予想外の誘い
日々は、あっという間に過ぎていった。
街のあちこちには、クリスマスの飾りが少しずつ増えている。
学校も例外ではなかった。
校舎のロビーの窓には、小さな冬の飾りが並べられ、大きなクリスマスツリーは、多くの生徒たちが写真を撮るお気に入りの場所になっていた。
「どうしてみんな、あそこで写真を撮りたがるんだ?」
俺がそう言うと、舞夜が答えた。
「綺麗だからです」
「ただのツリーだろ」
「飾り付けされたツリーです」
「それでもツリーじゃないか」
舞夜は小さくため息をついた。
「大樹くんって、本当にそういうところありますよね」
「どういうところだよ」
「……説明するのが難しいところです」
「それ、褒めてないよな?」
舞夜は少しだけ笑った。
昼休み。
俺たちがいつものように昼食を食べていると、結衣が大きな笑顔で弁当箱を置いた。
「私、冬休みに何するか決めた!」
「何するの?」
麻美が尋ねる。
「出かける!」
「それだけじゃ何も分からないんだけど」
美子が呆れたように言った。
「クリスマスイルミネーションを見に行くの!」
「今年はかなり多いらしいね」
麻美が言う。
「でしょ? だからこそ行くの!」
結衣はそう言って、ゆっくりと俺たちのほうへ顔を向けた。
「それで、大樹と舞夜は?」
「俺たちはまだ決めてないけど」
俺が答えると、結衣は残念そうな顔をした。
「それは残念だなぁ」
「なんで?」
「だって、イルミネーションって特別な人と一緒に見ると、もっと綺麗に見えるらしいよ?」
舞夜の箸が、危うく落ちそうになった。
「結衣!」
「何?」
「誰もそんな情報、聞いてませんよ!」
「でも大事な情報じゃない?」
「全然大事じゃないです!」
「そうかな?」
「そうです!」
結衣は楽しそうに笑った。
やがて、俺たちの周りにも笑い声が広がっていった。
昼休みが終わり、教室へ戻る。
周りの生徒たちが話をしている中、舞夜は一人、窓の外を眺めていた。
何かを考えているようだった。
俺が声をかけようとしたところで、最後の授業が終わった。
帰りの支度をしていると、隣から声が聞こえた。
「大樹くん」
「ん?」
舞夜は両手で鞄の肩紐を握っていた。
「少し聞いてもいいですか?」
「もちろん」
舞夜は数秒間、視線を別の方向へ向けた。
そして、少しだけ迷ったように口を開く。
「……大樹くんは、クリスマスのイルミネーションって好きですか?」
「考えたことなかったな」
「それ、答えになってませんよ」
「じゃあ……たぶん好きだと思う」
舞夜はゆっくりとうなずいた。
「そうですか」
俺たちは並んで教室を出た。
「どうして聞いたんだ?」
「……なんとなくです」
「またその答えか」
「何か問題でもありますか?」
「最近、舞夜の『なんとなく』は危険な気がしてきた」
舞夜は小さく笑った。
「そうかもしれませんね」
校門を出る。
冷たい風が吹き、生徒たちはみんなポケットに手を入れて歩いていた。
街の店先では、少しずつイルミネーションが灯り始めている。
しばらくの間、俺たちは何も話さなかった。
そして、舞夜が突然足を止めた。
「大樹くん」
「どうした?」
舞夜は深く息を吸った。
「……一緒に、クリスマスのイルミネーションを見に行きませんか?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「イルミネーション?」
「はい」
「二人で?」
俺が聞くと、舞夜は大きく目を見開いた。
「そ、そういう言い方しなくてもいいじゃないですか!」
「いや、ただ確認しただけだろ」
「……その……」
舞夜は少しだけ視線を落とした。
「はい。二人で……です」
思わず笑みがこぼれた。
「行きたい」
「……本当ですか?」
「うん」
さっきまで緊張していた舞夜の表情が、一気に明るくなった。
「じゃあ……よかったです」
その笑顔を見ていると、俺まで嬉しくなってくる。
俺たちは再び歩き始めた。
けれど、さっきまでとは少しだけ空気が違っていた。
舞夜の笑顔が、どうしても隠しきれていなかったからだ。
駅に着くと、舞夜が俺のほうを振り返った。
「それじゃあ、今週末ですね」
「分かった」
「遅刻しないでくださいね」
「俺、遅刻したことないだろ」
「それは当日になってみないと分かりません」
「信用ないな……」
舞夜はくすっと笑いながら、ホームへ向かって歩いていく。
しかし、数歩進んだところで、また振り返った。
「大樹くん」
「ん?」
「……デートじゃないですからね」
「分かってる」
「本当にですよ?」
「分かってるって」
「じゃあ……笑うのやめてください」
「笑ってないけど」
「笑ってます」
舞夜はとうとう声を出して笑った。
「……また明日です」
「また明日」
舞夜は電車に乗り込み、人の中へ消えていった。
俺もそのまま家へ向かう。
けれど、歩きながら何度も思い出してしまった。
――デートじゃないですからね。
その言葉を聞いて、俺が最初に思い出したのは、やっぱりあの日だった。
俺たちの最初の「ノーデート」。
そして、これまでのことを考えると……。
今回も、きっと同じようなことになる気がする。
ただ、この時の俺はまだ知らなかった。
駅の反対側。
一本の柱の陰に隠れて、俺たちの会話を最初から最後まで見ていた人物がいたことを。
「……やっぱりね」
結衣だった。
結衣は満足そうに笑いながら、スマートフォンを取り出す。
そして、グループチャットへ一通のメッセージを送った。
『クリスマス作戦、開始!』
その笑顔を見た瞬間。
俺はまだ知らなかった。
この先、また面倒なことが始まるということを。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
ついに大樹と舞夜が、二人でクリスマスイルミネーションを見に行くことになりました。
もちろん、舞夜は「デートじゃない」と言っています。
ですが……これまでの二人を考えると、今回も普通の「ノーデート」では終わらなさそうですね。
そして、すべてを目撃していた結衣まで動き始めました。
果たして、クリスマスの夜に二人を待っているものとは?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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