予想外の中断
空が少しずつ暗くなり始めた頃、俺たちはようやくベンチから立ち上がった。
「そろそろ戻りましょうか」
舞夜が言う。
「そうだな」
俺は頷いた。
「でも、もう少し歩いてもいいけど」
「大樹くんは、早く帰らなくても大丈夫なんですか?」
「まだ時間はあるよ」
「それなら……」
舞夜が嬉しそうに笑った。
「もう少し歩きましょう」
俺たちは、そのまま公園の遊歩道を歩き始めた。
街灯が一つ、また一つと点灯していく。
数分間、俺たちは何も話さなかった。
ただ、並んで歩いている。
それだけだった。
「……こういうの、好きです」
舞夜が突然言った。
「こういうのって?」
「大樹くんと歩くために、理由を作らなくてもいいことです」
俺は舞夜を見る。
「俺も好きだよ」
「前は、いつも何か理由が必要でしたから」
舞夜が指を折る。
「学校の課題」
「文化祭」
「買い物」
「確かにな」
「でも、今は違います」
「うん」
舞夜が微笑んだ。
「今は、ただ一緒にいたいからって言えるんです」
その言葉を聞いて、俺の顔が少し熱くなる。
「……そうだな」
俺は照れながら答えた。
「それって、結構いいことだと思う」
「はい」
舞夜も笑った。
そのまま、しばらく歩いていると――。
「――大樹ー!!」
聞き覚えのある声が響いた。
俺は足を止めた。
舞夜も立ち止まる。
――まさか。
いや。
またか。
俺たちはゆっくり振り返った。
すると、結衣が麻美と美子を連れて、こちらへ走ってくるところだった。
「二人とも、こんなところで何してるの!?」
結衣が息を切らしながら尋ねる。
「歩いてるだけだよ」
俺が答える。
「二人で?」
「うん」
「手を繋いで?」
俺は自分たちの手を見る。
まだ、指は絡んだままだった。
「……うん」
結衣が完全に動きを止めた。
そして――。
ゆっくりと両腕を上げる。
「――やっぱりね!!」
「声、大きいって!」
「無理だよ!」
結衣は興奮したように叫ぶ。
「これは歴史的瞬間なんだから!」
麻美が額に手を当てる。
「もう、結衣は無視していいよ」
美子も頷いた。
「そのうち落ち着くから」
「ちょっと待って!」
結衣が俺たちのところまで近づいてくる。
「じゃあ……」
意味ありげに俺たちを見る。
「これも、またノーデート?」
舞夜の顔が赤くなる。
「……正確には、違います」
「じゃあ、何?」
舞夜は繋いだ手を見る。
それから、俺を見る。
「これは……」
少し考える。
「お出かけ、です」
結衣が目を細める。
「手を繋いで歩く、お出かけ?」
「はい」
「何時間も一緒に過ごす、お出かけ?」
「はい」
「デザートを一緒に食べる、お出かけ?」
「……はい」
「それで、最初のノーデートをした場所にも行った?」
舞夜が黙り込む。
結衣がニヤリと笑った。
「へえ……」
「何も言わないでください」
舞夜が小さな声で頼む。
「私、まだ何も言ってないよ?」
「顔に全部出ています」
結衣が笑い始める。
「分かった、分かった」
そして、少しだけ優しい表情になる。
「でも……二人がちゃんと前に進んでるみたいで、私は嬉しいよ」
舞夜が俯く。
「……ありがとう」
「え?」
結衣が驚いたように目を丸くする。
「その……」
舞夜は少し照れながら続けた。
「私たちを手伝ってくれたことに」
結衣はしばらく黙っていた。
やがて、笑う。
「私は何もしてないよ」
「ただ、何ヶ月も二人をからかってただけ」
「それが結構大きかったんじゃないか?」
俺が言う。
「じゃあ、結果的には成功したってことかな」
結衣が得意そうに胸を張る。
その時、麻美が近づいてきた。
「せっかくここにいるなら――」
「私たちと一緒に来ない?」
「これから食べ物を買いに行くんだけど」
俺は舞夜を見る。
舞夜も俺を見る。
「……行く?」
「はい」
舞夜が頷いた。
「行きたいです」
「よし!」
結衣が両腕を上げる。
「じゃあ、みんなでお出かけだ!」
「待って」
舞夜が首を傾げる。
「最初は四人だったんじゃ……?」
「今は五人だよ」
「五人?」
結衣は堂々と答えた。
「私、一人で二人分だから!」
「……どういう意味ですか?」
舞夜が困ったように笑う。
俺たちは思わず吹き出した。
「なんだそれ」
「いいじゃん!」
結衣も笑う。
俺たちはそのまま、五人で公園の出口へ向かった。
歩いている途中――。
舞夜が、もう一度俺の手を握った。
今度は、迷いもなかった。
結衣も、それに気づいている。
けれど――。
意外にも、何も言わなかった。
ただ、静かに微笑んでいた。
その表情を見て、俺はふと思った。
もしかしたら、結衣も気づいているのかもしれない。
もう、誰かに背中を押してもらう必要はない。
俺たちは、自分たちの意思で少しずつ前へ進んでいる。
次にどんな一歩を踏み出すのか。
それがいつになるのかは、まだ分からない。
それでも――。
俺たちは、これからも一緒に歩いていきたい。
今は、それだけが分かっていた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
偶然のような形で結衣たちと合流することになった大樹と舞夜。
それでも、二人が自分たちの意思で一歩ずつ前へ進んでいることに、結衣も気づき始めたようです。
二人が次に踏み出す一歩は――?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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