」


「それなら、ちゃんと私を見てください」


「それは簡単だよ」


舞夜がぴたりと動きを止めた。


そして、みるみる頬を赤くする。


「……大樹くんって、思っていたより大胆ですね」


「えっ? いや、そういう意味じゃ……」


「もう遅いです」


舞夜は楽しそうに笑った。


僕もつられて笑ってしまった。


やがて、舞夜が乗る電車がホームに到着した。


乗り込む直前、彼女が振り返って手を振る。


「大樹くん!」


「うん?」


「ハッピーホワイトデー!」


僕も笑顔で手を振り返した。


「ハッピーホワイトデー、舞夜!」


扉が閉まり、電車がゆっくりと動き始める。


その姿が見えなくなるまで、僕はしばらくホームに立っていた。


やがてスマートフォンを取り出す。


画面には、さっき二人で撮った写真が表示されていた。


僕は思わず笑みをこぼした。


バレンタインは、一つのチョコレートから始まった。


そして、ホワイトデーは、一つのペンダントで締めくくられた。


けれど、僕にとって本当に大切だったのは、どちらの贈り物でもない。


その間にあった、すべての出来事だ。


何気ない会話。


二人で交わした笑顔。


贈り物のために頑張った時間。


これからの約束。


そして、ためらうことなく僕の手を取ってくれた舞夜のこと。


家へ向かって歩きながら、僕は彼女の言葉を思い出した。


『大樹くんは、私に恋をする必要があります』


もしかしたら、僕はまだ告白をしたわけではない。


僕たちが正式に恋人になったわけでもない。


それでも、確かに何かが変わった。


そして、今度こそ自信を持って言えることがあった。


この変化を、止めたいとは思わない。


これからも舞夜の隣を歩きたい。


もっとたくさんの思い出を作りたい。


そして、少しずつ、自分たちの気持ちがどこへ向かっていくのかを知りたい。


そんな未来を、僕は楽しみにしていた。

読んでいただき、ありがとうございます!


ホワイトデーの最後に、二人は新しい思い出を写真に残しました。


まだ恋人同士ではない二人ですが、その距離は確実に近づいています。


これからも二人の歩みを見守っていただけたら嬉しいです!

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