予想外の招待
冬休みが、正式に始まった。
学校は休みになり、朝の街もいつもよりずっと静かだった。
クリスマスが終わり、年末までにはまだ数日ある。
その日の朝、俺は自分の部屋で、ここ数週間に撮った写真をぼんやりと眺めていた。
京都。
体育祭。
文化展示会。
そして、クリスマス。
一枚一枚の写真に、それぞれ違う思い出が残っている。
そんな写真を見ているうちに、ふと舞夜のことを考えた。
冬休みが始まってから、メッセージでは何度も話している。
けれど、まだ直接会う機会はなかった。
俺はスマートフォンを手に取る。
少し前から考えていたことがあった。
もしかしたら――。
舞夜を家に招待してみてもいいんじゃないか。
せっかくだから、家族にも会ってほしい。
それに、俺が普段どんな場所で暮らしているのかも知ってほしかった。
俺は舞夜とのトーク画面を開く。
『舞夜』
すぐに返事が届いた。
『はい?』
俺はゆっくりと文字を打つ。
『今日の午後、暇?』
すると、画面に入力中の表示が現れた。
『はい。
どうしたんですか?』
俺は一度、深呼吸する。
『俺の家に来ない?』
送信した。
返事が来るまで、少し時間がかかった。
『大樹くんの家に?』
『うん。
午後、一緒に過ごせたらと思って』
そして、もう一つ。
『それと……家族にも舞夜を紹介したい』
送信してから、俺は画面を見つめた。
少し直接的すぎたかもしれない。
でも、もう送ってしまった。
数秒後。
返事が届いた。
『……ぜひ、行きたいです』
思わず笑みがこぼれた。
『じゃあ、午後に来て』
『はい。
何時ですか?』
『二時』
『分かりました。
二時に行きます』
スマートフォンを置く。
なぜか、妙に嬉しかった。
けれど――。
そこで一つ思い出す。
まだ家族に何も伝えていない。
俺は階段を下り、リビングへ向かった。
そこには霞と妙子がいた。
「母さん」
「どうしたの?」
「今日、舞夜が来る」
霞がすぐに顔を上げた。
「舞夜?」
「うん」
「八神舞夜ちゃん?」
「そう」
妙子も、ゆっくりと手を止めた。
「写真に写ってた子?」
俺は少し黙った。
「……うん」
母さんが笑う。
「あなたが招待したの?」
「そうだけど」
「そうなのね」
「なんでそんな顔で笑うんだよ」
「別に、普通だけど?」
「普通じゃないだろ」
妙子が楽しそうに笑い始めた。
「何時に来るの?」
「二時」
霞が時計を見る。
「それなら、まだ準備する時間はあるわね」
「別に、何もしなくていいって」
「もちろん、何もしないわけにはいかないでしょう」
「母さん……」
「初めてうちに来るんだから」
妙子も立ち上がる。
「じゃあ、私はリビングを片付けるね」
「いや、十分綺麗だから!」
「今よりもっと綺麗にするの」
二人が同時に動き始めた。
俺はため息をつく。
「……思ってたより、大ごとになってきたな」
その時、スマートフォンが振動した。
舞夜からだった。
『大樹くん』
『どうした?』
『なんだか、急に緊張してきました』
俺は笑う。
『そんなに緊張しなくていいよ。
いつも通りで大丈夫だから』
『大樹くんは簡単に言えますけど……』
『うん?』
『私、これから大樹くんの家族全員に会うんですよ?』
……確かに。
それを言われると、舞夜の気持ちも分かる。
『家族も、舞夜に会えるのを楽しみにしてるよ』
少し間があった。
『……それを聞くと、もっと緊張します』
思わず笑ってしまった。
『俺を信じて』
しばらくして、返事が届く。
『……大樹くんのことは、信じています』
画面を見つめる。
その言葉を見た瞬間、不思議と俺の緊張まで少し和らいだ。
一方、その頃。
舞夜は自分の部屋で、クローゼットの前に立っていた。
ベッドの上には、何着もの服が並べられている。
「……何を着ていけばいいんでしょう」
ただの家への訪問。
家族に会うだけ。
それなのに――。
少しでも良い印象を持ってもらいたかった。
舞夜はしばらく悩んだ末、シンプルで上品な服を選んだ。
かしこまりすぎず。
かといって、普段着すぎない。
そして家を出る前。
舞夜は自分の手首を見る。
そこには、クリスマスにもらったブレスレットがあった。
小さな刻印。
『思い出を一緒に』
舞夜は微笑む。
「……大丈夫」
小さく息を吸う。
「私なら、できます」
午後二時。
玄関のチャイムが鳴った。
俺の心臓が、少しだけ跳ねる。
俺は玄関へ向かった。
そして、ドアを開ける。
そこに舞夜が立っていた。
両手には小さな袋。
そして、少し緊張した表情。
「こんにちは、大樹くん」
「こんにちは」
「……時間、大丈夫でしたか?」
「ぴったりだよ」
舞夜は安心したように笑った。
「それなら……」
一度、深呼吸する。
「お邪魔してもいいですか?」
「もちろん」
俺は横へ退く。
舞夜が玄関を越える。
その瞬間。
彼女はまた一歩、俺の日常へ近づいた。
これまで写真や会話の中でしか知らなかった、俺の生活。
その場所へ――。
舞夜が入ってきた。
そして俺は思った。
今日、この家に入ってくるのが舞夜でよかったと。
心から、そう思った。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
冬休みが始まり、今度は舞夜が大樹の家へ。
次回は、いよいよ家族との初対面です。
お楽しみに!




