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ホワイトデーの前夜

ホワイトデー前日の夜。


僕は最後にもう一度、プレゼントを確認していた。


小さな箱が、机の上に置かれている。


中には、自分で作ったチョコレート。そして、傷つかないように丁寧に保護した、星と花のペンダント。


その隣には、メッセージカードも入っていた。


僕はカードを手に取り、もう一度読み返す。


『ハッピーホワイトデー、舞夜。

チョコレートをありがとう。

そして、これまで一緒に作ってきた思い出をありがとう。

これからも、君と一緒にたくさんの思い出を作っていきたいです』


自然と笑みがこぼれた。


「……うん。これでいい」


もう書き直す必要はない。


僕はカードをプレゼントのそばに戻した。


そして、しばらく箱を見つめていた。


ここまで準備するのに、何週間もかかった。


けれど、明日になれば、ようやく舞夜に渡すことができる。


そう考えると、楽しみな気持ちが湧いてくる。


その一方で、渡す瞬間が近づくにつれて、緊張も大きくなっていた。


「……僕、何を緊張しているんだろう」


椅子に深く腰掛け、天井を見上げる。


舞夜がチョコレートを渡してくれたときも、きっと同じような気持ちだったのだろう。


今になって、彼女の気持ちがよく分かった。


プレゼントを拒まれるのが怖いわけじゃない。


自分の気持ちが、思っているとおりに伝わるのか。


それが不安なのだ。


そのとき、舞夜が以前に言ってくれた言葉を思い出した。


『私を喜ばせるために、特別なことをする必要はありません』


僕は小さく笑った。


「……だったら、素直に伝えればいいんだ」


箱をそっと閉じる。


明日、きちんと自分の気持ちを伝えよう。


───


翌朝。


僕はプレゼントを鞄の中に慎重にしまい、学校へ向かった。


教室に入ると、すぐに舞夜の姿が目に入った。


「おはようございます、大樹くん」


「おはよう、舞夜」


目が合うと、彼女はにっこりと微笑んだ。


「昨日はよく眠れましたか?」


「まあ、それなりに」


「それなりに、ですか?」


「ちょっと考え事をしていてね」


舞夜が不思議そうに首を傾げる。


「何を考えていたんですか?」


「秘密」


すると、彼女は小さく笑った。


「また秘密ですか」


「うん」


「それなら、楽しみに待っていますね」


思いがけない返事に、僕は少し驚いた。


「……気にならないの?」


「もちろん、気になりますよ」


舞夜は微笑んだ。


「でも、大樹くんが待っていてほしいと言うなら、待ちます」


「ありがとう」


舞夜は自分の席に座った。


けれど、授業が始まる直前、彼女の視線が僕の鞄に向いた。


「大樹くん」


「ん?」


「それって……私が思っているものですか?」


心臓が止まりかけた。


「えっ?」


「……何でもありません」


舞夜はにこっと笑った。


「忘れてください」


そう言って前を向く。


僕は誰にも気づかれないように、そっと息を吐いた。


危なかった……。


───


休み時間。


結衣が舞夜のところへやってきた。


「ねえ、見た?」


「何を?」


「大樹くんの鞄」


舞夜は小さくうなずいた。


「……うん」


「もしかして、あれって……」


「期待しすぎないようにしているんです」


舞夜は少しだけ視線を落とした。


結衣はそんな彼女を見て、楽しそうに笑う。


「でも、何かを期待しているんだね」


「……少しだけ」


「大樹くんから、何かもらえたら嬉しい?」


舞夜はしばらく黙っていた。


それから、恥ずかしそうに微笑んだ。


「はい」


「どんなプレゼントがいいの?」


「何でもいいです」


「チョコレートでも?」


舞夜は首を横に振った。


「いいえ。何でもいいんです」


「じゃあ、何が欲しいの?」


舞夜は教室の向こうにいる大樹を見つめた。


「……私のことを考えてくれたんだって、分かるものが欲しいです」


結衣は優しく笑った。


「それなら、もう分かっているんじゃない?」


舞夜はもう一度、大樹の姿を見た。


「……そうですね」


その表情には、期待と喜びが入り混じっていた。


───


放課後。


僕はいつもよりゆっくりと帰り支度をしていた。


鞄の中には、あの箱が入っている。


そっと触れてみる。


準備は、すべて整っていた。


「大樹くん」


舞夜が近づいてきた。


「どうしたの?」


「今日は、すぐに帰らなければいけませんか?」


僕は首を横に振った。


「いや、まだ大丈夫だよ」


舞夜は嬉しそうに微笑んだ。


「それなら……一緒に歩きませんか?」


「もちろん」


僕たちは一緒に教室を出て、校門まで歩いた。


その間、二人ともプレゼントについては何も話さなかった。


まだ、そのときではない。


そう思っていた。


校門に着いたところで、舞夜が足を止めた。


「大樹くん」


「うん?」


「明日はホワイトデーですね」


「そうだね」


舞夜は少しだけためらってから、尋ねた。


「……何か、準備しているんですか?」


僕は彼女を見つめた。


嘘をつくこともできた。


けれど、もうそんなことはしたくなかった。


「うん。準備しているよ」


舞夜の目が、わずかに大きくなった。


「誰かのために、ですか?」


僕は笑顔で答えた。


「そうだよ」


舞夜の頬が、みるみる赤くなっていく。


「……誰のためですか?」


僕はほんの少しだけ、彼女との距離を縮めた。


「明日になれば分かるよ」


舞夜は一瞬驚いたあと、嬉しそうに微笑んだ。


「……それなら、楽しみに待っていますね」


「うん」


僕たちはそこで別れた。


遠ざかっていく舞夜の背中を見送りながら、僕は鞄の肩紐をそっと握りしめた。


明日になれば、もう何も隠す必要はない。


明日こそ、彼女にプレゼントを渡せる。


そして、この数週間ずっと考えてきたことを、自分の言葉で伝えられる。


ホワイトデーは、もうすぐそこまで来ていた。

読んでいただき、ありがとうございます!


ついにホワイトデー前日。大樹の準備は整い、舞夜も何かを期待しているようです。


明日、二人にとって忘れられない一日になるのでしょうか。


次回もぜひお楽しみください!

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