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新年の写真

休み時間は、そのまま続いていた。


結衣は一度自分の席へ戻ったものの、さっきの会話についてまだ考えているようだった。


そして、その予感は当たっていた。


数分後、結衣が再び俺たちのところへやって来る。


「舞夜」


「何ですか?」


「ちょっとだけ見たいものがあるんだけど」


「何を?」


結衣が舞夜のスマホを指差した。


「その写真」


舞夜はすぐに画面をロックする。


「駄目です」


「一瞬だけ!」


「駄目です」


「お願い!」


「駄目です」


結衣が両手を合わせる。


「舞夜……」


「その手は通用しませんよ」


「何で?」


「何も言わないって約束しても?」


「むしろ、それなら余計に信用できません」


「ひどい!」


俺は思わず笑ってしまった。


舞夜が俺を見る。


「大樹くん、笑わないでください」


「ごめん」


「大樹くんも、もう一度見たいんでしょう?」


「俺はもう見たけど」


「でも、もう一回見たい」


舞夜が小さくため息をつく。


「……分かりました」


舞夜がスマホのロックを解除する。


その瞬間、結衣がすぐ隣まで近づいた。


画面に、あの写真が表示される。


数秒間――。


結衣は何も言わなかった。


その表情が、ゆっくりと変わっていく。


「……わあ」


舞夜が少し不安そうになる。


「どうしました?」


「これ……」


結衣がもう一度写真を見る。


「すごく綺麗」


舞夜が瞬きをする。


「……本当ですか?」


「うん」


写真の中には、神社を背景に並んでいる俺と舞夜が写っている。


俺は暗い色のコートにマフラー。


その隣には、淡い紫色の振袖を着た舞夜。


まとめられた髪には簪が飾られている。


二人とも笑っている。


そして、背後には雪に包まれた神社の建物が見えていた。


結衣が微笑む。


「舞夜」


「はい?」


「すごく綺麗だよ」


「……ありがとうございます」


「それから――」


結衣が俺を見る。


「南も、すごく幸せそう」


俺は写真を見つめる。


「……そうだったからな」


舞夜が少しだけ視線を落とす。


「私も……楽しかったです」


結衣が眉を上げる。


「じゃあ、もう一つ質問」


「まだあるんですか?」


「うん」


結衣が写真を指差す。


「誰が撮ったの?」


「タイマーだよ」


俺が答える。


「二人で準備したの?」


「そう」


「じゃあ、なんでこんなに近いの?」


「それは……」


舞夜が言葉に詰まる。


結衣が吹き出した。


「やっぱり!」


「ち、違います!」


「何が?」


「別に、そういう意味じゃありません!」


「私は何も言ってないけど?」


「でも、そういう顔をしてます!」


「だって面白いんだもん」


舞夜が小さくため息をつく。


「……結衣は本当に困った人ですね」


結衣は再び写真を見る。


「この写真、もらってもいい?」


「駄目です」


「じゃあ、画面を写真に撮っても?」


「それも駄目です!」


「なんで?」


「二人の思い出だからです」


舞夜がはっきりと言った。


結衣が黙る。


そして、少しだけ笑った。


「分かった」


「本当に?」


「うん。保存しない」


舞夜が少し驚いた顔をする。


「……ありがとうございます」


「でも」


結衣が一本指を立てる。


「一つだけ知りたいことがある」


「何ですか?」


「どうして、この写真を待ち受けにしてるの?」


舞夜が固まった。


俺も固まる。


「……え?」


思わず声が出た。


結衣がスマホを指差す。


「さっきロックを解除した時に出てきたでしょ?」


舞夜が慌てて自分のスマホを見る。


「……あっ」


「待ち受けにしたの?」


俺が尋ねる。


舞夜がスマホを半分隠すように持った。


「……はい」


「いつ?」


「昨日です」


「どうして?」


「それは……」


舞夜の顔が一気に赤くなる。


結衣がニヤッと笑う。


「もう答えなくていいよ」


舞夜が結衣を見る。


「……ありがとうございます」


「でも――」


「まだ何かありますか?」


「可愛いなって思った」


「結衣!」


近くにいた生徒たちが、こちらを振り返る。


舞夜が小声で言う。


「……声が大きいです」


「ごめんごめん」


結衣は声を落とし、舞夜のほうへ身を寄せた。


「でも、これで分かった」


「何がですか?」


「舞夜は、ただ初詣が楽しかっただけじゃないんだね」


舞夜が結衣を見る。


「……じゃあ?」


「大樹と一緒に一年を始められたことが嬉しいんでしょ?」


舞夜は黙った。


そして――。


柔らかく微笑んだ。


「……はい」


少しだけ間を置いて。


「たぶん、結衣の言う通りです」


結衣が少し驚いた顔をする。


「へえ……」


「何ですか?」


「ううん」


結衣は笑った。


「前だったら、もっと必死に否定してたと思って」


舞夜はもう一度、写真を見る。


「……もう、そんなに否定したいとは思いません」


「どうして?」


舞夜が画面をそっと撫でる。


「私にとって、大切な一日だったからです」


結衣が微笑む。


「そっか」


そして、優しい声で言った。


「じゃあ、よかったね」


舞夜が顔を上げる。


「……ありがとうございます」


結衣はそのまま自分の席へ戻っていった。


俺はしばらく黙っていた。


そして、舞夜を見る。


「本当に待ち受けにしたんだな」


「……はい」


「どうして俺に言わなかった?」


舞夜が視線を逸らす。


「恥ずかしかったからです」


「俺は嬉しいけど」


舞夜がこちらを見る。


「……本当ですか?」


「ああ」


「じゃあ……」


舞夜が小さく笑う。


「一年中、このままにしておこうかな」


「いいんじゃないか?」


「毎日見ることになりますよ?」


「だからこそいいんだろ」


舞夜が俺を見つめる。


そして、嬉しそうに微笑んだ。


「……じゃあ、そうします」


その時、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。


クラスメイトたちが一斉に席へ戻っていく。


舞夜もスマホをしまった。


授業が始まる直前、舞夜が少しだけ俺のほうへ身を寄せる。


「大樹くん」


「ん?」


「私たちの写真を恥ずかしいと思わないでくれて、ありがとうございます」


俺は笑った。


「恥ずかしいと思うわけないだろ」


舞夜が黙る。


そして、再び前を向いた。


けれど、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。


先生が次の授業を始める。


俺は黒板へ視線を向けた。


けれど――。


ふと、あの写真のことを思い出す。


あの一枚は、ただ新年最初の日に撮った写真じゃない。


舞夜にとっては――。


これから始まる一年を、一緒に過ごしていくための大切な一枚なのだ。


そう思うと、俺まで嬉しくなった。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


新年の写真は、舞夜にとって特別な一枚になっていました。


そして結衣も、二人の距離が少しずつ変わっていることに気づき始めています。


今年、二人にはどんな思い出が待っているのでしょうか。


次回もお楽しみに!

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