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疑わしい偶然

翌日、放課後。


俺はもう一度ショッピングモールへ向かっていた。


別に、何かを買う必要があったわけじゃない。


舞夜へのプレゼントは、すでに自分の部屋にしまってある。


ただ、クリスマスまでまだ数日あるとはいえ、準備が全部できているか確認しておきたかった。


当日になってから慌てるのは避けたい。


ショッピングモールに到着すると、昨日以上にたくさんの人で賑わっていた。


家族連れ。


カップル。


学生たち。


みんな、それぞれ何かを探している。


「……すごい人だな」


俺はクリスマス用品を扱っている店へ入った。


プレゼントを入れておく、小さな箱でも見つかればいいと思ったのだ。


棚を眺めていると――。


聞き覚えのある声が聞こえた。


「この大きさで大丈夫かな?」


俺はその場で固まった。


間違えるはずがない。


何度も聞いてきた声だった。


ゆっくりと振り向く。


店の反対側に、舞夜がいた。


「……舞夜?」


「……大樹くん?」


舞夜も俺に気づいた。


俺たちは数秒間、無言で見つめ合った。


「大樹くん、どうしてここに?」


「俺は……」


どう答えるか、一瞬考える。


「買い物」


「私もです」


「そうか」


沈黙。


お互い、何を話せばいいのか分からない。


すると舞夜が、手に持っていた小さな袋をちらりと見る。


そして、慌てたように背中へ隠した。


「……それ、何?」


「何でもありません」


「どう見ても怪しいけど」


「怪しくありません」


「じゃあ、どうして隠すんだ?」


「それは……」


舞夜が言葉に詰まる。


俺は思わず笑った。


「プレゼント?」


舞夜の目が大きく開く。


「違います!」


返事が早すぎた。


「……じゃあ、やっぱりプレゼントだな」


「大樹くん!」


舞夜が頬を膨らませる。


俺は笑いながら両手を上げた。


「分かった。聞かないよ」


「……ありがとうございます」


舞夜はほっとしたように息を吐いた。


「じゃあ、大樹くんは?」


「俺?」


「何を買ってるんですか?」


「何も」


「それは嘘ですよね」


「なんで?」


「ここ、プレゼント用品のお店ですよ?」


「ちょっと見てただけ」


舞夜は小さく笑った。


「じゃあ、私たち……同じことをしているんですね」


「そうみたいだな」


俺たちは並んで店内を歩いた。


けれど、お互いに相手が何を買ったのかは聞かなかった。


まるで、二人の間に無言のルールができていたようだった。


――サプライズを台無しにしない。


「大樹くん」


「ん?」


「大樹くんは、サプライズって好きですか?」


「場合によるかな」


「何によって?」


「誰からもらうか」


舞夜が黙った。


少しだけ視線を落とす。


「……もし、私からだったら?」


「その場合は、たぶん嬉しいと思う」


舞夜の頬が、ほんのり赤くなった。


「……そうですか」


俺たちはそのまま歩き続けた。


やがて、小さなギフトボックスが並んでいるコーナーへたどり着く。


舞夜が一つの箱を手に取った。


「これなら使えそうです」


「そうだな」


「……何に?」


「え?」


「その箱、何に使うんですか?」


舞夜は少し考えてから答えた。


「……何かを入れるためです」


「それじゃ、何の参考にもならないな」


「大樹くんが知る必要はありません」


「分かった」


俺は笑った。


「これ以上は聞かないよ」


「ありがとうございます」


舞夜はその箱を自分の買い物かごへ入れた。


その後、いくつかの店を見て回る。


そして最後に、俺たちは大きなショーウィンドウの前で足を止めた。


ガラスの向こうには、たくさんのイルミネーション。


その奥には、大きなクリスマスツリーが飾られていた。


「綺麗ですね」


舞夜が言った。


「うん」


「この前、一緒に見たツリーを思い出します」


「広場のやつ?」


「はい」


「写真、持ってるよ」


舞夜が笑った。


「私も持ってます」


「もしかして……スマホの壁紙にしてる?」


舞夜の動きが止まった。


「……どうして知ってるんですか?」


「結衣が言ってた」


「……結衣」


舞夜の表情が変わった。


「あとで話があります」


「まあ、いいじゃないか」


俺は思わず笑った。


「全然よくないです!」


「俺は嬉しいけど」


舞夜がこちらを見る。


「……本当ですか?」


「うん」


舞夜は少しだけ考えた。


それから、照れたように笑った。


「……じゃあ、このままにしておきます」


俺たちは再び歩き始め、店の出口へ向かった。


外へ出る前に、舞夜が振り返る。


「大樹くん」


「ん?」


「……プレゼントのこと、秘密にしておいてもいいですか?」


「プレゼント?」


「はい」


「もちろん」


「お互いに?」


「うん。お互いに秘密だ」


舞夜は嬉しそうに笑った。


「じゃあ……クリスマスに」


「またな」


舞夜は駅とは反対方向へ歩いていく。


俺も駅へ向かう。


けれど、数歩進んだところで――。


俺たちは同時に振り返った。


目が合う。


そして、どちらからともなく笑った。


そのまま、俺たちはそれぞれの道を歩いていく。


相手が何を買ったのかは、まだ分からない。


それでも、二人とも同じことを感じていた。


今年のクリスマスは、きっと特別になる。


そして――。


この小さな秘密を抱えたまま過ごす時間が、クリスマスまでの待ち時間を、いつもより少しだけ楽しいものにしていた。

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