三月への約束
バレンタインデーが終わってからの数日間は、思った以上に穏やかに過ぎていった。
学校生活も、いつものペースに戻っている。
授業。
宿題。
休み時間。
何気ない会話。
そして、その中にある舞夜との小さな時間。
そんな日々を過ごしながらも、俺の頭から離れないものが一つあった。
――ホワイトデー。
昼休み、何人かのクラスメイトがホワイトデーについて話しているのを聞いた。
「もう三月に何を返すか考えてるんだよな」
「まだ結構先じゃない?」
「でも、早めに準備しておかないと」
そんな会話が、なぜかずっと頭に残っていた。
ただ、舞夜からもらったチョコを返したいからじゃない。
俺は、それ以上のことをしたかった。
その日の放課後。
家へ帰る道を歩きながら、俺は部屋に大切にしまってある小さな箱を思い出していた。
あのカード。
舞夜が一つ一つ作ってくれたチョコレート。
舞夜は、俺のために時間を使ってくれた。
一生懸命、準備してくれた。
だから俺も――。
同じくらいの気持ちを込めたものを贈りたい。
「……適当なものを買って渡すだけじゃ、駄目だよな」
俺は小さく呟いた。
舞夜がずっと残しておけるものがいい。
それを見たとき、俺たちが過ごしてきた時間を思い出せるようなもの。
そこで、ふとお正月のときの会話を思い出した。
――これからもずっと、一緒にいたい。
舞夜が、これから一緒に作っていきたい思い出について話していた。
そして俺も、同じ気持ちだと答えた。
だったら――。
プレゼントも、そんな気持ちを表せるものがいいのかもしれない。
俺たちの思い出を、形にできるもの。
ただ、一つ問題がある。
俺には、あまりお金がない。
本当に特別なものを贈りたいなら――。
これから少しずつ貯める必要がある。
家に着くと、俺はそのまま自分の部屋へ向かった。
机を開ける。
そして、今まで貯めていたお金を取り出した。
一度数える。
もう一度数える。
……やっぱり足りない。
「……全然足りないな」
俺は椅子に深く座り込む。
数秒間、考える。
そして――。
一つの考えが浮かんだ。
「……アルバイトか」
学校の近くで、いくつか求人を見たことがある。
放課後に働けば、これから数週間で少しずつお金を貯められる。
もちろん、簡単ではない。
授業もある。
宿題もある。
それに、自由な時間も減るだろう。
でも――。
ホワイトデーまでは、まだ時間がある。
きちんと予定を立てれば、きっとできる。
俺はスマートフォンを手に取る。
学生でも働ける仕事を探し始めた。
カフェ。
ショップ。
レストラン。
いくつか候補が見つかった。
その中で、特に目に留まったものが一つあった。
学校からそれほど遠くない、小さなカフェ。
午後の時間帯に働けるスタッフを募集しているらしい。
「……ここがいいかもしれない」
俺は求人の情報を保存した。
そして、机の上に置いていたお正月の写真を見る。
そこには、俺の隣で笑っている舞夜が写っていた。
「……舞夜が、本当に喜んでくれるものを贈りたい」
小さな声で呟く。
まだ、何を買うのかは決まっていない。
それでも――。
俺の中では、もう決まっていた。
ホワイトデーには、ただチョコレートのお返しをするだけじゃない。
舞夜のために、特別なプレゼントを用意する。
そのためなら――。
俺も頑張ろう。
そして翌日。
まずは、あのカフェに仕事のことを聞きに行こう。
ただし、一つだけ条件がある。
舞夜には絶対に知られないこと。
これは――。
俺から舞夜へのサプライズにしたい。
そう思った瞬間。
初めて気づいた。
今度は俺も――。
舞夜のために、秘密の準備を始めているんだ。
読んでいただき、ありがとうございます!
次の話でまたお会いしましょう!




