ホワイトデーの朝
ついに、この日がやってきた。
ホワイトデー。
目覚まし時計が鳴る前に、僕は目を覚ました。
しばらく天井を見つめていたが、すぐに今日が何の日なのかを思い出す。
「……今日か」
勢いよく起き上がった。
机の上には、昨夜用意したプレゼントの箱が置いてある。
最後にもう一度、中身を確認した。
チョコレート。
メッセージカード。
そして、小さなペンダント。
どれも、ちゃんとそこにあった。
僕は丁寧に箱をしまい、鞄の中に入れた。
今日だけは、絶対に忘れるわけにはいかない。
……いや、正直なところ、忘れようとしても忘れられるはずがなかった。
何週間もかけて準備してきたのだから。
朝食を済ませ、家を出る。
学校へ向かう道すがら、僕は舞夜に何を伝えるべきか、ずっと考えていた。
いくつか言葉を考えてみたものの、どれもしっくりこない。
結局、最後にたどり着いた答えは一つだった。
飾った言葉を探す必要はない。
自分の気持ちを、素直に伝えればいい。
───
教室に着くと、舞夜はすでに来ていた。
窓際の席に座っていた彼女は、僕に気づくと顔を上げた。
「おはようございます、大樹くん」
「おはよう、舞夜」
彼女はにっこりと微笑んだ。
「今日は早いですね」
「うん。ちょっとね」
「よく眠れましたか?」
「……まあ、それなりに」
舞夜は小さく笑った。
「実は、私もあまり眠れませんでした」
「舞夜も?」
「はい」
「緊張してたの?」
そう尋ねると、彼女の頬がほんのり赤くなった。
「……少しだけ」
「ホワイトデーだから?」
舞夜は恥ずかしそうにうなずいた。
「はい」
僕は思わず笑顔になった。
「実は、僕もなんだ」
舞夜がじっとこちらを見つめる。
「大樹くん」
「うん?」
「昨日、準備しているって言っていたもの……」
彼女は少しためらってから、尋ねた。
「私のためのものですか?」
僕は自然と笑みを浮かべていた。
「うん。舞夜のためだよ」
舞夜の目が、わずかに大きくなる。
「……本当に?」
「本当だよ」
彼女はそっと視線を落とした。
そして、先ほどよりも大きな笑みを浮かべた。
「……それなら、楽しみに待っていますね」
「そんなに長くは待たせないよ」
「放課後ですか?」
「うん」
舞夜は嬉しそうにうなずいた。
「分かりました」
その笑顔を見ているだけで、僕まで嬉しくなった。
早く渡したい。
そう思う一方で、もう少しだけ、この時間が続いてほしいとも思ってしまう。
───
一時間目の授業。
僕は何とか集中しようとした。
……無理だった。
先生の話を聞いているつもりでも、気づけば放課後のことを考えてしまう。
隣を見ると、舞夜もあまり集中できていないようだった。
ときどき、僕たちの視線が重なる。
そのたびに、どちらからともなく微笑んでしまった。
そして休み時間。
結衣が舞夜の席へやってきた。
「それで?」
「何ですか?」
「今日なんでしょ?」
舞夜は少し恥ずかしそうにうなずいた。
「……はい」
「緊張してる?」
「すごく」
「大樹くんは?」
舞夜は僕の席へ視線を向けた。
「……大樹くんも、緊張していると思います」
結衣は楽しそうに笑った。
「それなら、ちょうどいいね」
「どうしてですか?」
「二人とも、同じ瞬間を待っているってことでしょ?」
舞夜は一瞬驚いたあと、嬉しそうに微笑んだ。
僕には二人の会話は聞こえなかった。
けれど、舞夜の表情を見ていると、何を話しているのか何となく想像できた。
僕は鞄の中にある箱を、そっと意識した。
胸の鼓動が、少しずつ速くなっていく。
何週間も、この日を待っていた。
働いた。
お金を貯めた。
チョコレートを作った。
プレゼントを選んだ。
そして、ようやく今日を迎えた。
残ることは、ただ一つ。
舞夜に、贈り物を渡すこと。
今度こそ、二人にとって忘れられない瞬間にしたかった。
読んでいただき、ありがとうございます!
ついにホワイトデー当日を迎えました。
準備を重ねてきた大樹と、彼からの贈り物を楽しみに待つ舞夜。
放課後、どんな時間が二人を待っているのでしょうか。
次回もぜひお楽しみください!




