冬の始まり
空気が変わった。
朝の冷え込みが日に日に強くなっている。
木々は少しずつ葉を落とし始め、街には小さなクリスマスの飾りが増えていた。
十二月がやってきた。
学校へ向かう途中、吐いた息が白くなるのを見ながら、俺は呟いた。
「寒いな」
「すごく寒いです」
舞夜が答える。
首には淡い色のマフラーを巻いていた。
「十二月って、いつもこんなに寒かったっけ?」
「だいたい、こんなものだと思います」
「俺、寒いの苦手なんだよな」
「知っています」
舞夜が少しだけ笑う。
「それに、大樹くんはいつも手が冷たいですよね」
「いや、それは舞夜もだろ」
「そんなことありません!」
「ほら」
俺は舞夜を見る。
「今だって、手をポケットに入れてるじゃないか」
「寒いからです」
「それが俺の言いたいことなんだけど」
舞夜が少しだけ顔を逸らす。
「……証拠がありません」
「証拠ってなんだよ」
思わず笑ってしまった。
学校に着くと、入口の近くで結衣と出会った。
「おはよう」
「おはようございます」
俺たちは同時に答えた。
結衣が目を細める。
「またシンクロしてる?」
「その話はやめてください」
舞夜がすぐに答える。
結衣は俺たちの表情を数秒間じっと見つめた。
「やっぱり、何か変わったよね」
「何も変わってない」
「はいはい」
結衣は意味ありげに笑いながら、俺たちと一緒に校舎へ入っていった。
午前の授業は、いつも通り穏やかに進んだ。
けれど、昼休みになった時――。
麻美が窓の外を指差した。
「見て」
校庭には、いつの間にか小さなクリスマスの飾りが取り付けられていた。
「もう始まったんだね」
美子が言う。
「こんなに早く?」
舞夜が驚いたように尋ねる。
「クリスマスまでもうすぐだからね」
麻美が答える。
「今年は、本当に早かったな」
俺は校庭を眺めながら呟いた。
確かにそうだった。
京都への修学旅行が、つい数日前の出来事のように感じる。
でも、あれから――。
いろいろなことが変わった。
写真。
ノーデート。
体育祭。
文化展示会。
放課後の散歩。
そして、繋いだ手。
俺は舞夜を見る。
彼女は、女の子たちと楽しそうに話していた。
笑っている。
その姿を見て、ふと思った。
今年の冬は――。
きっと、今までとは違う冬になる。
「大樹くん」
俺が顔を上げる。
「ん?」
「聞いていますか?」
「まあ……少しは」
「つまり、聞いていなかったんですね」
舞夜がため息をつく。
「何の話だったんだ?」
「クリスマスの話です」
「もうその話をしてるのか?」
「もちろん!」
結衣が割り込んできた。
「クリスマスは一年で一番大事な恋愛イベントなんだから!」
「それは言いすぎだろ」
「そんなことないよ!」
結衣が俺たちの前に立つ。
「イルミネーション」
「プレゼント」
「飾り付け」
「美味しい料理」
「写真」
そして――。
「デート!」
舞夜の顔が一瞬で赤くなる。
「どうして最後にそれを入れるんですか?」
「なんとなく」
結衣が楽しそうに笑う。
「今の二人には、ちょうどいい言葉かなって」
「結衣……」
「分かった、分かった」
結衣は両手を上げた。
「もう言わないよ」
その後の昼休みは、冬休みの話で盛り上がった。
家族と過ごす予定。
買い物。
クリスマスの飾り。
いろいろな話が出てくる。
でも、なぜか――。
「クリスマス」という言葉を聞くたびに、俺は舞夜を見てしまった。
そして、それは舞夜も同じだったようだ。
何度か目が合う。
そのたびに、二人とも少しだけ照れてしまう。
放課後。
俺たちは一緒に学校を出た。
空は灰色の雲に覆われていた。
風も、いつもより冷たい。
「大樹くん」
「ん?」
「大樹くんは、冬が好きですか?」
俺は数秒考えた。
「前は、特に何とも思ってなかった」
「今は?」
俺は舞夜を見る。
冷たい風が吹き、舞夜の髪が優しく揺れた。
「……今は、少し好きかもしれない」
「どうしてですか?」
俺は笑った。
「分からない」
舞夜が少し目を細める。
「……怪しいですね」
「そうかもな」
舞夜も笑った。
俺たちは、そのまま歩き続ける。
店の明かりが、少しずつ街を照らしていく。
ショーウィンドウには、すでにクリスマスツリーを飾っている店もあった。
街全体が、新しい季節の到来を告げているようだった。
舞夜が空を見上げる。
「今年も、もう終わるんですね」
「ああ」
「……いい一年でした」
「俺もそう思う」
俺たちは、しばらく黙って歩いた。
やがて、舞夜が小さな声で言う。
「来年も……いい一年になるといいですね」
俺は舞夜を見る。
「きっとなるよ」
「本当ですか?」
「ああ」
「どうして?」
俺は少し笑った。
「これからも、きっと思い出を作っていく気がするから」
舞夜が俯く。
そして、口元に小さな笑顔が浮かんだ。
「……私も、そうだと嬉しいです」
冷たい風が、もう一度吹いた。
俺は何も言わずに、舞夜の手へ自分の手を近づける。
舞夜も、自然にその手を取った。
指が絡む。
そして、俺たちはそのまま歩き続けた。
十二月は、まだ始まったばかり。
クリスマスまでは、まだ少し時間がある。
新年も、まだ先だ。
それでも――。
俺には、なんとなく分かっていた。
この冬は、きっと俺たちの人生の中でも、大切な思い出の一つになる。
だって、今の俺たちはもう――。
一人では歩いていない。
二人で歩いている。
そして、この冬は――。
まだ始まったばかりだった。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
十二月が始まり、街にも少しずつクリスマスの気配が増えてきました。
京都、体育祭、文化展示会を経て、さらに距離を縮めた大樹と舞夜。
二人にとって、この冬はどんな思い出になるのでしょうか?
クリスマス、そして新しい年へ――。
二人の物語を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
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