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結衣の疑惑

新年最初の休み時間は、あっという間にやってきた。


チャイムが鳴ると、何人もの生徒が席を立ち、冬休みの出来事について話し始める。


俺は席に座ったままだった。


隣では、舞夜がいつものように静かにスマホを見ている。


その時――。


聞き慣れた声がした。


「舞夜」


舞夜が顔を上げる。


「はい?」


俺たちの机の前に、結衣が立っていた。


腕を組み、妙に真剣な表情をしている。


「一つ質問があります」


「何ですか?」


「冬休み、何してたの?」


舞夜はすぐに答えた。


「いろいろです」


「それじゃ何も分からないんだけど」


「買い物に行ったり」


「それで?」


「家族と過ごしたり」


「それで?」


「ゆっくり休んだり」


結衣が目を細める。


「それで?」


舞夜が小さくため息をついた。


「……それだけです」


結衣がゆっくりと俺へ視線を移す。


「南?」


「何?」


「大樹は?」


「俺も似たような感じだよ」


「それも何も答えてないよね」


「何を言えばいいんだ?」


結衣は俺と舞夜を交互に見る。


俺。


舞夜。


そして、もう一度俺。


「……二人とも、なんか変」


舞夜の肩がぴくっと動いた。


「変?」


「うん」


「変じゃありません」


「いや、変だよ」


結衣が少しだけ顔を近づける。


「冬休みの間に、何かあった?」


「ない」


「ありません」


俺たちは同時に答えた。


結衣がニヤッと笑う。


「反応が速すぎるんだけど」


「本当に何もない」


舞夜も続ける。


「……何もありません」


「じゃあ――」


結衣が一本指を立てた。


「なんで二人とも、同じようなものを持ってるの?」


結衣の視線が俺たちの手元へ向く。


俺のお守り。


そして、舞夜が持っている小さな木製の猫。


「これですか?」


舞夜が尋ねる。


「そう、それ」


「思い出の品です」


「どこで買ったの?」


「神社です」


結衣の目が大きく開く。


「神社?」


「ああ」


「二人で行ったの?」


沈黙。


舞夜が完全に固まった。


俺も、どう答えるべきか分からなかった。


結衣の口元が、ゆっくりと笑みを浮かべる。


「一月一日に?」


「……はい」


舞夜がようやく答えた。


「二人で?」


「はい」


「二人だけで?」


「……はい」


結衣の笑顔が、さらに大きくなった。


「つまり……」


結衣が俺たちの机に身を乗り出す。


「新年デートしたってこと?」


「デートじゃありません!」


舞夜が即座に否定した。


「初詣に行っただけです」


「二人で」


「はい」


「一月一日に」


「はい」


「二人だけで」


「……はい」


結衣が両手を上げる。


「それを世間ではデートって言うんだよ」


「必ずしもそうとは限りません!」


舞夜の顔が真っ赤になる。


結衣は楽しそうに質問を続ける。


「で、何したの?」


「神社に行きました」


「それは聞いた」


「それから……屋台で食べたり」


「一緒に?」


「はい」


「写真は?」


舞夜が黙った。


結衣の目がさらに大きくなる。


「……写真、撮ったの?」


「一枚だけです」


「新年に二人で一緒に写真撮ったの!?」


舞夜が慌てて顔を隠す。


「結衣……」


「見せて!」


「駄目です」


「なんで?」


「それは……」


舞夜が俺を見る。


俺も舞夜を見る。


頭の中に、あの日の写真が浮かんだ。


淡い紫色の振袖。


まとめられた髪。


簪。


背景にある神社。


そして、隣に並んで笑っている俺たち。


「……大切な写真だから」


俺が答えた。


結衣が胸に手を当てる。


「それ、余計に怪しいんだけど!」


「怪しくない」


「じゃあ見せてよ」


「駄目」


「なんで?」


俺は少し考えてから答えた。


「……俺たちの写真だから」


結衣が黙った。


そして――。


ゆっくりと笑った。


「……ああ」


舞夜が顔を上げる。


「何ですか?」


「ううん」


結衣は腕を組み直した。


「でも、もう一つ大事な質問がある」


「何?」


「新年の願い事、先に言ったのはどっち?」


舞夜が瞬きをする。


「え?」


「せっかく二人で初詣に行ったんでしょ?」


「はい」


「願い事はした?」


「……しました」


「それで?」


「言えません」


「どうして?」


「秘密だからです」


「なんで?」


「そういうものですから」


結衣がため息をつく。


「二人とも秘密が多すぎない?」


「秘密なんてありません」


舞夜が答える。


「あるじゃん」


結衣が俺の手首を指差す。


「お守り」


次に舞夜を指差す。


「写真」


そして俺を指差す。


「初詣」


最後に、にっこりと笑った。


「それに、まだ私に言ってないことがある気がする」


舞夜の顔が、再び真っ赤になる。


「何もありません」


「本当に?」


「本当です」


結衣がしばらく舞夜を見つめる。


そして――。


「舞夜」


「……はい?」


「大樹にキスされた?」


空気が止まった。


舞夜が目を見開く。


俺も思わず固まった。


「な、何を聞いてるんですか!?」


舞夜が叫ぶ。


結衣が吹き出した。


「あはは! やっぱり何かあったんだ!」


「そんなこと言ってません!」


「でも否定もしなかったじゃん!」


「突然そんなことを聞かれたら、答えられないだけです!」


舞夜の顔は完全に真っ赤になっていた。


俺は慌てて口を挟む。


「結衣、もうその辺にしておけよ」


「はいはい」


結衣は両手を上げる。


「もう聞かないよ」


そして、少し間を置いて。


「……今はね」


「それ、全然安心できないんだけど」


「安心しなくていいよ」


結衣は楽しそうに笑いながら、自分の席へ戻っていった。


舞夜はしばらく黙っていた。


そして、少しだけ俺のほうへ身を寄せる。


「……大樹くんのせいです」


「俺の?」


「はい」


「なんで?」


「『俺たちの写真だから』なんて言うからです」


「でも、本当のことだろ?」


舞夜が黙り込む。


そして、また顔を赤くした。


「……はい」


小さく頷く。


「そうですけど……」


そのあと、舞夜は控えめに笑った。


結衣に冬休みのことを尋問されたせいで、朝からずいぶん騒がしくなってしまった。


でも――。


不思議と嫌な気持ちはしなかった。


あの日の写真を思い出すたびに、今までとは少し違う感覚がある。


それは、ただのお正月の思い出ではない。


俺と舞夜。


二人だけの思い出だ。


そう思うと――。


なぜか、少し嬉しかった。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


新年早々、結衣の鋭い追及が始まりました。


大樹と舞夜が隠していることに、結衣はどこまで気づいているのでしょうか。


次回もお楽しみに!

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