忘れられないクリスマス
クリスマスの朝は、静かにやってきた。
昨日の夜のことを思い出しながら、俺は目を覚ました。
もしかしたら、全部夢だったんじゃないか。
そんなことを考えながら、ふと自分の手首を見る。
そこには、ちゃんとブレスレットがあった。
小さな刻印も残っている。
『また一緒に』
思わず笑った。
その時、スマートフォンが振動した。
舞夜からのメッセージだった。
『おはようございます』
時間を見る。
まだ朝早い。
俺は返信した。
『おはよう。よく眠れた?』
すぐに返事が届いた。
『はい。
でも、寝る前に昨日のことをずっと考えていました』
胸が少しだけ高鳴る。
『俺も』
数秒後。
『大樹くんがプレゼントを気に入ってくれて、嬉しいです』
『すごく気に入ってる。
舞夜のも、本当に嬉しかった』
『じゃあ、お互い様ですね』
思わず笑った。
そして、もう一通。
『ねえ、大樹くん。
昨日、一番嬉しかったことって何でしたか?』
俺は少し考えた。
『プレゼント?』
しばらくして、返事が来る。
『違います。
大樹くんと一緒に過ごせたことです』
画面を見つめたまま、言葉が出てこなかった。
どう返せばいいのか分からない。
それでも、ゆっくり文字を打った。
『俺も』
それだけだった。
会話は、そこで終わった。
けれど、その短い言葉だけで、俺は朝からずっと笑顔だった。
昼頃になると、家族が集まり始めた。
霞が料理の準備をしている。
妙子はクリスマスの飾り付けをしていた。
家の中は、いつもと変わらない穏やかな空気に包まれている。
それでも、気づくと俺の視線は何度も手首へ向かっていた。
「それ、何をつけてるの?」
霞が尋ねる。
「何でもないよ」
「それ、ブレスレットでしょ?」
「まあ……うん」
「誰かにもらったの?」
俺は黙った。
霞はすぐに笑う。
「ああ」
「何だよ」
「何も言ってないけど?」
「顔が言ってる」
霞は楽しそうに笑った。
「じゃあ、大切なものなんだね」
俺はブレスレットを見る。
「……うん」
「たぶん、大切だと思う」
その頃、舞夜の家でも同じようなことが起きていた。
千代子が、娘の手首に目を向ける。
「それ、新しいわね」
舞夜は手首を少し持ち上げた。
「はい」
「大樹くんから?」
舞夜の顔が一気に赤くなる。
「……どうして分かったんですか?」
「帰ってきてから、ずっとそれを見てるもの」
近くにいた久那も、微笑みながら言った。
「じゃあ、いいクリスマスになったんだね」
舞夜は恥ずかしそうに視線を落とした。
「……はい」
少し間を置いて、静かに続ける。
「とても、いいクリスマスでした」
夜になった。
俺は部屋の窓から外を眺めていた。
舞夜も、きっと同じように今日を終えようとしている。
その時、スマートフォンが振動した。
『まだ起きていますか?』
『うん。
舞夜も?』
『はい』
俺は窓の外を見ながら尋ねた。
『何してるの?』
少しして、返事が届く。
『昨日のことを考えています。
あっという間でしたね』
俺は笑った。
『またできるよ』
『クリスマスをですか?』
『違う』
『……?』
『また一緒に出かけること』
少しだけ間があった。
そして――。
『……はい。
また一緒に出かけたいです』
俺は空を見上げた。
街の明かりが、小さな星のように輝いている。
『じゃあ、また行こう』
『約束ですよ』
『約束』
俺はスマートフォンを置いた。
クリスマスは、まだ正式には終わっていない。
けれど、俺にとってはもう特別な意味を持つ日になっていた。
ただのイベントじゃない。
舞夜とプレゼントを交換した夜。
二人でイルミネーションの下を歩いた夜。
そして――。
一緒にいたいと思うために、もう理由を探さなくてもいいと気づいた夜。
もしかすると、それこそが――。
一番のプレゼントだったのかもしれない。
ブレスレットでもない。
写真でもない。
箱の中にしまっておける思い出でもない。
十二月が終わり、新しい一年が始まっても。
俺たちには、まだたくさんの物語が待っている。
そして、まだたくさんの思い出を作ることができる。
これからも――。
一緒に。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
二人にとって、忘れられないクリスマスになりました。
そして、新しい一年へ。
これからも二人の物語を見守っていただけたら嬉しいです。
次回もお楽しみに!




