星と花
舞夜は、まだチョコレートの入った小さな箱を両手で持っていた。
一つ食べて、もう一つ。
そして、そのたびに僕の顔を見上げて微笑むものだから、僕の緊張はどんどん高まっていった。
「本当においしいです」
「よかった」
「でも……」
「でも?」
舞夜が少しだけ首を傾げた。
「大樹くん、まだ何か隠していますよね?」
僕は固まった。
「……どうしてそう思うの?」
「ここに来てから、ずっと鞄を気にしているからです」
「……」
もう、否定しても意味がなかった。
舞夜は僕のことを、よく分かっている。
僕は小さく息を吐いた。
「……そのとおりだよ」
再び鞄を開ける。
今度は、丁寧に包装した小さな箱を取り出した。
チョコレートの箱よりも、ずっと小さい。
舞夜は不思議そうにそれを見つめた。
「これは……?」
「本当に渡したかったプレゼントだよ」
「……もう一つ?」
僕はうなずいた。
「うん」
そして、彼女に差し出した。
舞夜は両手で受け取り、しばらく箱を見つめていた。
「……開けてもいいですか?」
「もちろん」
彼女はゆっくりと包装を解き、小さな箱を開けた。
中に入っていたのは、繊細なデザインのペンダントだった。
小さな星と、一輪の花。
華美すぎず、どこか控えめなデザイン。
だからこそ、僕はこれを選んだのだ。
舞夜は完全に言葉を失っていた。
「……大樹くん」
「ずっと手元に残しておけるものを、贈りたかったんだ」
彼女はそっとペンダントを持ち上げた。
夕暮れの光を受け、小さな星がきらりと輝く。
「……とても、きれいです」
「気に入ってくれたなら嬉しいよ」
舞夜は指先で、花の部分を優しくなぞった。
「どうして、星と花なんですか?」
その質問には、何度も答えを考えていた。
「星は、舞夜と一緒に夜空を見上げたときのことを思い出したんだ」
舞夜は黙って僕の話を聞いていた。
「それから、花は……」
僕はペンダントに視線を落とした。
「僕たちが一緒に作ってきた思い出を表せたらいいなと思って。時間が経つにつれて、少しずつ増えていくものだから」
舞夜はうつむいた。
頬が、ゆっくりと赤く染まっていく。
「……そんなの、素敵すぎます」
「素敵すぎる?」
「はい……」
舞夜はペンダントを胸元にそっと寄せた。
「私、すごく特別な人になった気分です」
「……舞夜は、特別な人だよ」
考えるより先に、言葉が口からこぼれていた。
舞夜が勢いよく顔を上げる。
僕たちは、じっと見つめ合った。
心臓の音が、さっきよりもずっと大きく聞こえる。
「……大樹くん」
「ご、ごめん。今のは……」
「謝らないでください」
舞夜は微笑んだ。
小さな、けれど心からの笑顔だった。
「……嬉しいです」
「ペンダントが?」
「それだけじゃありません」
舞夜は胸元に手を添えた。
「チョコレートも、このプレゼントも。それから、大樹くんが私のことを考えてくれたことも」
そして、もう一度、小さな箱に目を向けた。
「……これ、つけてもいいですか?」
「もちろん」
舞夜はペンダントを僕に渡した。
それから、くるりと背を向け、長い濃い紫色の髪をそっと片側へ寄せた。
「……つけてもらえますか?」
「うん」
僕は慎重にペンダントを持ち上げた。
首の後ろに手を伸ばす。
留め具をつけようとする指先が、わずかに震えていた。
何とか留め終えると、舞夜がゆっくりと振り返った。
小さな星と花が、彼女の胸元で揺れている。
「……どうですか?」
僕は舞夜を見つめた。
「すごく似合ってるよ」
舞夜はペンダントに触れ、嬉しそうに微笑んだ。
「……じゃあ、これから使いますね」
「本当に?」
「はい」
彼女はまっすぐに僕の目を見た。
「大樹くんのことを思い出せるものを、いつも身につけていたいですから」
その言葉に、僕は何も返せなくなった。
ただ、笑顔を浮かべることしかできなかった。
そして、その瞬間、ようやく気づいた。
この小さなペンダントは、僕が想像していた以上に、大切な意味を持つものになったのだと。
読んでいただき、ありがとうございます!
ついに大樹が、舞夜へ星と花のペンダントを贈りました。
首元に輝く小さな贈り物と、二人の間に交わされた言葉。今日という日は、きっと二人にとって忘れられない思い出になるでしょう。
次回もぜひお楽しみください!




