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新たな一章の始まり

駅に着く頃には、空はすっかり暗くなっていた。


街灯が道を照らし、その明かりの下を、生徒たちが少しずつ家へ帰っていく。


俺と舞夜は、まだ一緒に歩いていた。


繋いだ手も、そのままだった。


どちらも、なかなか手を離そうとはしなかった。


「今日は、いい一日でしたね」


舞夜が言った。


「ああ」


「結衣に、いろいろ気づかれそうになりましたけど」


「もう、かなり怪しまれてると思う」


「明日、何を言われるのか考えたくありません」


「たぶん、今日よりひどいぞ」


舞夜が小さく笑う。


「……そうでしょうね」


やがて、俺たちの帰り道が分かれる場所に着いた。


舞夜が足を止める。


「私は、ここで」


「ああ」


数秒間、俺たちは向かい合った。


そして、舞夜がゆっくりと俺の手を離す。


「また明日」


「また明日」


舞夜が数歩進む。


けれど、その途中で振り返った。


「大樹くん」


「ん?」


「今年を、大樹くんと一緒に始められて……よかったです」


俺は笑った。


「俺もだよ」


「それから……」


舞夜が少しだけ言葉を止める。


「今日は、ありがとうございました」


「何に?」


「手を繋いでくれたことです」


俺はさっきまで繋いでいた自分の手を見る。


「……もう、慣れてきた気がする」


舞夜も笑った。


「私もです」


「じゃあ、また明日」


「はい。また明日」


今度こそ、舞夜は振り返らずに歩いていった。


俺はその場に数秒立っていた。


そして、自分の家へ向かって歩き始めた。



家に着くと、バッグを置いて自分の部屋へ向かった。


椅子に座り、舞夜からもらった小さなお守りを取り出す。


しばらく、それを眺めた。


そして、冬休みの間に起きたことを思い返す。


ほんの数週間で、こんなにもいろいろなことが変わるなんて――。


少し前まで、俺と舞夜は自分たちの関係が何なのかを、一生懸命考えていた。


それが今では――。


お互いの家族に会った。


クリスマスを一緒に過ごした。


一月一日に、一緒に初詣へ行った。


駅で、お互いの頬にキスをした。


そして今日――。


舞夜は、もう一度あの言葉を口にした。


『私に恋をしてください』


俺は椅子の背もたれに体を預ける。


「……本当に?」


思わず呟いた。


俺は、いつから舞夜をそういう目で見るようになったんだろう。


答えは出なかった。


もしかすると、一瞬の出来事ではなかったのかもしれない。


二人で話していた時だったのか。


あの修学旅行の時だったのか。


写真を撮っていた時だったのか。


お正月に、振袖姿の舞夜を見た時だったのか。


それとも――。


もっとずっと前からだったのかもしれない。


ただ、自分で気づいていなかっただけで。


その時、スマホが振動した。


画面を見る。


舞夜からのメッセージだった。


『ちゃんと帰れましたか?』


俺は笑った。


『うん。舞夜は?』


すぐに返信が届く。


『私も大丈夫です』


そして、もう一通。


『おやすみなさい、大樹くん』


俺も文字を打つ。


『おやすみ、舞夜』


スマホを置こうとした。


その時――。


もう一通、メッセージが届いた。


『それから、忘れないでくださいね』


続けて表示された言葉を見て、俺は思わず笑った。


『逃げちゃ駄目です』


俺は返信する。


『逃げるつもりはないよ』


今度は、俺が最後のメッセージを送った。


スマホを机の上に置く。


窓の外では、一月の冷たい風が静かに窓を叩いていた。


新しい年の最初の登校日が終わった。


冬休みも、もう過去のものになった。


けれど――。


あの休みの間に、俺たちの間に残ったものがある。


以前よりも近くなった距離。


以前よりも深くなった信頼。


そして、まだどうやって果たすのか分からない約束。


新しい一年は、まだ始まったばかりだ。


窓の外を眺めながら、俺は一つのことを確信していた。


俺と舞夜の間に、これから何が起こるのかは分からない。


いつ、この関係に名前をつけることになるのかも分からない。


そして――。


あの日、舞夜から言われた言葉に、いつ答えを出せるのかも分からない。


それでも、もう逃げたいとは思わなかった。


むしろ――。


もう一日。


その次の日も。


舞夜の隣を歩き続けたい。


そして、この道の先に何が待っているのか。


二人で確かめてみたい。


もしかしたら――。


恋は、突然やってくるものではないのかもしれない。


写真を撮った時間。


一緒に歩いた道。


小さなプレゼント。


お互いの家族。


駅で交わした、少し照れくさいキス。


そういう小さな出来事の一つ一つの中で――。


少しずつ育っていくものなのかもしれない。


最初は、どこへ向かうのかも分からなかった二人。


それでも今は――。


その先に何があるのかを、一緒に見つけたいと思っている。


新しい一年が始まった。


そして――。


俺たちの物語も、新しい一章を迎えたのだった。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


冬休みを終え、新しい一年の最初の一日が終わりました。


大樹と舞夜は、まだ関係に名前をつけていません。

それでも二人は、少しずつ同じ未来へ歩き始めています。


ここから始まる新しい一年も、二人の物語を見守っていただけたら嬉しいです。


次回もお楽しみに!

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