いつもと違う午後
文化展示会が終わった。
学校は少しずつ、いつもの日常を取り戻していた。
廊下に飾られていた看板も片付けられ始め、教室も普段の姿へと戻っていく。
何週間も続いた行事や準備がようやく終わり、今日は久しぶりに放課後を自由に過ごせる日だった。
――そう思っていた。
「大樹くん」
顔を上げる。
俺の机の横に、舞夜が立っていた。
「どうした?」
「放課後、何か予定はありますか?」
「いや、特にないけど」
「どうして?」
舞夜は両手でスマートフォンを持ちながら、少しだけ迷うように言った。
「少し聞きたいことがあって……」
「言ってみて」
「前に、あのキーホルダーを買ったお店……覚えていますか?」
「もちろん」
白い猫のキーホルダーを買った、あの店だ。
「もう一度、行ってみたいんです」
「何か買いたいものがあるのか?」
「いえ……そういうわけではありません」
舞夜は小さく笑った。
「ただ……もう一度、行ってみたいなと思って」
「それなら、一緒に行こうか」
「……本当ですか?」
舞夜の表情が少し明るくなる。
「ああ」
「ありがとうございます」
その時だった。
「また?」
舞夜の後ろから、結衣が顔を出した。
「……結衣!」
舞夜が驚いて振り返る。
「何?」
「ちょっと聞いただけだよ」
結衣は俺と舞夜を交互に見る。
「最初はノーデート」
「次は文化展示会の準備」
「そして今度は、また二人でお出かけ」
「別に、恋愛的な意味で出かけるわけじゃありません」
舞夜が即座に答えた。
「まだ何も言ってないけど?」
「……」
「でも、そう思ってたんでしょ?」
「……たぶん」
結衣が楽しそうに笑う。
「それなら、よかった」
「何が?」
「二人とも、ようやく一緒にいるのが好きだってことを隠さなくなってきたから」
舞夜が黙り込む。
俺も、すぐには何も答えられなかった。
結衣はそんな俺たちを見て、両手を上げる。
「まあ、私は帰るね」
そして、にやりと笑った。
「二人で、仲良く――」
「結衣」
「普通の散歩を楽しんできてね!」
「だから、待って!」
俺が言うより早く、結衣は笑いながら教室を飛び出していった。
「……いつか、結衣を完全に無視できるようになりたいです」
舞夜がため息をつく。
「それ、何ヶ月も前から言ってるよな」
「……そうでした」
舞夜が苦笑する。
やがて、チャイムが鳴った。
最後の授業が終わり、俺たちは放課後を迎えた。
学校を出ると、空は綺麗に晴れていた。
舞夜が俺の隣を歩いている。
しばらく歩いたところで、舞夜が口を開いた。
「ねえ、大樹くん」
「ん?」
「一緒に行くって言ってくれて……嬉しかったです」
「俺も」
「どうしてですか?」
俺は少し考えた。
そして、正直に答える。
「最近……」
舞夜を見る。
「舞夜と一緒に過ごすのが、好きだから」
舞夜は何も言わなかった。
ただ、少しだけ目を見開いて――。
やがて、優しく笑った。
「……私もです」
俺たちはそのまま、駅へ向かって歩き続けた。
今回は、何か理由があるわけじゃない。
学校の課題もない。
文化展示会もない。
買わなければならない材料もない。
ただ――。
二人で午後を過ごそうと決めただけだった。
歩きながら、俺はふと思った。
今までとは、何かが違う。
たぶん――。
もう、理由を作る必要がなくなったからだ。
一緒にいたい。
だから、一緒にいる。
それだけでいい。
俺たちはもう、何かのついでではなく――。
ただ、お互いと時間を過ごしたいと思っているのだから。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
学校の課題も、文化展示会も関係なく、ただ一緒に過ごすことを選んだ大樹と舞夜。
二人の関係は、少しずつ「特別な時間」から「当たり前の日常」へ変わり始めています。
次回は、二人でどんな午後を過ごすのでしょうか?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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