↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
298/323

チョコレートのお返し

午前中の授業は、思っていたよりも早く終わった。


……いや、時間ばかり気にしていた僕の感覚がおかしかったのかもしれない。


時計を見るたびに、授業が終わるまでの時間が途方もなく長く感じられた。


昼休みになると、舞夜が僕の向かいに座った。


「大樹くん」


「ん?」


「まだ、鞄の中にありますか?」


「うん」


「プレゼント……ですよね?」


僕はうなずいた。


「ちゃんと持ってきたよ」


舞夜は嬉しそうに微笑んだ。


「よかったです」


「緊張してる?」


「……すごく」


「僕もだよ」


すると、舞夜は小さく笑った。


「それなら、おそろいですね」


しばらく、二人で静かな時間を過ごした。


やがて舞夜が、そっと机の上に両手を置いた。


「……大樹くん。少し、伝えたいことがあります」


「何?」


「ありがとうございます」


「えっ? 何に対して?」


「私のことを考えてくれたことです」


その言葉に、僕は少しだけ気恥ずかしくなった。


嫌な気持ちになったわけじゃない。


むしろ、逆だった。


放課後にカフェで働いた日々を思い出したからだ。


疲れて帰った夜。


貯めたお金を数えて、まだ足りないと肩を落とした日。


それでも、どうして頑張ろうと思えたのか。


その理由も、今ならはっきりと分かる。


「……まだ渡してないんだけど」


僕がそう言うと、舞夜は優しく微笑んだ。


「でも、大樹くんが私のために準備してくれたことは、もう分かっていますから」


そして、少し恥ずかしそうに付け加えた。


「それだけでも、私は嬉しいです」


僕は思わず視線を落とした。


「……それでも、ちゃんと渡したいんだ」


「はい」


舞夜は嬉しそうにうなずいた。


「それなら、楽しみに待っていますね」


───


やがて午後の授業も終わり、ホワイトデーの本番が近づいてきた。


終業のチャイムが鳴った瞬間、僕の心臓が大きく跳ねた。


ゆっくりと帰り支度をする。


舞夜も鞄をまとめ終えたところだった。


そこへ結衣が通りかかった。


「さて、いよいよだね」


「結衣……」


「大丈夫。邪魔はしないから」


彼女は楽しそうに笑い、そのまま教室を出ていった。


舞夜は結衣の後ろ姿を見つめた。


「結衣、最初から全部知っていたんですよね?」


「たぶんね」


「本当に、隠し事ができない人です」


「同感だよ」


僕たちは顔を見合わせて笑った。


やがて教室から生徒たちの姿が減り、僕たちも立ち上がった。


「行きましょうか?」


「うん」


二人で学校を出る。


数分ほど歩いたところで、静かな小さな公園にたどり着いた。


そこは、バレンタインの日に舞夜が僕にチョコレートを渡してくれた場所だった。


それに気づいた舞夜が、足を止めた。


「……大樹くん」


「ここなら、いいかなと思って」


舞夜は公園を見渡し、それから僕に微笑みかけた。


「はい。私も、ここがいいです」


僕たちはベンチに腰掛けた。


しばらく、どちらも口を開かなかった。


そして、僕は鞄を開けた。


中から小さな箱を取り出す。


両手で大切に持ち、舞夜のほうを向いた。


「舞夜」


彼女が僕を見つめる。


「ハッピーホワイトデー」


僕は箱を差し出した。


舞夜は両手で、そっと受け取った。


「……開けてもいいですか?」


「もちろん」


彼女はゆっくりと蓋を開けた。


中には、小さなハート型のチョコレートがいくつも並んでいた。


どれも完璧というわけではない。


形が少し歪んでいるものもあれば、一つずつ微妙に違うものもある。


舞夜は何も言わず、しばらくチョコレートを見つめていた。


僕は少し緊張しながら口を開いた。


「……僕が作ったんだ」


舞夜の目が大きく見開かれた。


「大樹くんが?」


「うん」


「これ、全部……自分で作ったんですか?」


「まあ……作ってみた、というか」


正直に言えば、何度か失敗もした。


けれど、それを今ここで詳しく説明するのは、少し恥ずかしかった。


舞夜はチョコレートを一つ、そっと手に取った。


しばらく眺めてから、微笑んだ。


「……かわいいです」


「ちょっと形が悪いものもあるけど」


「そんなことありません」


舞夜は首を横に振った。


「私は、こういうのが好きです」


「……本当に?」


「はい。本当です」


そう答えると、彼女はチョコレートを一つ口に運んだ。


僕は固唾をのんで、その反応を待つ。


舞夜は一瞬だけ目を閉じた。


そして、ゆっくりと笑顔になった。


「……おいしいです」


その一言で、ようやく息ができた気がした。


「よかった……」


思わず本音が漏れる。


舞夜は僕を見つめた。


「大樹くん」


「ん?」


「ありがとうございます」


彼女は、今日一番の笑顔を見せてくれた。


その笑顔を見た瞬間、何週間も頑張ってきたことが、すべて報われた気がした。


けれど、まだ終わりじゃない。


鞄の中には、もう一つの箱が残っている。


本当に渡したかった贈り物は、まだ彼女に渡せていなかった。

読んでいただき、ありがとうございます!


大樹が初めて手作りしたチョコレート。少し不格好でも、舞夜は喜んでくれました。


けれど、本当の贈り物はまだこれからです。

大樹が選んだペンダントを見たとき、舞夜はどんな反応を見せるのでしょうか。


次回もぜひお楽しみください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。