↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
250/318

いつもとは違う出会い

神社へ向かう道は、俺が想像していた以上に混雑していた。


通りには、同じ方向へ向かう人たちが大勢いる。


家族連れ。


カップル。


友達同士。


誰もが同じ目的を持っているようだった。


新しい一年を、初詣から始めるために。


舞夜は俺の隣を歩いている。


振袖の長い袖が、歩くたびに柔らかく揺れていた。


時々、寒さから身を守るように羽織を少し整えている。


「大丈夫?」


俺が尋ねる。


「はい」


「寒くない?」


「少しだけ」


「もう少し早く歩こうか?」


「いえ」


舞夜は首を横に振った。


「ゆっくり、この道も楽しみたいです」


俺は笑った。


「分かった」


そのまま歩き続ける。


けれど――。


俺は、どうしても時々舞夜を見てしまう。


振袖は本当によく似合っていた。


淡い紫色が、深い紫色の髪と、まとめた髪に飾られた小さな簪によく合っている。


「……どうして、さっきからずっと私を見てるんですか?」


突然、舞夜が尋ねてきた。


「え?」


「もう何分も見てますよ」


「……ごめん」


「気に入らないですか?」


「いや」


「……違う?」


「そういう意味じゃなくて……」


俺は少しだけ言葉に詰まった。


「……すごく似合ってると思って」


「……本当に?」


「うん」


「じゃあ……」


舞夜は少し笑った。


「見てもいいですよ」


「本当に?」


「はい」


そして、少しだけ頬を赤くする。


「……でも、あまり見すぎないでください」


「それ、矛盾してない?」


「知りません」


舞夜が笑い始めた。


俺もつられて笑った。


それから数分歩くと、いくつかの屋台が並ぶ小さな通りに出た。


焼きたての食べ物の香りが、冷たい空気の中に広がっている。


「大樹くん!」


舞夜が一つの屋台を指差した。


「ん?」


「見てください」


そこには、たい焼きやたこ焼き、りんご飴、それから色々な和菓子が並んでいた。


「何か食べる?」


「……はい」


「何がいい?」


舞夜は並んでいる屋台を見渡す。


「分かりません」


「多すぎます」


「じゃあ、一緒に何か食べよう」


「一緒に?」


「うん」


舞夜が嬉しそうに笑った。


「それなら、いいですね」


俺たちは小さなたい焼きを二つ買った。


舞夜は両手でたい焼きを持つ。


「……温かい」


「それはよかった」


「はい」


舞夜が小さくかじる。


その瞬間、目が輝いた。


「美味しいです」


「俺も食べていい?」


舞夜の動きが止まった。


自分のたい焼きを見る。


それから俺を見る。


「……私の?」


「うん」


「大樹くん、自分でも買えますよ?」


「分かってる」


俺は笑った。


「でも、舞夜のを食べてみたい」


舞夜の顔が赤くなる。


少し迷ったあと、俺にたい焼きを差し出した。


「……一口だけですよ」


「分かった」


俺は小さく一口かじった。


「……うん」


「美味しい」


舞夜が笑う。


「これで、食べ物も共有ですね」


「そうなるな」


「……変ですか?」


「いや」


俺は舞夜を見る。


「俺は好きだよ」


舞夜は視線を落とし、隠すように小さく笑った。


俺たちはたい焼きを食べながら、再び歩き始めた。


そして数分後。


目の前に神社が見えてきた。


入口には、正月らしい飾りが施されている。


その先には、大勢の人が参拝のために並んでいた。


舞夜が立ち止まる。


「……着きましたね」


「うん」


舞夜は神社を見る。


それから俺を見る。


「私たちにとって、初めての新年ですね」


「そうだな」


「……嬉しいです」


「俺も」


俺たちは他の参拝客と一緒に境内へ入っていった。


いつもの神社とは、まるで違う雰囲気だった。


遠くから鐘の音が聞こえる。


お香の香りが、冷たい空気の中に漂っている。


人々は静かな声で話しながら、少しずつ前へ進んでいく。


舞夜は草履で歩きにくそうにしながら、慎重に足を運んでいた。


その時――。


「……あっ」


舞夜の足が、少しだけもつれた。


「危ない!」


俺は反射的に舞夜の手を取った。


舞夜がバランスを取り戻す。


「ありがとうございます」


「大丈夫?」


「はい」


舞夜が、俺たちの繋がった手を見る。


手はまだ繋がったままだった。


どちらも、すぐには離さなかった。


舞夜が小さく笑う。


「……このままのほうが、歩きやすそうですね」


「たぶん」


俺たちは、そのまま手を繋いで進んだ。


手を繋ぐのは、これが初めてじゃない。


それでも――。


大勢の人に囲まれたこの場所で。


一年の最初の日に。


こうして手を繋いで歩いていることが、いつもとは少し違って感じられた。


やがて、俺たちは参拝する場所の前までやってきた。


舞夜がそっと手を離す。


「大樹くん」


「ん?」


「何をお願いするんですか?」


「まだ決めてない」


「後から教えてくれませんよ?」


「どうして?」


「言ったら、叶わなくなるかもしれないからです」


「それ、迷信だろ」


「関係ありません」


舞夜は少しだけ胸を張る。


「お正月なんですから、こういうことは守らないと」


俺は笑った。


「じゃあ、舞夜も教えないでよ」


舞夜が少しだけ顎を上げる。


「最初から言うつもりありません」


「じゃあ、お互い秘密だな」


「はい。約束です」


俺たちは並んで、神社の前に立った。


二人で。


この一年の、最初の日に。


そして俺は目を閉じる。


何を願おうかと考えた。


けれど――。


頭に浮かんだのは、一つだけだった。


今年が、去年よりもっと良い一年になりますように。


そして何より――。


この一年も、舞夜と一緒に過ごせますように。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


二人の初詣が始まりました。


新しい一年に、大樹と舞夜はどんな思い出を作っていくのでしょうか。


次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。