↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
252/319

舞夜の願い

絵馬を他の参拝客のものと一緒に掛け終えたあと、俺たちは境内を歩き続けた。


さっきよりも参拝客の数は少し減っている。


境内はまだ賑やかだったが、先ほどよりもゆっくり歩けるようになっていた。


舞夜は小さなバッグに片手を添えている。


「大樹くん」


「ん?」


「一つ聞いてもいいですか?」


「もちろん」


「参拝の時、何をお願いしたんですか?」


「言わない約束だっただろ?」


「はい」


「じゃあ、教えられないな」


「……そうですか」


舞夜が少しだけ頬を膨らませる。


「つまらないです」


「舞夜だって教えてくれてないじゃないか」


「それは秘密ですから」


「じゃあ、お互い様だな」


「……そうでもないですよ」


「どうして?」


舞夜が微笑む。


「私は、自分が何をお願いしたのか知っています」


「俺だって、自分が何をお願いしたか知ってるよ」


「じゃあ、二人とも同じ状況ですね」


「そういうことだな」


俺たちはそのまま歩き続ける。


けれど、数秒後。


舞夜がもう一度口を開いた。


「……でも」


「ん?」


「もしかしたら、ヒントくらいなら教えてもいいですよ」


「それだけでも十分だな」


舞夜は少し考える。


「私の願いは……今年に関係しています」


「学校のこと?」


「違います」


「家族?」


「それも違います」


「じゃあ……何?」


舞夜は、俺たちの前に続く道を見る。


「私にとって、大切な人に関係することです」


俺は黙った。


「……大切な人?」


「はい」


「誰なのか、聞いてもいい?」


舞夜が横目で俺を見る。


「……もう分かっていると思います」


俺の心臓が、小さく跳ねた。


「俺?」


舞夜が笑う。


「……かもしれません」


「それ、答えになってないだろ」


「これ以上は教えません」


「舞夜って、意外と謎が多いよな」


「大樹くんが、少し好奇心旺盛すぎるんです」


俺たちはそのまま歩き続ける。


しばらくすると、小さな木造の橋が見えてきた。


そこからは、境内の一部を見渡すことができる。


俺たちは橋の上で足を止めた。


舞夜がそっと手を欄干に置く。


「……綺麗ですね」


「うん」


俺たちは数秒間、静かに景色を眺めた。


やがて、舞夜が口を開く。


「私の願いは、すごく簡単なものだったんです」


「……今なら教えてくれる?」


舞夜はしばらく黙っていた。


そして、微笑む。


「今年も、大樹くんと一緒にたくさんの思い出を作れますように」


俺は舞夜を見る。


「……それが願い?」


「はい」


「……いい願いだな」


「大樹くんは?」


「俺は言わない」


「じゃあ、私も言わなければよかったですね」


「でも、もう聞いちゃったから」


「そうですね」


舞夜が笑う。


「去年みたいな一年になってほしかったんです」


少しだけ間を置いて。


「……ううん」


「去年より、もっと素敵な一年にしたいです」


「きっとできるよ」


「本当ですか?」


「ああ」


「どうやって?」


「これからも一緒にいろんなことをすればいい」


舞夜が嬉しそうに笑う。


「じゃあ、やることがたくさんありますね」


「やること?」


「はい」


「旅行にも行って」


「写真もたくさん撮って」


「一緒に出かけて」


「イベントも楽しんで」


「一緒にご飯を食べて……」


俺は思わず笑った。


「それ、仕事じゃなくて遊びじゃないか?」


「私にとっては大切なことです」


「じゃあ……」


俺も笑う。


「全部やろう」


舞夜が俺を見る。


「……約束してくれますか?」


「約束する」


舞夜がそっと手を差し出した。


「新年の約束です」


俺はその手を見つめる。


そして、ゆっくりと手を重ねた。


「新年の約束だな」


指が自然に絡む。


どちらも、すぐには手を離さなかった。


「大樹くん」


「ん?」


「一緒に来られて、本当によかったです」


「俺も」


「……すごく嬉しいです」


舞夜が笑う。


風が吹き、髪に飾られた小さな簪がわずかに揺れた。


冬の日差しが、舞夜の横顔を優しく照らしている。


その瞬間。


周りに大勢の人がいることさえ、俺は忘れていた。


頭の中にあるのは、ただ一つ。


新しい一年の最初の日は――。


俺が望んでいた通りに始まった。


舞夜と一緒に。


「そういえば……」


舞夜が突然、口を開いた。


「どうした?」


「私のおみくじ、もっとちゃんと見てみませんか?」


「大吉だったってことは、もう知ってるけど」


「違います」


「大事なところです」


舞夜はバッグから、さっきのおみくじを取り出した。


「ここです」


紙を開いて、俺に見せる。


「大切な人との関係は、お互いを信じることで少しずつ深まっていく……って書いてあります」


俺はその文章を見る。


「……ずいぶん具体的だな」


「そう思いますよね?」


「神社に全部見られてる気がする」


舞夜が笑い出した。


「じゃあ、ちゃんと従わないといけませんね」


「そうだな」


「お互いを信じること」


舞夜が俺を見る。


「それなら、もうできていますよね」


「……うん」


俺も舞夜を見る。


「もう、できてると思う」


舞夜が静かに笑った。


「はい」


俺たちは、そのまましばらく橋の上にいた。


やがて、舞夜が少しだけ顔を上げる。


「大樹くん」


「ん?」


「……明けましておめでとうございます」


俺は笑った。


「明けましておめでとう、舞夜」


その言葉は、もうただの新年の挨拶ではなかった。


新しい一年の始まり。


そして――。


これから二人で見つけていく、新しい物語の始まりだった。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


舞夜が新年に願ったのは、大樹ともっと思い出を作ることでした。


二人の新しい一年が、ここから始まります。


次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。