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まだ渡せないチョコレート

週末は、気づけばあっという間にやってきた。


バレンタインまで、あと数日。


できるだけ考えないようにしていた。


けれど、頭の中には何度も同じ疑問が浮かんでくる。


――舞夜は、本当に俺のためにチョコレートを作っているのだろうか?


確かめる方法はない。


だから、あまり期待しすぎないようにしていた。


その頃、街の別の場所では――。


「……何か、失敗した気がします」


舞夜はキッチンのテーブルの前に立っていた。


その上には、いくつものチョコレートが並んでいる。


形がそれなりに整っているものもあった。


その一方で――。


……あまり説明したくない形のものもある。


千代子は、そのうちの一つを手に取った。


「これは……ウサギかしら?」


「……ハートのつもりでした」


「……そう」


舞夜は小さくため息をついた。


「もっと練習しないと……」


「まだ数日あるじゃない」


「分かっています」


舞夜は別のチョコレートを手に取る。


こちらには、側面に小さなひびが入っていた。


「……これも駄目です」


「私には可愛く見えるけど?」


「お母さん、励ますために言ってるだけじゃないですか?」


「そんなことないわよ」


千代子は微笑んだ。


「ちゃんと丁寧に作ったのが分かるもの」


舞夜は並べられたチョコレートを見る。


「……大樹くんに食べてもらったとき、おいしいって思ってほしいんです」


「だったら、もう少し練習してみましょう」


舞夜は頷いた。


「……はい」


───


それから、もう一度挑戦した。


そして――。


ようやく、今までよりずっと綺麗なチョコレートが完成した。


ハートの形も揃っている。


デコレーションもきれいに配置されている。


そして、チョコレートには舞夜が目指していた艶があった。


舞夜は一つを手に取る。


「……これなら」


嬉しそうに微笑んだ。


「これなら、渡せるかもしれません」


千代子も頷く。


「ずいぶん上手になったわね」


「……でも、まだです」


「何が足りないの?」


舞夜は少し考えた。


「……渡すタイミングです」


「タイミング?」


「はい」


舞夜は完成したチョコレートを見つめる。


「ただ近づいて、『どうぞ』って渡すだけじゃ嫌なんです」


「なるほど」


千代子は舞夜の気持ちを理解したように頷いた。


「じゃあ、何を伝えたいのか考えてみたら?」


舞夜は視線を落とした。


「……それが、一番難しいんです」


舞夜は椅子に座り、小さなカードを手に取った。


ペンを握る。


まず書いたのは――。


『ハッピーバレンタイン、大樹くん。』


舞夜は、その文章をじっと見つめた。


そして、その下に一文を付け加える。


『大樹くんのことを考えながら作りました。』


書き終えた瞬間、顔が赤くなった。


「……無理です」


カードをくしゃっと丸める。


そして、新しいカードを取り出した。


今度は、別の言葉を書く。


『気に入ってくれたら嬉しいです。』


数秒間、眺める。


「……これは、いいかも」


けれど、再び考え始める。


完全に自分の気持ちを隠してしまうのも違う気がした。


大樹と少しずつ距離を縮めるようになってから――。


舞夜は、自分の気持ちを彼には素直に話せることを知った。


だから――。


もう一つ、言葉を付け加える。


『自分で作ったものを、大樹くんに渡したいと思いました。』


舞夜は、その文章を読み返した。


そして、ゆっくり微笑んだ。


「……うん」


これならいい。


無理に気持ちを全部伝えるわけではない。


でも、自分が大樹のために作ったことは伝わる。


舞夜はカードを箱の中へ入れる。


その上に、完成したチョコレートを一つずつ丁寧に並べていく。


そして、蓋を閉じた。


小さな箱を胸に抱える。


「……大樹くん」


小さく呟いた。


「……私が伝えたいこと、分かってくれるかな」


───


月曜日の朝。


俺が学校へ着くと、舞夜はすでに教室に来ていた。


「おはようございます、大樹くん」


「おはよう」


舞夜は笑っていた。


けれど――。


目が合った瞬間、少しだけ様子がおかしいことに気づいた。


なんとなく、緊張しているように見える。


「……大丈夫?」


「はい」


「本当に?」


「もちろんです」


……明らかに無理をしている。


けれど、俺はそれ以上聞かなかった。


「なら、いいけど」


舞夜は小さく頷いた。


そして、自分の席へ向かおうとした。


その直前――。


「大樹くん」


「ん?」


「……バレンタインのことなんですが」


心臓が、小さく跳ねた。


「何かあった?」


舞夜は両手を少しだけ握りしめる。


「私……」


言葉が止まった。


そして、視線を逸らす。


「……何でもありません」


「何でもない?」


「はい」


舞夜は微笑んだ。


「……また、あとで話します」


「分かった」


舞夜は自分の席へ戻っていった。


その様子を、教室の反対側からずっと見ていた人物がいる。


結衣だ。


結衣は舞夜のところへ近づいていく。


「舞夜」


「……何ですか?」


「今、もう少しで言えそうだったじゃん」


「結衣……!」


舞夜は両手で顔を覆った。


「……まだ無理です」


「じゃあ、もう少し待たないとね」


「……はい」


結衣は微笑む。


「でも、もう準備はできてるみたいだね」


舞夜は、バッグの中に大切にしまってある小さな箱を思い出した。


そして、そっと頷く。


「……はい」


今度は、何をするべきなのか迷っていない。


ただ――。


それを大樹に渡すための勇気が、まだ少し足りないだけだった。


一方の俺は――。


教室で起きていることを何も知らない。


ただ一つ分かっていることがある。


バレンタインが、どんどん近づいている。


そして、あのチョコレートが自分にとってどれほど大切なのか。


できるだけ気にしないようにしているのに――。


本当は、思っていた以上に。


俺は、そのチョコレートを受け取ることを楽しみにしていた。

読んでいただき、ありがとうございます!

これからもこの物語を続けていきたいと思いますので、応援していただけると嬉しいです。

これからもよろしくお願いいたします!

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