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舞夜が本当に望んでいるもの

あの日の放課後から、舞夜の言葉がずっと頭から離れなかった。


『高いものは必要ありません』


『意味のあるものが好きです』


そして、何よりも。


『これからも、もっとたくさん思い出を作りたいです』


カフェで働いている間も、僕はその言葉を思い返していた。


「大樹」


「はい?」


カウンターの向こうから、店長に声をかけられた。


「またぼんやりしているぞ」


「すみません」


「何か悩み事か?」


「いえ」


僕は笑って答えた。


「ちょっと、プレゼントのことを考えていただけです」


「誰か大切な人へのプレゼントか?」


「……はい」


店長は楽しそうに笑った。


「なら、頑張った甲斐があるといいな」


「僕もそう思います」


そう答えて、仕事に戻った。


けれど、店長との会話をきっかけに、大切なことに気づいた。


僕は、ペンダントを買うためのお金を用意することばかり考えていたのかもしれない。


買わなきゃ。


貯めなきゃ。


もっと働かなきゃ。


いつの間にか、そればかりになっていた。


でも、忘れてはいけないことがある。


舞夜は、僕が無理をして倒れるほど頑張ることなんて望んでいない。


それは、彼女自身が何度も伝えてくれたことだった。


高価なプレゼントが欲しいわけじゃない。


自分のために選んでくれた、意味のあるものが欲しいのだ。


そう考えると、自分の贈り物に対する見方も少し変わった。


ペンダントが大切なことに変わりはない。


けれど、それは値段が高いからじゃない。


僕が、どんな気持ちでそれを選んだのか。


そこに意味があるのだ。


星と花。


舞夜のそばに置いておける、小さなアクセサリー。


見るたびに、僕のことを少しでも思い出してくれたらいい。


そんな気持ちを込めて、彼女に贈りたい。


それが、僕の本当の願いだった。


───


翌日の昼休み、舞夜が僕の隣に座った。


「大樹くん」


「どうしたの?」


「疲れていませんか?」


「少しだけかな」


「やっぱり……」


舞夜は小さくため息をついた。


「頑張りすぎですよ」


「大丈夫だよ」


「いつもそう言いますね」


僕は苦笑した。


「でも、今回は本当に大丈夫だから」


舞夜はしばらく僕の顔を見つめていた。


そして、ふと思いついたように尋ねた。


「それなら、一つ教えてください」


「何?」


「もっと時間ができたら、私と何がしたいですか?」


思いがけない質問に、僕は少し戸惑った。


「僕がしたいこと?」


「はい」


「うーん……」


少し考えてから、答えた。


「また一緒に旅行に行きたいな」


「どこにですか?」


「それは、まだ決めてないよ」


「じゃあ、これから決めないといけませんね」


舞夜は嬉しそうに笑った。


「それから、またお祭りにも行きたい」


「いいですね」


「写真も、もっとたくさん撮りたいな」


「いっぱい撮りましょう!」


舞夜の声が弾んだ。


「それと……」


僕は少し考えてから続けた。


「お正月になったら、また一緒にお寺に行くのもいいかもね」


舞夜はわずかに目を見開いた。


それから、柔らかく微笑んだ。


「……また行くんですか?」


「うん」


「それなら、行かないといけませんね」


「約束だよ」


僕がそう言うと、舞夜は小指を差し出した。


「約束です」


僕も自分の小指を絡める。


「約束」


僕たちは、そのまま数秒間、指を結んでいた。


やがて、舞夜が尋ねた。


「大樹くんは、私が何を一番嬉しいと思うか、分かりますか?」


「何だろう?」


「大樹くんと一緒なら、特別なことをしなくても幸せだということです」


僕は彼女を見つめた。


「特別なことをしなくても?」


「はい」


舞夜は笑顔でうなずいた。


「放課後に一緒に歩くだけでも、私は嬉しいんです」


そして、少しだけ視線を落とした。


「……大樹くんと一緒なら」


心臓が、小さく跳ねた。


「僕も、そういう時間が好きだよ」


舞夜が顔を上げる。


「本当ですか?」


「うん。本当」


彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「それなら、私たちは同じですね」


───


その日の放課後、アルバイトへ向かう前に、僕はこっそり鞄を開けた。


小さな箱は、いつもの場所に入っていた。


僕はそれをしばらく見つめた。


今なら、どうしてこのペンダントを舞夜に渡したいのか、はっきりと分かる。


チョコレートのお返しをするためじゃない。


何かをもらったから、同じように返さなければいけないわけでもない。


ただ、伝えたいのだ。


『舞夜は、僕のことを考えて贈り物を用意してくれた』


『だから、僕も舞夜のことを考えて選んだんだ』


そういう気持ちを。


僕はそっと鞄を閉じた。


ホワイトデーまでは、あと数日。


今の僕に必要なのは、もっと大きなプレゼントを探すことじゃない。


この小さな贈り物に添える、ふさわしい言葉を見つけることだ。


本当に大切なのは、ペンダントそのものじゃない。


それを選ぶまでに考えたこと。


彼女の喜ぶ顔を想像した時間。


そして、彼女に伝えたいと思った気持ち。


そのすべてが、この小さな箱の中に詰まっているのだから。

読んでいただき、ありがとうございます!


大樹は、ペンダントに込めた本当の意味を改めて理解しました。


大切なのは贈り物の値段ではなく、相手を想う気持ち。


ホワイトデーに、その想いは舞夜へ届くのでしょうか?

次回もぜひお楽しみください!

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