↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/337

大樹の到着

翌日。


俺は約束の時間より数分早く、駅に到着した。


どうしてこんなに緊張しているのか、自分でも分からない。


今までにも、友達の両親に会ったことくらいはある。


でも、今回は違う。


これから会うのは――舞夜の家族だ。


ここ数ヶ月、舞夜と一緒に過ごしてきた時間を考えると、この訪問には特別な意味があるような気がしていた。


その時、スマートフォンが振動した。


『もう着きましたか?』


舞夜からだった。


『うん。駅にいる』


すぐに返信が来る。


『今、向かいます』


俺はスマートフォンをしまった。


それから数分後。


駅の向こうから、舞夜が歩いてくるのが見えた。


「大樹くん」


「おはよう」


「早く来たんですね」


「舞夜もだろ」


「一人で待たせたくなかったので」


舞夜は微笑んだ。


冬らしい服装に、小さなバッグを持っている。


「……緊張してる?」


「してません」


「嘘だろ」


「……少しだけです」


舞夜は恥ずかしそうに笑った。


俺たちは並んで歩き始めた。


家へ向かう途中、舞夜が両親について説明してくれる。


「母は、かなり穏やかな人です」


「それなら安心だな」


「父は……」


「昨日、厳しいって聞いたよ」


「はい」


「やっぱり心配したほうがいい?」


「大丈夫です」


舞夜は少し考えてから続けた。


「ただ……たぶん、いくつか質問されると思います」


「どんな?」


「学校のこと」


「それなら答えられる」


「将来のこと」


「それも大丈夫」


「……私のこと」


俺は少し黙った。


「それは……難しそうだな」


舞夜が笑う。


「そういうことです」


「で、舞夜はどうする?」


「もちろん、大樹くんの味方です」


「それなら安心した」


「ただ……」


「ん?」


舞夜が少し困ったような顔をする。


「もし父が、あまりにも答えにくい質問をし始めたら……」


「したら?」


「助けられるとは約束できません」


「舞夜!」


舞夜が声を出して笑った。


「ふふっ、ごめんなさい」


数分後。


俺たちは二階建ての家の前に到着した。


舞夜が立ち止まる。


「着きました」


俺は目の前の家を見る。


「……綺麗な家だな」


「ありがとうございます」


「準備はできた?」


「……たぶん」


「それ、あまり安心できない答えだな」


「ごめんなさい」


舞夜は一度、深く息を吸った。


「……行きましょう」


そして、玄関の扉を開ける。


「ただいま!」


すぐに家の中から女性の声が返ってきた。


「おかえりなさい!」


やがて、優しそうな表情の女性が姿を現す。


舞夜が一歩横へ移動した。


「お母さん。この人が南大樹くん」


俺は軽く頭を下げる。


「初めまして。南大樹です」


「今日は迎えてくださって、ありがとうございます」


「そんなにかしこまらなくていいのよ」


女性は笑った。


「八神千代子です。ようこそ」


「ありがとうございます」


千代子さんは舞夜を見る。


それから俺を見る。


そして、もう一度舞夜を見る。


その口元に、ゆっくりと笑みが浮かんだ。


「あなたが大樹くんね」


「はい」


「舞夜から、いろいろ聞いているわ」


舞夜の顔が一気に赤くなる。


「お母さん……」


「何?」


「そういう言い方しないでください」


「だって、本当のことじゃない」


千代子さんが楽しそうに笑う。


俺が何か答える前に、別の部屋から男性の声が聞こえてきた。


「もう来たのか?」


舞夜の身体が、ほんの少しだけ固くなる。


「ええ」


千代子さんが答える。


廊下の向こうから、一人の男性が現れた。


表情は穏やかだった。


けれど、かなり真剣な雰囲気がある。


舞夜がその男性を指す。


「大樹くん……」


「私の父です」


俺は姿勢を正した。


「初めまして」


「南大樹です」


男性は俺を数秒間じっと見つめた。


「八神久那だ」


「今日は迎えてくださって、ありがとうございます」


久那さんが小さくうなずく。


「……ようこそ」


短い沈黙が流れる。


舞夜が父親を見る。


それから俺を見る。


何かを待っているようだった。


そして、久那さんが口を開いた。


「……君が、あの男の子か」


「……あの男の子?」


俺が聞き返す。


舞夜が顔に手を当てた。


「お父さん……」


久那さんが舞夜を見る。


「何だ?」


「そういう言い方はやめてください」


千代子さんが笑い始めた。


「いいじゃない。ちょっと緊張させてるだけでしょう?」


「緊張させるつもりはない」


久那さんが真顔で答える。


「本当に?」


舞夜が呆れたように父親を見る。


「……もう始まってる」


俺は思わず笑ってしまった。


緊張していたはずなのに。


そのやり取りを見ていると、なんだか少しだけ肩の力が抜けていく。


久那さんが横へ移動する。


「上がりなさい」


「ありがとうございます」


舞夜が先に家の中へ入る。


俺もその後に続いた。


玄関の扉を閉める前に、舞夜が振り返った。


そして、俺に微笑む。


「大丈夫ですよ」


俺は小さくうなずいた。


そして――。


俺たちは一緒に家の中へ入った。


この時の俺は、まだ知らなかった。


この日の午後が――。


俺たちのこれまでの中でも、かなり気まずくて。


それなのに、同時に大切な会話の一つになることを。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


いよいよ大樹が八神家を訪れました。


次回は、久那と大樹の本格的な会話が始まります。


次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。