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南家で過ごす午後

キッチンでは、舞夜が霞と一緒にお茶の準備をしていた。


「手伝わなくても大丈夫よ」


霞が言う。


「いえ、大丈夫です」


舞夜は笑った。


「私もやりたいので」


霞は数秒間、舞夜の様子を見つめた。


「……大樹が話していた通りの子ね」


舞夜が驚いたように顔を上げる。


「大樹くん、私のことを何て言っていたんですか?」


「とても気が利く子だって」


「……そうなんですか」


舞夜は少しだけ視線を落とした。


「そんなに私のことを話していたなんて、知りませんでした」


「大樹は、そんなにたくさん話すほうじゃないのよ」


霞は微笑む。


「でも、話す時には……分かるの」


「何がですか?」


「あなたが、大樹にとって大切な存在だってこと」


舞夜の手が止まった。


持っていたトレイの上で、指先が静かに動きを止める。


「……本当ですか?」


「ええ」


霞は優しく笑った。


「驚いた?」


「少しだけ……」


舞夜は小さく息を吐く。


「大樹くんって、そういうことを直接言うタイプじゃないので」


「じゃあ、もう少し注意して聞いてみるといいかもね」


舞夜は小さく笑った。


「……そうかもしれません」


二人はお茶を持って、リビングへ戻った。


「ありがとうございます」


妙子がカップを受け取る。


「どういたしまして」


舞夜は再び大樹の隣に座った。


「大丈夫だった?」


俺が尋ねる。


「はい」


舞夜は笑った。


「お母さん、とても優しいですね」


「だから言っただろ」


霞も向かいの席に座る。


「舞夜ちゃん、一つ聞いてもいい?」


「はい。もちろんです」


「クリスマスはどうだった?」


舞夜が瞬きをする。


「クリスマスですか?」


「ええ」


「……とても、楽しかったです」


舞夜が俺を見る。


「すごく素敵な一日でした」


妙子が笑う。


「二人で何かしたの?」


「はい」


舞夜が答える。


「イルミネーションを見に行きました」


「二人だけで?」


「はい」


俺が慌てて口を挟む。


「いや、周りにはたくさん人がいたけど」


「そこは聞いてないよ」


妙子が笑う。


舞夜も思わず吹き出した。


「……とても楽しい時間でした」


「それで、プレゼントも交換したの?」


霞が尋ねる。


舞夜は少しだけ手首を持ち上げた。


「はい」


霞がブレスレットを見る。


「そのブレスレット……」


「大樹から?」


舞夜がうなずく。


「はい」


そして、俺の手首を見る。


「大樹くんも、私からプレゼントしたものをつけています」


妙子が俺の手首を見る。


「あ、本当だ」


「気づいてなかったのかよ」


「今気づいた」


「俺たち、お互いにプレゼントしたんです」


舞夜が説明する。


霞は微笑んだ。


「素敵ね」


舞夜は少し恥ずかしそうに視線を落とした。


「……簡単なものですけど」


「シンプルなプレゼントほど、大切なこともあるのよ」


霞が言う。


「どうしてそれを選んだのか。その気持ちのほうが大事だから」


舞夜が顔を上げる。


「……はい」


少し考えてから、舞夜は頷いた。


「私も、そう思います」


短い沈黙が流れた。


そして、妙子が尋ねる。


「じゃあ、舞夜ちゃんにとって、大樹との一番好きな思い出って何?」


舞夜はしばらく考え込んだ。


「……一つには決められません」


「一つも?」


「はい」


舞夜は微笑む。


「全部、それぞれ違う大切さがありますから」


「京都への旅行も特別でした」


「文化展示会も」


そして、少しだけ照れながら続ける。


「それに……クリスマスも」


俺は舞夜を見る。


「どうして?」


舞夜がこちらを見返す。


「……初めて、理由がなくても大樹くんと一緒に出かけたいと思えたからです」


俺は何も言えなかった。


その言葉を聞いた母さんと妙子が、顔を見合わせる。


二人とも、微笑んでいた。


「じゃあ……」


母さんが口を開く。


「舞夜ちゃんにとって、大樹はどんな人なの?」


舞夜の動きが止まった。


「……え?」


「正直に答えてくれていいのよ」


「母さん……」


俺が止めようとする。


けれど、舞夜が小さく首を振った。


「大丈夫です」


そして、ゆっくりと息を吸う。


「最初は……」


舞夜は俺を見る。


「大樹くんは、ただのクラスメイトでした」


少し間を置く。


「それから、一緒に話すのが楽しい人になって」


「もっと一緒にいたいと思うようになって……」


舞夜は自分の手首にあるブレスレットを見る。


「そして今は……」


その声が、少しだけ小さくなる。


「未来のことを考えると、いつも隣に大樹くんがいるんです」


心臓が、大きく跳ねた。


妙子が優しく笑う。


「それなら、十分答えになってるね」


舞夜の顔が赤くなる。


「……まだ、私たちの関係を正確にどう呼べばいいのかは分かりません」


それでも、舞夜は続けた。


「でも……」


顔を上げる。


「これからも、大樹くんと一緒にいたいです」


母さんは静かに頷いた。


「それで十分よ」


「……本当に?」


「ええ」


霞は優しく微笑む。


「今すぐ全部の答えを出す必要なんてないもの」


「大切なのは、二人が同じ方向へ進んでいることだから」


舞夜は小さく笑った。


「……ありがとうございます」


その時。


廊下から声が聞こえた。


「大樹、ちょっと手伝ってくれ!」


「分かった」


俺はソファから立ち上がる。


部屋を出る前に、舞夜を見る。


彼女は小さく笑った。


「行ってきてください」


「うん」


俺が廊下の向こうへ消える。


すると、妙子が舞夜のほうへ少し身を寄せた。


「じゃあ、今ならゆっくり話せるね」


舞夜が瞬きをする。


「……何についてですか?」


妙子が笑う。


「本当に大樹のことをどう思ってるのか」


舞夜の顔が一気に赤くなる。


「……さっき、かなり話したと思います」


霞が小さく笑った。


「大丈夫よ」


「無理に答えさせたりしないから」


舞夜は少し安心したように息を吐く。


けれど――。


二人はまだ知らなかった。


舞夜が大樹について語る時、まだ一つだけ話していないことがある。


それは、舞夜自身が認めるまでに一番時間のかかった感情。


大樹が他の誰かと親しくすることへの――。


小さな嫉妬。


そして、その気持ちを話すことで。


霞は、舞夜にとって大樹がどれほど大きな存在なのかを、さらに深く知ることになる。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


舞夜は、ついに大樹への気持ちを家族に少しだけ語りました。


でも、まだ話していない感情があります。


次回もお楽しみに!

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