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君のためにしたこと

舞夜は、受け取ったばかりの小さなペンダントを、まだじっと見つめていた。


銀色の細いチェーンでつながれた星と花。夕暮れの光を受けて、その繊細な細工が柔らかく輝いている。


「……本当に、きれい」


「気に入ってくれてよかった」


舞夜が顔を上げた。


「大樹くん……これ、いつ買ったんですか?」


僕は一瞬、言葉に詰まった。


ついに、本当のことを話すときが来たらしい。


「……少し前だよ」


「それで、どうやって買ったんですか?」


「えっと……」


僕は気まずくなって、少しだけ視線をそらした。


「貯めたお金で買ったんだ」


舞夜は不思議そうに首を傾げた。


「お金を貯めた……?」


僕はうなずいた。


「放課後にアルバイトをしていたんだ」


舞夜の目が大きく見開かれた。


「アルバイト……?」


「うん」


「だから最近、あんなに疲れていたんですか?」


「……まあ、少しね」


舞夜はゆっくりと視線を落とし、胸元のペンダントを見つめた。


「それじゃあ……」


彼女は小さな箱をそっと握りしめた。


「私のために、そこまでしてくれたんですか?」


「うん」


舞夜の表情が変わった。


ただ驚いているだけではなかった。


胸の奥から何かが込み上げてきたような、そんな顔だった。


「……大樹くん」


「適当に選んだものを渡したくなかったんだ」


僕は一度、深く息を吸った。


「バレンタインに舞夜からチョコレートをもらってから、ずっと考えていたんだ。あのプレゼントには、どんな意味があるんだろうって」


舞夜は黙って僕の話を聞いていた。


「ただのチョコレートじゃなかったよね。舞夜が僕のことを考えながら、自分で作ってくれたものだった。時間をかけて、何度も失敗して……それでも、最後まで頑張ってくれた」


舞夜は恥ずかしそうに微笑んだ。


「……どうして失敗したことまで知っているんですか?」


「舞夜が話してくれたからだよ」


「あっ……」


彼女は小さく笑った。


「そうでしたね」


僕もつられて笑った。


「だから僕も、同じくらい意味のあるものを贈りたかったんだ」


舞夜は指先でペンダントを優しくなぞった。


「それで、星と花を選んだんですね?」


「うん」


「どうしてですか?」


僕は彼女の胸元で輝くペンダントを見つめた。


「星は、遠く離れていても見上げられるものだから。舞夜がどこにいても、そこにあるものだと思ったんだ」


舞夜が少しだけ顔を上げた。


「……それで、花は?」


「それは……きれいだと思ったから」


「……それだけですか?」


「うん」


「ちょっと単純ですね」


「自分でもそう思うよ」


二人で顔を見合わせ、笑った。


けれど、僕はすぐに真面目な顔に戻った。


「でも、舞夜にずっと大切にしてもらえるものを贈りたかったんだ」


舞夜が静かに僕を見つめる。


「このペンダントを見るたびに、今日のことを思い出してほしいと思った。僕が、舞夜とこれからも一緒に思い出を作っていきたいと思っていることも」


彼女の紫色の瞳が、まっすぐに僕を捉えた。


「……私と、これからも?」


僕はうなずいた。


「そうだよ」


舞夜はペンダントを胸元でそっと握りしめた。


「……大切にします」


「そんなに気を遣わなくてもいいよ」


「いいえ」


彼女は微笑んだ。


「だって、大樹くんが私にくれたものですから」


その言葉に、僕の頬がじんわりと熱くなった。


舞夜の頬も、ほんのり赤く染まっている。


しばらく、僕たちは何も言わずに見つめ合っていた。


やがて、舞夜が小さな声で尋ねた。


「……つけてもらってもいいですか?」


「もちろん」


舞夜はくるりと背を向け、長い濃い紫色の髪を片側へ寄せた。


僕は慎重にペンダントを持ち上げる。


首の後ろに手を伸ばし、チェーンを留めようとするけれど、緊張のせいか指先が少し震えていた。


「……これで大丈夫かな?」


「はい」


舞夜がゆっくりと振り返った。


小さな星が胸元に収まり、その隣で花の飾りが静かに揺れている。


舞夜は自分の胸元に視線を落とした。


そして、嬉しそうに微笑んだ。


「……とても気に入りました」


その笑顔を見た瞬間、僕はようやく気づいた。


何週間もかけて準備してきたプレゼントそのものよりも、今、目の前にある舞夜の幸せそうな表情のほうが、ずっと大切なのだと。


結局、僕が最初から本当に望んでいたのは、たった一つだった。


舞夜に、喜んでもらうこと。


ただ、それだけだったんだ。

読んでいただき、ありがとうございます!


大樹がペンダントに込めた想いを、ついに舞夜へ伝えることができました。


何週間もかけて準備した贈り物。その先にあったのは、舞夜の笑顔でした。


二人のホワイトデーは、まだ終わりません。次回もぜひお楽しみください!

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