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小さな約束

カフェを出た後、俺たちは急ぐことなく、そのまま歩き続けた。


夕暮れが近づき、少しずつ空が暗くなっていく。


通りの店では、明かりが一つ、また一つと灯り始めていた。


舞夜は、ずっと俺の隣を歩いている。


そして今度は――。


俺たちの手は、ずっと繋がったままだった。


どちらも、離そうとはしなかった。


「ねえ、大樹くん」


「ん?」


「私、気づいたことがあるんです」


「何に?」


舞夜は少し考えてから、ゆっくり話し始めた。


「大樹くんと少しずつ距離が近くなっていった頃……私は、全部が一気に進むものだと思っていたんです」


「全部?」


「告白して」


「うん」


「返事をしてもらって……その後は――」


舞夜は困ったように笑った。


「……どうなるのか、よく分かりませんけど」


「今は?」


俺が尋ねると、舞夜は俺の手を見ながら微笑んだ。


「今は……少しずつでいいと思っています」


「少しずつ?」


「はい」


舞夜は頷いた。


「今までみたいに」


俺は少し考えた。


「俺も、そのほうが好きだな」


「じゃあ、共通点ですね」


「一つどころじゃないだろ」


「ふふっ」


舞夜が小さく笑った。


俺たちはそのまま歩き続け、やがて小さな公園へたどり着いた。


人の姿は少なく、静かな場所だった。


俺たちはベンチに並んで座る。


舞夜が、繋いだままの手を見る。


「京都のこと、覚えていますか?」


「ああ」


「あの夜……初めて、こうして手を繋ぎましたね」


舞夜が少しだけ繋いだ手を持ち上げる。


「ああ」


「すごく緊張していました」


「俺もだよ」


「そうは見えませんでした」


「平静を装ってたんだ」


「ふふっ。上手でしたね」


「舞夜もな」


舞夜は空を見上げる。


「私は、あの時から何かが大きく変わると思っていました」


「実際、変わっただろ」


「はい」


舞夜は微笑む。


「でも……私が想像していたのとは違いました」


「どんなふうに想像してたんだ?」


舞夜は少し考える。


「学校に戻ったら、気まずくなると思っていました」


「……」


「どう接すればいいのか分からなくなってしまうんじゃないかって」


「それが――」


「逆でしたね」


舞夜が笑った。


「ノーデートをしたり」


「手を繋いだり」


「毎日のように?」


「毎日じゃない」


「……ほとんど毎日です」


「まあ……そうだな」


舞夜が楽しそうに笑う。


「ふふっ。そうかもしれません」


しばらく静かな時間が流れた。


すると舞夜が、バッグの中から何かを取り出した。


「見てください」


それは、あの小さな白い猫のキーホルダーだった。


「まだ持ってるんだな」


「はい」


舞夜は以前と同じように、バッグにつけているキーホルダーを指でそっと撫でる。


「大切に持っておくって言いましたから」


「ちゃんと約束を守ってるな」


「もちろんです」


舞夜はキーホルダーを見つめる。


「これを見るたびに、あの日のことを思い出します」


「じゃあ、買った意味はあったな」


「はい」


舞夜は嬉しそうに笑い、キーホルダーを再びバッグにしまった。


そして、俺を見る。


「……大樹くん」


「ん?」


「一つ、約束してほしいことがあります」


「約束?」


舞夜が頷く。


「いつが一番いいタイミングなのか……まだ分かりません」


「……」


「言いたいことも、まだ全部言葉にできていません」


舞夜は少しだけ視線を落とした。


「でも……焦りたくないんです」


「分かった」


俺が答えると、舞夜は少し安心したように笑った。


「だから、それまでは――」


舞夜が俺の手を優しく握る。


「これからも、大樹くんと一緒に思い出を作っていきたいです」


その言葉を聞いた瞬間、京都の夜を思い出した。


あの時も、俺たちは同じような約束をした。


ただ、今回は――。


その言葉を口にしたのは、舞夜だった。


「じゃあ、俺からも一つ約束する」


「何ですか?」


「どれだけ時間がかかっても――」


俺は舞夜の目を見る。


「俺はずっと、舞夜の隣にいる」


舞夜の目が少しだけ見開かれる。


そして、ゆっくりと笑った。


「……その約束、好きです」


「俺も好きだよ」


「ふふっ」


俺たちは、しばらく何も言わなかった。


風が木々の葉を優しく揺らしている。


静かな公園に、その音だけが響いていた。


数分後。


舞夜が、そっと俺の肩に頭を預けてきた。


俺は何も言わなかった。


ただ、そのまま隣にいる。


「大樹くん」


「ん?」


「ありがとうございます」


「何が?」


舞夜は俺の肩に頭を預けたまま、小さく笑った。


「全部です」


「全部?」


「こういう時間を、こんなに自然に過ごさせてくれること」


俺は少し考えてから答えた。


「舞夜も、同じようにしてくれてると思うけどな」


「……そうですか?」


「ああ」


舞夜が俺の肩で小さく笑う。


「それなら……お互い様ですね」


「そうだな」


俺たちは、そのまましばらく過ごした。


急ぐ必要はない。


誰かにどう思われるかを気にする必要もない。


まだ、俺たちは正式に恋人になったわけじゃない。


それでも――。


初めて、はっきりと感じた。


俺たちは今、同じ場所へ向かって歩いている。


ゆっくりと。


でも、確かに。


二人で。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


焦らず、少しずつ前へ進むことを選んだ大樹と舞夜。


「これからも一緒に思い出を作る」という小さな約束が、二人にとってどんな意味を持つのでしょうか。


二人が歩いていく先を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。


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