イルミネーションの下で
広場を離れたあと、俺たちは少し静かな通りへ向かった。
クリスマスのイルミネーションは、街路樹や建物を照らし続けている。
けれど、大通りの喧騒は少しずつ遠ざかっていった。
「こっちは、ずいぶん静かですね」
舞夜が言った。
「そうだな」
「私、こういう場所も好きです」
俺たちはさらに数メートル歩いた。
すると、小さな公園が見えてきた。
何人か人はいるものの、ほとんど人影はない。
中央にはベンチがあり、その前には白いイルミネーションで飾られた小さな木が立っていた。
「……綺麗ですね」
「うん」
俺たちはベンチに座った。
数秒間、どちらも何も話さなかった。
空気は冷たい。
それでも、白い光に包まれたこの場所は、不思議と暖かく感じられた。
舞夜が空を見上げる。
「大樹くん」
「ん?」
「一緒に来てくれて、ありがとうございます」
「誘ってくれたのは舞夜だろ」
「それでも……嬉しいです」
「俺も、誘ってもらえてよかった」
舞夜が少しだけ視線を落とす。
頬が赤くなっていた。
「……私も、大樹くんと一緒に過ごしたかったです」
その後に訪れた沈黙は、今までとは少し違っていた。
気まずくない。
ただ、お互いにこの時間を終わらせたくない。
そんな気がした。
舞夜が俺たちの手元を見る。
「大樹くん」
「どうした?」
「最初の『ノーデート』、覚えていますか?」
「もちろん」
「あの時は、一緒に午後を過ごすだけでも特別なことだと思っていました」
「俺もそう思ってた」
「でも……」
舞夜が小さく笑う。
「今は、これが普通になったらいいなって思います」
「普通?」
「はい」
舞夜はゆっくりと言葉を続けた。
「一緒に出かけたり」
「うん」
「一緒に歩いたり」
「うん」
「手を繋いだり」
舞夜は少し照れながら、自分たちの手を見る。
「写真を撮ったり」
そして、俺のほうを見た。
「そういうことを、何か理由がなくても大樹くんとできるようになりたいです」
俺は舞夜を見つめた。
「俺も、そうなったらいいと思う」
舞夜は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、同じですね」
「そうだな」
その時、冷たい風が吹いた。
舞夜が小さく身を震わせる。
「寒い?」
「少しだけ」
「じゃあ、そろそろ戻るか?」
「……まだ」
「え?」
「もう少し、ここにいたいです」
俺は黙った。
そして、ポケットに手を入れる。
指先に触れた小さな箱を取り出した。
「舞夜」
「はい?」
俺は箱を差し出した。
「これ、舞夜に」
舞夜の目が大きく開く。
「……私に?」
「うん」
「でも……まだクリスマスじゃ……」
「分かってる」
俺は笑った。
「今、開けていいよ」
舞夜は箱を大切そうに受け取った。
そして、ゆっくりと蓋を開ける。
中に入っていたのは、星のペンダント。
小さな金属の飾りが、公園のイルミネーションを受けて淡く輝いている。
舞夜はそれを指先でそっと持ち上げた。
「……綺麗」
「気に入ってくれるといいと思って」
舞夜はペンダントを見つめる。
そして、小さな刻印に気づいた。
「……『思い出を一緒に』」
「うん」
舞夜はしばらく何も言わなかった。
やがて、ゆっくりと笑う。
その笑顔は、とても自然で。
そして、心から嬉しそうだった。
「……すごく嬉しいです」
「本当?」
「はい。本当に」
舞夜はペンダントを大切そうにしまう。
それから俺を見る。
「これからも、大樹くんとの思い出を増やしていけそうですね」
「そのために選んだんだ」
舞夜は少しだけ俺との距離を縮めた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
舞夜は俺の手を取った。
「じゃあ……」
「ん?」
「今度は私の番です」
そう言って、鞄から小さな箱を取り出した。
「……舞夜も?」
「はい」
箱を俺に差し出す。
「メリークリスマス」
俺は箱を受け取った。
そして、蓋を開ける。
中には、シンプルな革のブレスレットが入っていた。
「俺に?」
「はい」
「……綺麗だな」
「大樹くんが、身につけてくれたらいいなと思って」
俺はブレスレットを手に取った。
そして、裏側を見る。
小さな刻印が入っていた。
『また一緒に』
俺はその文字をじっと見つめる。
「舞夜……」
「大樹くんに似合うと思ったので」
「うん」
俺はブレスレットを腕につけた。
それから顔を上げる。
舞夜は、嬉しそうに笑っていた。
「これで、私たち二人とも一つずつですね」
「そうだな」
「しかも、どちらにもメッセージがあります」
「うん」
「……やっぱり、私たちって考えることが似てますね」
舞夜が小さく笑った。
「もしかして、息が合いすぎてるんでしょうか」
「結衣にも、よく言われるな」
「……結衣には言わないでくださいね」
「分かった」
「絶対ですよ?」
「言わないって」
俺たちは、そのままイルミネーションの下でベンチに座っていた。
やがて、また手が触れ合う。
今度は、どちらも迷わなかった。
舞夜がゆっくりと指を絡める。
「大樹くん」
「ん?」
「今年のクリスマス……」
舞夜は少しだけ笑った。
「きっと、忘れられない思い出になりますね」
俺も笑う。
「俺もそう思う」
白い光が、俺たちを静かに照らしている。
その瞬間、俺は思った。
この時間に、これ以上何かを求める必要はない。
告白もいらない。
俺たちの関係に名前をつける必要もない。
今はただ――。
こうして一緒にいられる。
それだけで、十分だった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
クリスマスの夜、二人はお互いにプレゼントを贈りました。
そして、二人だけの大切な思い出がまた一つ増えました。
次回もお楽しみに!




