来月への秘密
翌週の月曜日。
放課後、俺はついに決心した。
アルバイトについて聞いてみる。
以前見つけたカフェは、学校から数本先の通りにある。
それほど大きな店ではない。
でも、午後になるとかなり忙しくなるようだった。
俺は店の中へ入る。
「こんにちは」
カウンターの奥にいた男性が顔を上げた。
「こんにちは。何か用かな?」
「はい。午後の時間帯に働ける人を募集していると聞いたんですが……」
「君、学生?」
「はい」
俺は、学校が終わったあとにできるアルバイトを探していることを説明した。
店長は、学校の時間や、どれくらい働けるのかなど、いくつか質問してきた。
幸い、学校の授業に合わせてシフトを調整できるらしい。
「平日の何日かと、週末に一日くらいなら入ってもらえると思う」
「大丈夫です」
「それなら、今週から試しに働いてみるか?」
俺は頷いた。
「ありがとうございます!」
カフェを出た俺は、不思議な気持ちになっていた。
――初めてのアルバイトが決まった。
まだ、実感が湧かない。
でも、その瞬間に思い浮かんだのは舞夜だった。
チョコレート。
カード。
そして、あの小さなペンダント。
「……絶対に手に入れる」
俺は小さく呟いた。
「一円だって無駄にしないで、貯めるんだ」
───
最初の数日は、決して簡単じゃなかった。
授業が終わると、そのままカフェへ向かう。
テーブルを片づける。
注文を運ぶ。
簡単な飲み物を作る。
そして何より――。
学校の勉強を疎かにせず、仕事も覚えなければならない。
家に帰る頃には、かなり疲れていた。
それでも、もう無理だと思いそうになったときは、必ず思い出す。
――舞夜。
そうすると、不思議ともう少し頑張れた。
───
数日が経った頃。
舞夜が、俺の変化に気づき始めた。
休み時間。
舞夜が俺のところへやってくる。
「大樹くん」
「ん?」
「最近、少し疲れていませんか?」
「俺が?」
「はい」
「……ちょっと、寝不足なのかも」
舞夜が少し眉を寄せる。
「大丈夫ですか?」
「うん」
「無理をしているわけじゃないですよね?」
その言葉に、俺は少しドキッとした。
「……してないよ」
嘘をつきたいわけじゃない。
でも、まだ本当のことを話すわけにはいかなかった。
「放課後に、少し用事があるだけだから」
舞夜が数秒間、俺を見る。
「……どんな用事ですか?」
「大したことじゃないよ」
舞夜が少し視線を落とす。
「……そうですか」
やっぱり心配しているみたいだった。
「疲れているなら、あまり無理しないでくださいね」
「分かってる」
俺は笑う。
「大丈夫だから」
舞夜が顔を上げる。
「……約束してくれますか?」
「うん。約束する」
舞夜が穏やかに微笑んだ。
「それなら、よかったです」
そう言って、舞夜は離れていった。
俺はその背中を見つめる。
少しだけ罪悪感があった。
本当のことを隠しているから。
でも――。
まだ言えない。
プレゼントを手に入れる、その日までは。
───
その日のアルバイトが終わったあと。
俺はアクセサリーショップへ立ち寄った。
そして、もう一度――。
星と花のペンダントを見る。
今回は、少しだけ貯金が増えている。
それでも、まだ足りない。
だけど――。
前より確実に近づいている。
「……もう少し」
俺は小さく呟いた。
「あと少しだけ」
店を出る。
家へ向かって歩いていると、スマートフォンが振動した。
画面を見る。
舞夜からのメッセージだった。
『もう家に着きましたか?』
俺は思わず笑う。
『うん。今から帰るところ』
すぐに返信が来た。
『ちゃんと休んでくださいね』
俺はしばらく画面を見つめる。
そして――。
『舞夜もね』
そう返信した。
スマートフォンをポケットにしまう。
そして、再び歩き始める。
ホワイトデーまでは、まだ数週間ある。
でも――。
俺の秘密は、もう始まっている。
舞夜は、俺に教えてくれた。
小さなプレゼントでも、そこにはたくさんの気持ちを込められるということを。
だから今度は――。
俺も、それを舞夜に伝えたい。
ただチョコレートのお返しをするんじゃない。
一つの思い出を贈りたい。
身につけていられるもの。
それを見るたびに――。
その裏で、俺が何週間も働いて、彼女の笑顔を思い浮かべながら準備していたことを思い出してもらえるようなものを。
夕暮れの空の下を歩きながら、俺は一つのことだけを考えていた。
――もう少しだけ、待っていてくれ。
舞夜。
今度は――。
俺が君を驚かせたい。
読んでいただき、ありがとうございます!
次の話でまたお会いしましょう!




