隠された小箱
ペンダントを買ってから、僕には新たな悩みができた。
舞夜に見られるわけにはいかない。
小さな箱は、鞄の内ポケットにしまってある。
学校へ行くたびに、ちゃんとそこにあるか確認してしまう。
失くすのが怖いからじゃない。
舞夜が、思っていた以上に鋭くなってきたからだ。
「大樹くん」
声をかけられ、僕は顔を上げた。
「な、何?」
舞夜が僕の机の横に立っていた。
「何をしているんですか?」
「何も?」
「今、鞄の中を覗いていましたよね」
「ちょっと確認したいものがあって」
「何をですか?」
「教科書だよ」
舞夜は鞄に視線を落とした。
それから、僕の顔を見つめる。
「……教科書って、箱に入っているんですか?」
心臓が止まりかけた。
「えっ?」
舞夜が鞄の中を指さす。
幸い、小箱は何冊かのノートの下に隠れていた。
「何か見えたんですか?」
「何か小さなものが見えた気がして」
「たぶん筆箱じゃないかな」
「大樹くん、そんな形の筆箱を持っていませんよね?」
「そ、それは……」
返す言葉が見つからない。
舞夜は目を細めた。
「何か隠していますね?」
「隠してないよ」
「隠しています」
「隠してないって」
「大樹くん」
「舞夜……」
僕たちはしばらく見つめ合った。
先に折れたのは舞夜だった。
「……分かりました」
小さくため息をつき、彼女は背を向ける。
「今は、教えてくれなくてもいいです」
遠ざかっていく背中を見送りながら、僕は少しだけ罪悪感を覚えた。
それでも、胸をなで下ろしていた。
まだ、話すわけにはいかない。
───
休み時間になり、僕は鞄を机の下にしまった。
これなら大丈夫だろう。
そう思っていたのに、数分後には結衣がやってきた。
「大樹くん」
「何?」
「舞夜から聞いたよ。何か隠しているんだって?」
僕は危うく机に頭をぶつけそうになった。
「もう話したの!?」
「うん」
「早いな……」
結衣は楽しそうに笑った。
「それで、それって舞夜のため?」
僕は答えなかった。
「……なるほど。そういうことね」
「何も言ってないだろ」
「大樹くんの沈黙が全部教えてくれたよ」
「結衣……」
「大丈夫。舞夜には言わないから」
「ありがとう」
ほっとしたところで、結衣が少し声を落とした。
「でも、一つだけ聞いていい?」
「何?」
「プレゼント?」
僕は視線をそらした。
「……うん」
結衣の顔に笑みが広がる。
「それなら、見られたくない理由も分かるよ」
「そういうこと」
「舞夜、かなり気になっているみたいだけど?」
「分かってるよ」
「これからどうするの?」
「このまま隠しておく。ホワイトデーまでね」
結衣は納得したようにうなずいた。
「じゃあ、気をつけないとね」
「どうして?」
「舞夜って、見た目以上に観察力があるから」
僕は自分の鞄に目を向けた。
「……もう十分、思い知ったよ」
結衣はくすっと笑い、立ち去ろうとした。
けれど、何かを思い出したように振り返る。
「でも、きっと喜んでくれると思うよ」
「そうだといいけど」
「ううん」
結衣は自信たっぷりに微笑んだ。
「絶対に喜ぶよ」
そう言い残し、今度こそ彼女は去っていった。
僕は鞄を見つめた。
中には、何日もの放課後を使って働き、ようやく手に入れた小さなペンダントが入っている。
ホワイトデーまでは、まだ数日ある。
それなのに、秘密を守るのが日に日に難しくなっていた。
ふと顔を上げると、舞夜が友達と楽しそうに話している姿が目に入った。
僕は心の中でつぶやく。
(あと少しだけ、我慢しよう)
その日が来たら、彼女の表情を見たい。
自分の手で、直接渡したい。
そして何よりも、この贈り物が舞夜のことだけを考えて用意したものだと、ちゃんと伝えたかった。
読んでいただき、ありがとうございます!
舞夜に秘密を見破られそうになりながらも、何とかペンダントを隠し通した大樹。
果たして、ホワイトデーまで無事に秘密を守れるのでしょうか?
次回もぜひ読みに来てください!




