僕のための一枚
最初のチョコレートを食べ終えてから、俺はもう一度カードを見た。
そこに書かれていた短い言葉が、なぜか頭から離れなかった。
『自分で作ったものを、大樹くんに渡したいと思いました』
シンプルな言葉だった。
けれど、舞夜が書いたと思うと、その意味は特別なものに感じられた。
舞夜なら、どんなチョコレートだって買えたはずだ。
もっと高価なもの。
もっと綺麗に包装されたもの。
それでも――。
舞夜は、自分で作ることを選んだ。
そのために時間を使って、俺のことを考えてくれた。
そう思うと、自然と嬉しくなった。
俺はもう一度、カードを読み返す。
そして、丁寧に机の上へ置いた。
「……こんなことで、緊張するなよ」
そう自分に言い聞かせる。
けれど、無駄だった。
舞夜がチョコレートを渡してくれたときの表情を思い出すたびに、胸の奥がくすぐったくなる。
俺は立ち上がり、部屋の隅に置いてある小さな箱を取り出した。
そこには、今まで大切にしてきた思い出が入っている。
写真。
イベントのチケット。
一緒に過ごした時間を思い出せる、小さなもの。
その中から、お正月に撮った写真を取り出した。
神社を背景に、俺の隣で笑っている舞夜。
紫がかった長い髪は綺麗に整えられていて、その笑顔はとても自然だった。
俺は、その写真をしばらく見つめた。
そして、もう一度カードを見る。
「……これも、入れておいたほうがいいかな」
捨てたくない。
なくしたくもない。
だから、思い出の箱にカードをしまおうとした。
けれど――。
蓋を閉じる直前に、考えが変わった。
カードを取り出す。
「……いや」
まだ、いい。
もう少しだけ、手元に置いておきたかった。
俺はカードを机の上へ戻した。
そのとき――。
スマートフォンが震えた。
メッセージだった。
舞夜からだ。
『もう家に着きましたか?』
俺はすぐに笑顔になる。
『うん』
それから、少し迷った。
もうプレゼントを開けたことを伝えるべきだろうか。
少し考えてから、文字を打つ。
『もう開けたよ』
送信すると、ほとんどすぐに返信が来た。
『どうでした……?』
その文字を見て、舞夜がどんな顔で送ったのか、簡単に想像できた。
俺は笑いながら返す。
『すごく美味しかった』
数秒後。
『本当ですか?』
『うん。すごく気に入った』
今度は、少しだけ返信が遅かった。
そして――。
『よかったです』
そのあと、もう一つメッセージが届く。
『結構、頑張ったんです』
俺は、その言葉をじっと見つめた。
そして、すぐに返す。
『伝わったよ』
画面に「入力中」の表示が出る。
消える。
また表示される。
そして、しばらくして――。
『それなら、頑張った甲斐がありました』
胸の奥が、少しだけ温かくなった。
何と返せばいいのか分からない。
だから――。
今、本当に伝えたい言葉をそのまま送った。
『ありがとう、舞夜』
今度は、すぐには返信が来なかった。
数秒後。
『どういたしまして、大樹くん』
そして、その下にもう一つ。
『ハッピーバレンタインです』
俺は笑った。
机の上に置かれたカードを見る。
「……ハッピーバレンタイン、舞夜」
小さな声で呟いた。
そのあと、残ったチョコレートを大切にしまう。
けれど――。
カードだけは、ベッドの横に置いた。
眠る前に、もう一度見たかったからだ。
たった一枚の小さなカード。
それだけなのに――。
俺にとっては、もう大切に残しておきたい思い出の一つになっていた。
読んでいただき、ありがとうございます!
次の話でまたお会いしましょう!




