大樹からのプレゼント
十二月二十四日の朝は、思っていたよりも早くやってきた。
クリスマス・イブ。
目を覚ましてから、俺は鞄の中に大切にしまってある小さな箱のことばかり考えていた。
舞夜へのプレゼント。
家を出る前にも、ちゃんと入っているか何度も確認した。
「……なんでこんなに緊張してるんだ?」
誰かにプレゼントを渡すのは、これが初めてというわけじゃない。
それでも、今回は何かが違った。
舞夜に、本当に喜んでもらいたかった。
放課後、俺たちは駅で待ち合わせることになっている。
家を出る前に、数日前に舞夜からもらった小さな袋も確認した。
あの小さな猫は、今も俺の机の上に置いてある。
見るたびに、自然と笑ってしまう。
学校へ着くと、舞夜はすでに教室にいた。
「おはようございます」
「おはよう」
舞夜が俺の顔を数秒見つめる。
「……なんだか緊張してませんか?」
「俺が?」
「はい」
「してないよ」
「してます」
「じゃあ、舞夜は?」
舞夜は黙った。
「……私も、してません」
「じゃあ、二人とも嘘をついてるな」
舞夜が吹き出した。
授業中は、ほとんど話すことができなかった。
みんな、冬休みのことばかり考えているようだった。
そして、ようやく最後のチャイムが鳴る。
生徒たちが次々と教室を出ていく中、舞夜が俺のところへ近づいてきた。
「大樹くん」
「ん?」
「駅で待ち合わせですよね?」
「うん」
「五時です」
「覚えてるよ」
「遅刻しないでくださいね」
「舞夜もな」
舞夜は笑った。
「またあとで」
俺は一度、家へ戻ることにした。
……いや。
正確には、今日の「ノーデート」の待ち合わせまで時間を潰すためだ。
部屋に戻り、机の引き出しを開ける。
中から、小さな箱を取り出した。
最後にもう一度、蓋を開ける。
中に入っているのは、シンプルなブレスレット。
濃い色の革に、小さな金属プレートが付いている。
そこには、短い言葉を刻んだ。
『思い出を一緒に』
大げさな言葉じゃない。
けれど、俺たちにとっては、それだけで十分な意味がある。
俺は箱を閉じた。
そして、深く息を吸う。
「……よし」
時間だ。
駅には約束の数分前に到着した。
駅はたくさんの人で賑わっていた。
家へ帰る家族連れ。
街へ向かうカップル。
そして、クリスマス・イブを楽しもうとしている学生たち。
時計を見る。
あと五分。
三分。
そして――。
「大樹くん」
顔を上げる。
舞夜が立っていた。
明るい色のコートに、白いマフラー。
肩には小さなバッグを掛けている。
制服姿とは、少し違って見えた。
一瞬、何を言おうとしていたのか忘れてしまった。
「どうしたんですか?」
「いや……何でもない」
「さっきから、すごく見てますよ」
「……ごめん」
舞夜は笑った。
「私の服、気に入りました?」
「うん」
「なら、よかったです」
俺たちは並んで歩き始めた。
街はすっかりクリスマスの光に包まれている。
「まず、どこへ行きますか?」
舞夜が尋ねる。
「広場に行こうと思ってる」
「ツリーのところ?」
「そう」
「いいですね」
歩きながら、ポケットの中にある小さな箱の重みを感じる。
まだ渡す時じゃない。
もう少し待ちたい。
ちゃんとした瞬間に渡したかった。
広場に着くと、前に来た時よりもさらに人が増えていた。
目の前には、巨大なクリスマスツリー。
無数の光が夜空を照らしている。
舞夜が顔を上げた。
「……夜に見ると、もっと綺麗ですね」
「そうだな」
「また来られて嬉しいです」
俺たちはゆっくりとツリーへ近づく。
すると舞夜がスマートフォンを取り出した。
「また写真ですか?」
「もちろんです」
俺たちはツリーの前に並んだ。
今回は、俺からどこに立てばいいのか聞く必要もなかった。
舞夜が自然に俺の隣へ近づく。
肩が触れ合う。
カメラのシャッターが切られた。
舞夜は撮った写真を確認する。
「……好きです」
「俺も」
舞夜は満足そうにスマートフォンをしまった。
そして、俺を見る。
「大樹くん」
「ん?」
「メリークリスマス」
俺は笑った。
「まだ数時間早いけどな」
「関係ありません」
舞夜は少しだけ笑う。
「今、言いたかったんです」
「じゃあ……」
俺も彼女を見る。
「メリークリスマス、舞夜」
舞夜が笑った。
ほんの一瞬。
俺たちは何も言わなかった。
それから、また並んで歩き始める。
ポケットの中には、まだ小さな箱が入っている。
でも、もう分かっていた。
いつ渡したいのか。
人の多い場所じゃない。
みんなが見ているところでもない。
二人だけでいられる、静かな場所。
そこならきっと、このプレゼントも新しい思い出の一つになる。
クリスマスの光に照らされた街を歩きながら――。
俺は思った。
ここまで待ったことには、ちゃんと意味があったのだと。




