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八神家の人々

俺たちはリビングのソファに座った。


舞夜は俺の隣に座り、千代子さんはテーブルの上にお茶といくつかのお菓子を並べていく。


「大樹くんの口に合うといいんだけど」


「はい。ありがとうございます」


俺は両手で湯呑みを持った。


向かい側には久那さんが座っている。


数秒間、誰も何も話さなかった。


やっぱり少し気まずい。


舞夜が父親を見る。


それから俺を見る。


何か言おうとしているようだったが、結局何も言わずに黙っていた。


「それじゃあ……」


千代子さんが口を開いた。


「大樹くんは、舞夜とはどうやって知り合ったの?」


「学校です」


俺は答える。


「同じクラスだったんです」


「最初に話しかけたのは、どっち?」


俺は舞夜を見る。


舞夜も俺を見る。


「舞夜」


「大樹くん!」


舞夜の顔が赤くなる。


「何?」


「言わなくてもよかったのに……!」


「でも、本当のことだろ」


千代子さんが楽しそうに笑う。


「それは気になるわね」


「違うんです。正確には……」


舞夜が慌てて説明しようとする。


「じゃあ、どうだったの?」


「私……」


舞夜は言葉を探す。


「ただ、大樹くんに話しかけただけです」


「それが始まりだったんだな」


久那さんは黙ったまま、俺たちを見ていた。


そして、しばらくしてから口を開く。


「それから?」


「それから、友達になりました」


俺が答える。


「それから、二人で過ごす時間が増えていったのよね」


千代子さんが続けた。


「はい」


舞夜が小さくうなずく。


「……かなり増えました」


久那さんがお茶を一口飲む。


「二人で、どんなことをしている?」


「いろいろあります」


俺が答える。


「修学旅行とか、学校の行事とか……」


「それに、一緒に出かけたりもします」


舞夜が付け加えた。


「出かける?」


久那さんの眉が、ほんの少し上がる。


舞夜はすぐに気づいた。


「はい」


「でも……」


舞夜は少し慌てて付け加える。


「友達としてです」


「そうか」


久那さんは、それ以上何も言わなかった。


千代子さんが微笑む。


「クリスマスはどうだったの?」


舞夜の顔が、また赤くなる。


「……楽しかったです」


「何をしたの?」


「イルミネーションを見に行きました」


「二人で?」


「はい」


「プレゼントも交換したの?」


「はい」


舞夜が少しだけ手首を上げる。


千代子さんがブレスレットを見る。


「可愛いわね」


「大樹くんがくれました」


「舞夜ちゃんは?」


舞夜が俺の手首を見る。


「……同じものを」


千代子さんが嬉しそうに笑った。


「まあ。素敵ね」


「お母さん……」


「だって、とてもロマンチックじゃない」


「……もう」


久那さんも俺たちのブレスレットを見る。


それから舞夜を見る。


「プレゼントを交換したのか」


「はい」


「そうか」


また一口、お茶を飲む。


俺は思った。


この人が言う「そうか」には、いろいろな意味があるらしい。


「お父さん」


舞夜が少し困ったように声をかける。


「何だ?」


「一つ一つ、そんなに深く考えなくてもいいですからね」


「別に、何も考えていない」


千代子さんが笑う。


「考えてるじゃない」


久那さんが小さく息を吐く。


「ただ、娘と長い時間を一緒に過ごしている男の子のことを知りたいだけだ」


「それは、当然だと思います」


俺は答えた。


久那さんが俺を見る。


「舞夜とは、うまくやっているか?」


「はい」


「舞夜を大切にしているか?」


「もちろんです」


「舞夜を信頼しているか?」


「はい」


舞夜が少し驚いたように俺を見る。


久那さんは数秒間、黙っていた。


そして――。


小さくうなずいた。


「……そうか」


その一言で、少しだけ空気が柔らかくなった。


千代子さんが今度は俺の家族について聞いてくる。


俺は霞、丈明、妙子のことを話した。


「じゃあ、大樹くんはもう八神家に来たのね」


「はい」


「どうだった?」


「すごく楽しかったです」


「舞夜は緊張してた?」


「……かなり」


「大樹くん!」


舞夜が目を見開く。


「本当だろ?」


「言わなくてよかったのに!」


「舞夜だって、俺が緊張してたって話したじゃないか」


「それは別です!」


「何が違うんだよ」


「それは……」


舞夜は言葉に詰まる。


千代子さんが楽しそうに笑った。


「ふふっ。二人とも、お互いのことをよく見ているのね」


「はい」


「そうですね」


俺と舞夜の声が同時に重なった。


俺たちは顔を見合わせる。


そして、自然と笑った。


久那さんは、その様子を黙って見ていた。


そして――。


初めて、少しだけ表情が柔らかくなった。


「……それなら、よかった」


俺たちは一斉に久那さんを見る。


「何がですか?」


舞夜が尋ねる。


久那さんは、少しだけ舞夜を見る。


「こうやって自然にいられる相手が、お前にできたことだ」


舞夜は何も言わなかった。


ただ、しばらくしてから静かに笑った。


「……私も、そう思います」


その言葉は、とてもシンプルだった。


でも、俺には分かった。


舞夜にとって、それはきっと、とても大切な言葉だった。


午後の時間が過ぎていく。


俺は少しずつ理解し始めていた。


舞夜の家族に会うことは、最初に思っていたほど怖いものではなかった。


千代子さんは優しくて。


舞夜はいつも通りで。


そして、久那さんも――。


少しずつ俺を見てくれている。


ただ、一人だけ。


まだ、ちゃんと二人きりで話していない人がいる。


舞夜の父親。


そして、ここへ来てからずっと向けられていた久那さんの視線を考えると……。


その会話は、もうすぐ始まる。


そんな予感がしていた。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


大樹は少しずつ八神家に馴染み始めました。


しかし、久那との本当の会話はまだこれからです。


次回もお楽しみに!

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