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バレンタインの翌日

バレンタインデーの翌日。


すべてが、いつもの日常に戻るはずだった。


少なくとも、俺はそう思っていた。


いつもと同じ時間に起きる。


朝食を食べる。


学校へ行く準備をする。


そして家を出る。


それなのに、学校へ向かう途中から、どこか不思議な感覚があった。


何かが変わった。


そんな気がする。


教室に着くと、舞夜はもう来ていた。


「おはようございます、大樹くん」


「おはよう、舞夜」


目が合う。


そして――。


俺たちは、ほとんど同時に笑った。


それだけだった。


特別なことが起きたわけじゃない。


なのに、その小さな瞬間が、いつもとは少し違って感じられた。


俺は自分の席に座る。


教科書を取り出す。


そのとき、ふと自分の部屋に大切にしまってある小さな箱を思い出した。


チョコレート。


カード。


どれも、まだそこにある。


理由は自分でもよく分からない。


でも、それを思い出すだけで、自然と嬉しくなった。


「大樹くん」


舞夜がもう一度、俺を呼ぶ。


「ん?」


「ちゃんと眠れましたか?」


「うん」


「本当に?」


「本当だよ」


舞夜が微笑む。


「なんだか、嬉しそうですね」


「俺が?」


「はい」


「……そうかも」


舞夜が少しだけ視線を落とす。


「私も……嬉しいです」


それ以上、俺たちは何も言わなかった。


ただ、数秒間だけ見つめ合う。


そこへ――。


「おはよう」


結衣が俺たちの間に入ってきた。


「おはよう、結衣」


結衣は舞夜を見る。


それから俺を見る。


そして、にっこり笑った。


「なんか、変な空気だね」


「変な空気?」


俺が聞き返す。


「うん」


「何も変じゃないだろ」


「はいはい」


結衣が腕を組む。


舞夜の顔が赤くなる。


「結衣……変なこと言わないでください」


「何もしてないよ?」


「その顔が、何かしてます」


結衣が小さく笑った。


「分かった、分かった」


そして舞夜の隣の席に座る。


俺は再び教科書に目を戻した。


けれど――。


数秒後。


誰かに見られている気がした。


顔を上げる。


舞夜と目が合った。


今度は、舞夜が笑った。


俺も笑い返す。


……たぶん。


変わったのは、こういうところなんだ。


以前は、俺たちが近づくためには何か理由が必要だった。


でも、今は違う。


ただの挨拶。


ほんの一瞬の視線。


小さな笑顔。


それだけでも、以前とは違う意味を持つようになっている。


昼休み。


俺たちは一緒に廊下へ出た。


「大樹くん」


「ん?」


「昨日のチョコレートなんですが……」


「どうしたの?」


「まだ残っていますか?」


「うん」


「全部食べちゃってないんですか?」


「まだだよ」


「どうして?」


「少しずつ食べようと思って」


舞夜が嬉しそうに笑う。


「……よかったです」


「どうして?」


「そのほうが、もう少し長く楽しめるので」


俺は舞夜を見る。


「じゃあ、大切に食べないとな」


「はい」


舞夜が笑った。


「ちゃんと、大切にしてくださいね」


「分かった」


俺たちはそのまま並んで歩く。


その横顔を見ながら、俺はふと思った。


舞夜は、俺のために何かをしてくれた。


小さなことだった。


でも――。


俺にとっては、とても大切なものだった。


だから今度は、俺も舞夜に何かしてあげたい。


まだ、何をするのかは決まっていない。


でも――。


何かを見つけたい。


義務だからじゃない。


お返しをしなければならないからでもない。


ただ、自分がそうしたいと思ったから。


チョコレートをもらってから、初めて――。


俺の中に、一つの考えが浮かび始めていた。


舞夜にも、ずっと残しておけるものを贈りたい。


俺のことを思い出してくれるもの。


言葉にしなくても――。


俺も、これから舞夜と一緒にたくさんの思い出を作っていきたい。


そう伝えられるようなものを。

第281話を読んでくださって、ありがとうございます。


バレンタインが終わり、二人の関係にも少しずつ変化が見えてきました。


次は大樹が、舞夜のために何かを考え始めます。


次回もぜひ読んでください!

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