↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/321

小さな願い

広場を離れたあとも、俺たちはイルミネーションに彩られた街を歩き続けた。


夜が深くなるにつれて、気温も少しずつ下がっていく。


それでも舞夜は、相変わらず楽しそうにショーウィンドウを眺めていた。


「まだ歩きたいのか?」


「もう少しだけ」


「やっぱりな」


「……からかってます?」


「まさか」


「なんだか怪しいです」


舞夜が笑う。


通りには、カップルや家族連れ、友達同士で歩く人たちがたくさんいた。


いつもの街なのに、今日はまるで別の場所のように見える。


しばらく歩いたところで、小さなカフェが目に入った。


「……入ってみませんか?」


「いいよ」


店内に入り、窓際の席に座る。


窓の向こうには、イルミネーションで彩られた大通りが見えていた。


「来てよかったです」


舞夜が温かい飲み物の入ったカップを両手で包みながら言った。


「俺もそう思う」


「本当ですか?」


「うん」


舞夜は少し嬉しそうに笑った。


「ねえ、大樹くん」


「ん?」


「私、この季節が一番好きかもしれません」


「クリスマスだから?」


「……思い出が増える季節だからです」


「そっちのほうが舞夜らしいな」


「どういう意味ですか?」


「なんとなく、想像通りだったってこと」


「私をどう想像してたんですか?」


「一日に百枚くらい写真を撮る人」


「百枚も撮ってません!」


「じゃあ何枚?」


「……答えません」


俺は笑った。


「じゃあ、やっぱりかなり撮ったんだな」


舞夜は笑いをこらえるように、カップへ視線を落とした。


しばらくして、俺たちはカフェを出た。


駅までは、あと数分。


その途中だった。


「大樹くん」


「どうした?」


舞夜が突然、足を止めた。


目の前のショーウィンドウには、クリスマスの小さな飾りが並んでいる。


その中に、一つだけ星の形をした小さなオーナメントがあった。


舞夜は数秒間、それをじっと見つめる。


「……綺麗ですね」


「うん」


それだけ言うと、舞夜は再び歩き始めた。


けれど、その時の表情が妙に印象に残った。


駅に着く。


舞夜は鞄の肩紐に手を添えながら、俺のほうを見た。


「今日は、付き合ってくれてありがとうございました」


「そんなに気にしなくていいって」


「でも、ありがとうございます」


「じゃあ……どういたしまして」


舞夜は笑った。


そして、少し考えるようにしてから口を開く。


「大樹くんは、私が冬休みに何を願っていると思いますか?」


「何?」


舞夜は数秒間考えた。


「……また一緒に出かけられたらいいな、って」


「それなら簡単に叶えられそうだな」


「本当ですか?」


「約束する」


舞夜の顔に、小さな笑顔が浮かんだ。


電車はまだ来ていなかった。


俺たちはホームのベンチに並んで座る。


静かな時間だった。


しばらくして、舞夜が鞄を開けた。


「……これ」


「何?」


小さな紙袋を渡される。


「家に着くまで、開けないでください」


「怪しいな」


「一人になってから開けてください」


「プレゼント?」


「違います」


「じゃあ何なんだ?」


「……大したものじゃありません」


「紙袋に入れて渡された時点で、十分プレゼントだと思うけど」


舞夜は気まずそうに視線を逸らした。


「とにかく、あとで開けてください」


それから数分後、電車がホームへ入ってきた。


舞夜は立ち上がり、乗り込む前に振り返った。


「また月曜日です」


「うん。また月曜日」


舞夜は小さく手を振ると、乗客の中へ消えていった。


俺は紙袋をコートのポケットへしまった。


家に着くまで、ずっと中身が気になっていた。


そして、ようやく自宅に到着する。


部屋に入り、俺は紙袋を取り出した。


中に入っていたのは――。


小さな猫の形をしたクリスマスオーナメントだった。


「……これ」


思わず手が止まる。


一緒に入っていた小さなメモを開いた。


そこに書かれていた文字を見れば、誰が書いたのかはすぐに分かった。


『これを見たとき、あの猫のキーホルダーを思い出しました。大樹くんも気に入ってくれたら嬉しいです。十二月の始まりに、ちょっとしたプレゼントです』


思わず笑ってしまった。


手の中の小さな猫を見つめる。


そこで、ふと思い出した。


――完璧なプレゼント。


俺はまだ、舞夜へのプレゼントを見つけていない。


けれど、今なら一つだけ手掛かりがある。


さっき舞夜がショーウィンドウで見つめていた、小さな星のオーナメント。


俺はもう一度、メモを読み返した。


そして、小さな猫を机の上に置く。


その隣には、今日撮った写真。


京都で撮った写真。


スポーツフェスティバルの写真。


そして、これまでの思い出の写真。


イルミネーション。


大きなクリスマスツリー。


今日の一枚。


そして、小さな猫。


大切な思い出は、いつも大きな出来事とは限らない。


冬の夕暮れに渡された、小さなプレゼント。


そんな些細な瞬間が、いつか大切な思い出になるのかもしれない。


部屋の明かりを消しながら、俺は思った。


クリスマスは、まだ来ていない。


そして――。


本当に大切な時間は、これから始まる気がした。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


舞夜から、大樹へ小さなクリスマスプレゼント。


そして大樹も、舞夜へのプレゼントを探し始めました。


クリスマスまで、あと少しです。


次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。