初詣
参拝を終えると、俺たちはゆっくりとその場を離れた。
後ろには、次の順番を待つ大勢の人たちがいる。
俺たちは、人の少ない境内の一角へ向かって歩いた。
「舞夜は、もうお願いした?」
俺が尋ねると、舞夜は首を横に振った。
「それは言わない約束です」
「やっぱり?」
「はい」
「じゃあ、大樹くんも?」
「俺も言わない」
「よかった」
舞夜が満足そうに笑う。
「二人とも、ちゃんとルールを守っていますね」
「そのルール、舞夜が勝手に作ったんだけど」
「関係ありません」
俺たちは笑いながら、参拝客の間を歩いていく。
周囲には、お守りや絵馬、それから新しい一年の幸運を願うための小さな縁起物を売る店が並んでいた。
舞夜が、その一つの前で足を止める。
「……お守り、買いたいです」
「どれにする?」
「まだ決めてません」
舞夜は並んでいるお守りを一つずつ眺めていく。
学業成就。
健康祈願。
開運。
厄除け。
いろいろな種類がある。
「これなんてどう?」
俺は小さな紫色のお守りを指差した。
舞夜が手に取る。
「……可愛いですね」
「それに、舞夜に似合ってる」
「私に?」
「色が」
「……あ」
舞夜が少し笑う。
「別の意味かと思いました」
「別の意味?」
「……何でもありません」
舞夜はそのお守りを買い、バッグの中へ大切にしまった。
それから、別のお守りを指差す。
「大樹くんは?」
「俺は学業のお守りにしようかな」
「……すごく普通ですね」
「実用的だろ」
「でも、お正月ですよ?」
「だからこそだよ」
舞夜が笑う。
「じゃあ、私が選びます」
「舞夜が?」
「はい」
舞夜はしばらくお守りを眺める。
そして、小さな青色のお守りを手に取った。
「これです」
「どうしてそれ?」
「大樹くんに似合うと思ったから」
「……お守りって、似合うとかあるの?」
「あります」
舞夜は俺にお守りを差し出す。
「どうぞ」
「ありがとう」
俺は受け取ったお守りを大切にポケットへしまった。
「これで、今年最初の日の思い出が一つ増えたな」
「はい」
舞夜が嬉しそうに笑った。
俺たちはそのまま歩き続ける。
やがて、別の場所へやってきた。
そこには、おみくじを引くために並んでいる人たちがいた。
舞夜がすぐに足を止める。
「……引きたいです」
「おみくじ?」
「はい」
「もし悪い結果だったら?」
「その時は乗り越えます」
「……ずいぶん前向きだな」
「私は前向きですから」
俺たちは列に並んだ。
数分待って、ようやく順番が来る。
舞夜が箱に手を入れ、小さな紙を一枚取り出した。
そして、それを開く。
舞夜の目が輝いた。
「大樹くん!」
「何?」
「見てください!」
舞夜が紙を見せてくる。
「……大吉?」
「はい! 大吉です!」
舞夜は嬉しそうに笑う。
「やっぱり」
「何が?」
「今年は良い一年になるって、分かってました」
「まだ何も起きてないだろ」
「関係ありません」
「もう結果が出たんですから」
「おみくじって、そういうものじゃないと思うけど……」
「今は喜ばせてください」
俺は思わず笑った。
それから、自分のおみくじを引く。
紙を開く。
「俺は……吉だ」
舞夜が近づいてくる。
「吉なら悪くないですね」
「……『悪くない』?」
「私は大吉ですから」
「だからって、舞夜のほうが上ってことじゃないだろ」
「少しくらいは上ですよ」
「すごい自信だな……」
舞夜が声を出して笑った。
そして、自分のおみくじを丁寧に折りたたむ。
「それ、どうするの?」
俺が尋ねる。
「持って帰ります」
「ここに結ばないの?」
「はい」
舞夜は紙を見つめる。
「取っておきたいので」
「どうして?」
「本当に叶うか、確かめたいんです」
「じゃあ、一年間待たないとな」
「はい」
「もし叶わなかったら?」
舞夜は少し考える。
「……神社のせいにします」
「それは、さすがに可哀想だろ」
「知りません」
舞夜が笑った。
俺たちはそのまま歩き続ける。
すると、今度は多くの参拝客が小さな木の板に願い事を書いている場所が見えてきた。
舞夜がしばらくその様子を眺める。
「……書いてみませんか?」
「また?」
「今度は別です」
「分かった」
俺たちは一枚の絵馬を買った。
舞夜が筆を手に取る。
「何を書くの?」
「秘密です」
「……まだそれ続くの?」
「言うとは一度も言ってません」
舞夜はそう言って、丁寧に願い事を書き始めた。
やがて書き終える。
舞夜が俺に筆を渡す。
「次は大樹くんです」
「分かった」
俺も自分の願いを書く。
そして、二人で絵馬を掛ける。
隣同士に。
相手が何を書いたのかは分からない。
それでも――。
なぜか、自分たちの願いが並んでいることが嬉しかった。
「大樹くん」
「ん?」
「来年も、ここに来ませんか?」
俺は舞夜を見る。
「うん」
「じゃあ、決まりですね」
「そんな簡単に?」
「はい」
舞夜が笑う。
「来年のお正月にも、約束が一つできました」
「……デートの約束?」
「……デートとは言ってません」
「今、言っただろ」
「言ってません」
「はっきり言ったよ」
舞夜の顔が赤くなる。
「……忘れてください」
俺は笑った。
舞夜も笑う。
そして、俺たちはそのまま境内を歩いていった。
隣に掛けられた二つの絵馬。
そこに何が書かれているのか、俺たちはまだ知らない。
でも――。
今は、それを知らなくてもよかった。
いつか、その願いが叶った時。
その時に、お互いの願いを知ればいい。
そんな気がしていた。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
二人は初詣でお守りやおみくじを楽しみ、来年の約束までしました。
隣に並んだ二人の願いが、いつか交わる日も近いかもしれません。
次回もお楽しみに!




