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クリスマスの気配

十二月最初の月曜日。


朝から、学校中の生徒たちが一つのものに注目していた。


青龍学園の正面玄関を入ってすぐのホール。


そこに――。


巨大なクリスマスツリーが飾られていた。


枝には小さな電飾が取り付けられ、色とりどりのオーナメントが飾られている。


「いつの間に、あんなのが?」


悠真が驚いたように言った。


「今朝、設置したみたい」


麻美が答える。


「すごいな……」


「まだ、これから飾り付けを増やすらしいよ」


美子が付け加えた。


俺はその会話を聞きながら、自分の席にバッグを置いた。


「大樹くん」


顔を上げる。


舞夜が教室に入ってきたところだった。


首には、暖かそうな毛糸のマフラーを巻いている。


「おはよう」


「おはようございます」


舞夜は自分の席に座った。


「ツリー、見ましたか?」


「ああ」


「どうでした?」


「かなり大きかったな」


舞夜が少し不満そうな顔をする。


「……そういう答えを期待していたわけじゃありません」


「じゃあ、もう少し分かりやすく聞けばよかったんじゃないか?」


「なんだか、つまらない答えです」


「じゃあ、舞夜はどう思ったんだ?」


舞夜の顔に小さな笑みが浮かぶ。


「……好きです」


「それは知ってる」


「どうして分かるんですか?」


「だって、舞夜はそういうのが好きだろ」


「そういうの?」


「写真とか、思い出とか、大切なイベントとか」


舞夜は少しだけ視線を逸らした。


「……そうかもしれません」


その時――。


俺たちの机に、突然二つの手が置かれた。


「おはよう、ラブラブカップルさん」


「俺たちはカップルじゃない」


「私たちはカップルじゃありません」


俺たちは同時に答えた。


結衣が吹き出す。


「やっぱり、二人ともどんどんひどくなってるよ」


「どういう意味ですか?」


舞夜が尋ねる。


「だって、完全に恋人みたいなことしてるじゃん」


「そんなことない」


「本当に?」


結衣は舞夜のスマートフォンを指差した。


「じゃあ、どうして舞夜の待ち受けが大樹との写真なの?」


「……!」


教室が一瞬、静まり返った。


舞夜が目を見開く。


「……どうして知ってるんですか?」


「さっき見えた」


「それは……!」


舞夜が慌ててスマートフォンを隠す。


「勝手に見ないでください!」


「だったら机の上に置いておかないの」


俺は思わず笑ってしまった。


「……大樹くんまで笑うんですか?」


舞夜がこちらを見る。


「少しだけ」


「面白くありません」


「いや、少し面白い」


「……もう」


舞夜は腕を組む。


その横で、結衣は楽しそうに笑い続けていた。


やがて授業が始まった。


それでも、クリスマスの話題は一日を通して何度も出てきた。


昼休みになると、何人もの生徒が冬休みの予定について話している。


「私は家族で祖父母の家に行く予定」


麻美が言う。


「うちは家でゆっくりするかな」


美子が答えた。


すると、結衣が勢いよく手を上げた。


「私は、とっても大事な使命があります!」


「使命?」


俺が聞く。


「二人に、クリスマスデートをしてもらうこと!」


「しない」


俺が即答する。


「します」


舞夜が同時に答えた。


「……え?」


俺と舞夜は顔を見合わせる。


「ちょっと待って」


俺が言う。


「今、『します』って言った?」


舞夜の顔が一気に赤くなる。


「ち、違います!」


「じゃあ、何て言いたかったんだ?」


「『しません』です!」


結衣が机を叩きながら笑い始める。


「もう最高!」


「笑わないでください!」


「だって、訂正するのが遅すぎるんだもん!」


麻美が小さくため息をついた。


「もう、隠しきれなくなってきたね」


「最初から、そんなに隠せてないけどね」


美子が付け加える。


舞夜は両手で顔を覆った。


「……消えてしまいたいです」


「ダメだよ」


結衣が即答する。


「まだクリスマスの話をしないといけないんだから」


「その話はしません」


「するよ」


結衣は教室の壁に掛けられたカレンダーを指差した。


「あと数週間しかないんだから」


「だから、何が?」


俺が尋ねる。


結衣は意味ありげに笑った。


「それは、そのうち分かるよ」


「嫌な予感しかしない……」


午後の授業は、いつもより早く終わったように感じた。


学校を出ると、朝よりもさらに冷たい風が吹いていた。


舞夜は首元のマフラーを整える。


「思っていたより早く、本格的な冬が来た気がします」


「これからもっと寒くなるぞ」


「……それは聞きたくありません」


俺たちは駅へ向かって歩き始めた。


街には小さなイルミネーションが飾られている。


店のショーウィンドウにも、大小さまざまなクリスマスツリーや飾りが並んでいた。


「街が、あっという間に変わりましたね」


舞夜が言う。


「ああ」


「……好きです」


舞夜が嬉しそうに笑う。


「そうだと思った」


「大樹くんは?」


「ん?」


「クリスマスの雰囲気、好きですか?」


俺は少し考える。


「まあ、悪くないかな」


「ふふっ」


舞夜が笑った。


「ねえ、大樹くん」


「ん?」


「今年の十二月……」


舞夜は少しだけ街の明かりを見つめる。


「きっと、楽しい月になりそうですね」


「クリスマスがあるから?」


「それもあります」


舞夜は首を横に振った。


「でも、それだけじゃなくて……全部です」


俺は舞夜を見る。


そして、街を照らすイルミネーションへ視線を移した。


……もしかしたら、舞夜の言う通りなのかもしれない。


なぜか俺には分かる。


十二月は、きっとたくさんの思い出が生まれる月になる。


そして、正直に言えば――。


その思い出を舞夜と一緒に作ることを、俺は少しも嫌だとは思わなかった。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


十二月が始まり、青龍学園にも街にもクリスマスの雰囲気が広がり始めました。


舞夜のスマートフォンの待ち受け写真まで結衣に見つかってしまい、二人の距離はますます隠しきれなくなっています。


そして、結衣が考えている「クリスマスの使命」とは――?


大樹と舞夜の冬の物語は、まだ始まったばかりです。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。


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