残しておきたい贈り物
放課後。
教室は少しずつ人が少なくなっていた。
何人かのクラスメイトは「また明日」と声をかけて、一緒に教室を出ていく。
別の生徒たちは、廊下に残って話を続けていた。
舞夜はいつものように、ゆっくりと荷物をまとめている。
俺も自分の荷物を片づける。
そして、準備が終わったところで――。
舞夜が俺のところへやってきた。
「大樹くん」
「ん?」
「少し、時間ありますか?」
「もちろん」
俺たちは教室を出て、階段の近くまで歩いた。
数秒間、どちらも何も言わない。
やがて、舞夜が口を開いた。
「最後に、一つだけ聞きたいことがあります」
「何?」
「……本当に、あの箱を取っておいてくれるんですか?」
俺は笑った。
「取っておくって言っただろ?」
「……もしかしたら、私を喜ばせるために言ってくれただけなのかなって」
「違うよ」
俺はバッグを少し開けて、中に入っている箱を見せる。
「ちゃんと持ってきてる」
舞夜の目が少し大きくなる。
「……持ってきたんですか?」
「うん」
「どうして?」
俺は箱を見つめてから答えた。
「大切な思い出だから」
舞夜が俯く。
「……そう言ってもらえると、嬉しいです」
「俺も、これを持っていられて嬉しいよ」
舞夜が微笑む。
「それなら……」
少し考えるようにしてから、舞夜が続けた。
「頑張った甲斐がありました」
「間違いなくあったと思う」
舞夜が顔を上げる。
「……あの、大樹くん」
「ん?」
「知っていますか?」
「何を?」
「最初は……大樹くんに私を好きになってもらうことだけを考えていたんです」
その言葉に、俺は少し驚いた。
「うん。始めた頃のことは覚えてる」
「でも……」
舞夜が少しだけ間を置く。
「今は、もうただのゲームにはしたくありません」
俺の表情が変わる。
舞夜はそのまま続けた。
「これからも、大樹くんと一緒に色々なことをしたいです」
「……色々?」
「旅行したり」
舞夜が指を一本立てる。
「写真を撮ったり」
二本目。
「お祭りに行ったり」
三本目。
「一緒にご飯を食べたり」
そして、最後に――。
「思い出を作ったり」
舞夜が笑った。
「今までみたいに」
俺は舞夜を見る。
「俺も、そうしたい」
舞夜の瞳が明るくなる。
「……本当ですか?」
「うん」
「じゃあ……」
舞夜がゆっくりと手を差し出した。
「これからも、こうしていきましょう」
俺はその手を取る。
そして、指を絡める。
「うん」
俺たちはそのまま、しばらく立っていた。
もう、他に言葉は必要なかった。
沈黙は気まずくない。
むしろ――。
穏やかで、温かかった。
舞夜が微笑む。
「ハッピーバレンタインです、大樹くん」
「ハッピーバレンタイン、舞夜」
舞夜が、俺の手をそっと握り返す。
「……これが、これからもたくさん続いていくといいですね」
俺は繋いだ手を見る。
それから、舞夜を見る。
「俺も、そう思う」
舞夜が笑った。
そして俺たちは、手を繋いだまま校門へ向かって歩き始めた。
この数日間に起きたことを、俺は思い返していた。
チョコレート。
カード。
緊張していた舞夜。
そして、俺自身が抱いていた期待。
始まりは――。
俺が好きなチョコレートについて、舞夜に聞かれたことだった。
それだけだったはずなのに。
気づけばそれは、また一つの大切な思い出になっていた。
俺は隣を歩く舞夜を横目で見る。
舞夜は笑っていた。
俺たちの関係を、今すぐ何と呼べばいいのか。
俺にはまだ分からない。
でも、一つだけ確かなことがある。
この時間を、終わらせたくない。
これからも、このまま一緒に歩いていけたら――。
いつか。
俺たちが何者なのかを、わざわざ考える必要すらなくなる日が来るのかもしれない。
そのときにはきっと――。
俺たちは、答えを知っている。
読んでいただき、ありがとうございます!
次の話でまたお会いしましょう!




