あまりにも分かりやすい秘密
その後の授業は、比較的いつも通りに進んだ。
……とはいえ、正直なところ、俺はもうあまり授業に集中できていなかった。
舞夜を見るたびに、同じことを考えてしまう。
あのバッグ。
数日前に見えた小さな箱。
チョコレートについての質問。
そして、今日の結衣の言葉。
『明日、遅れないでね』
全部が、一つの方向を指している。
それでも、まだ舞夜に直接聞く勇気はなかった。
最後の休み時間。
俺は飲み物を買いに教室を出た。
戻ってくると、舞夜が一人で教室に残っていた。
何かを探すように、自分のバッグの中を覗き込んでいる。
「舞夜」
「……大樹くん!」
舞夜が慌てて顔を上げた。
驚いたような表情をしている。
「何してるの?」
「な、何でもありません」
舞夜はすぐにバッグを閉じた。
「ちょっと探し物をしていただけです」
「そうなんだ」
俺は自分の席へ向かう。
そのとき――。
床に何かが落ちていることに気づいた。
小さな紫色のリボンだった。
「……これ、舞夜の?」
俺は床を指差す。
舞夜が視線を落とした。
そして――。
「あっ……!」
慌ててしゃがみ込み、リボンを拾う。
それを指先で大切そうにつまんだ。
「はい……」
「何に使うの?」
「それは……」
舞夜の言葉が止まる。
「何かを……飾るために」
「何か?」
「はい」
「何を?」
舞夜は視線を逸らした。
「……言えません」
思わず笑ってしまう。
「また秘密か」
「……はい」
「ますます気になるんだけど」
「気にしないでください」
「そう言われても、そんな態度をされたら気になるよ」
舞夜の頬が赤くなる。
「……そんな態度って、どんなですか?」
「何か大事なものを隠してるみたいな態度」
舞夜は少し黙ってから――。
思わず口にしてしまったように答えた。
「……大事なものを隠しているからです」
「……」
「……」
二人の間に、沈黙が落ちた。
舞夜が大きく目を見開く。
「……あ」
「……なるほど」
俺は、それ以上追及しないようにした。
「無理に言わなくてもいいよ」
舞夜が俺を見る。
「……ありがとうございます」
数秒間、静かな時間が流れた。
そして、舞夜が小さく微笑む。
「でも……明日になったら、分かるかもしれません」
俺の心臓が、小さく跳ねた。
「……明日?」
「はい」
「バレンタインだから?」
舞夜の動きが完全に止まった。
俺も何も言わずに舞夜を見る。
初めて――。
本当にすぐそこまで答えが近づいている気がした。
「……私」
舞夜は手の中のリボンをぎゅっと握る。
「……はい」
小さな声だった。
聞き取るために、少しだけ集中しなければならないほどだった。
「明日です」
そう言って、舞夜は急いでリボンをバッグへしまった。
「……そろそろ行きますね」
「今から?」
「はい」
「何かあるの?」
「いえ」
舞夜は微笑んだ。
「ちょっと、準備することがあるので」
バッグを持ち上げる。
そして、教室を出ようとしたところで――。
舞夜が足を止めた。
「大樹くん」
「ん?」
「明日……」
少しだけ間を置いてから、舞夜は言った。
「放課後、少しだけ残っていてください」
俺は驚いて舞夜を見る。
「放課後?」
「はい」
「分かった」
舞夜が嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとうございます」
そして、そのまま教室を出ていった。
俺はしばらく、その場から動けなかった。
舞夜は、直接チョコレートを渡すとは言っていない。
けれど――。
何も否定もしなかった。
もう、ただの可能性とは思えない。
あまりにも分かりやすい。
――舞夜は、俺のために何かを準備している。
そして明日。
俺は、ようやくその答えを知ることになる。
……ただ。
放課後、荷物をまとめながら、俺の中に新しい疑問が生まれた。
気になっているのは、チョコレートをもらえるかどうかだけじゃない。
舞夜がそれを渡してくれたとき――。
俺は、何と答えればいいんだろう。
これまで一緒に過ごしてきた時間を考えれば。
ただ、
「ありがとう」
と言って終わらせるだけでは、何か違う気がした。
舞夜が込めた気持ちに、ちゃんと応えたい。
そう思っているのに――。
その言葉が、なかなか見つからない。
そして、その答えを考えることは。
思っていた以上に難しいことだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次回はいよいよバレンタイン当日です。
舞夜のチョコレートは、大樹に無事届くのでしょうか?
次回もぜひ楽しみにしていてください。




