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長くなった午後

翌日。


作業は昨日よりもずっと早く進んでいた。


建物の骨組みはほとんど完成していて、残っているのは細かな装飾だけだった。


舞夜は橋の周りに小さな提灯を並べ、俺は看板の仕上げをしていた。


「これ、ここがいいと思います」


舞夜が一つの提灯を持ちながら言った。


「本当に?」


「はい。見てください」


舞夜は、俺たちが事前に作った配置図を指差した。


「ここに置けば、ちょうど橋の隣になります」


「じゃあ、そうしよう」


「はい」


俺たちはそのまま数分間、黙々と作業を続けた。


やがて舞夜が数歩後ろに下がり、完成した部分を眺める。


「どうですか?」


俺も小さな舞台を眺めた。


「結構いい感じだと思う」


「結構?」


舞夜が少しだけ眉を上げる。


「……すごくいい」


「ふふっ。それならよかったです」


満足そうに笑った。


気づけば、教室にはほとんど人がいなくなっていた。


大半の生徒は、もう帰っている。


残っているのは俺たちだけだった。


「今、何時だ?」


「えっと……」


舞夜がスマートフォンを確認する。


「六時半です」


「もう?」


「はい」


時計を見て、俺は少し驚いた。


時間が経つのが早すぎる。


「今日は、そろそろ終わりにするか」


「そうですね」


俺たちは使った材料を片付け始めた。


その時、舞夜が箱を持ち上げようとして、小さく顔をしかめた。


「重い?」


「少しだけです」


「貸して」


俺が箱を持ち上げる。


「俺が持つよ」


「大丈夫ですよ」


「分かってる。でも、手伝わせてくれ」


舞夜は少し驚いた後、笑った。


「……ありがとうございます」


二人で教室を出る。


廊下を並んで歩く。


学校は、ほとんど無人になっていた。


いくつかの教室では、すでに電気が消えている。


「こういう学校を見るのって、不思議ですね」


舞夜が静かに言った。


「そうだな」


「いつもと違う場所みたいです」


「確かに」


階段へ向かおうとしたところで、舞夜が突然足を止めた。


「待ってください」


「どうした?」


舞夜が窓を指差す。


そこから見える校庭は、夕暮れのオレンジ色の光に照らされていた。


「見てください」


俺も窓のそばまで歩く。


「……綺麗だな」


「はい」


俺たちは数秒間、黙って校庭を眺めた。


すると、舞夜がスマートフォンを取り出した。


「写真を撮りたいです」


「また?」


「はい」


舞夜は少し笑った。


「大切な思い出を残すのが好きなので」


「それはもう知ってる」


舞夜は窓の外に広がる景色を撮影した。


そして、俺のほうへ振り返る。


「大樹くんも入りますか?」


「写真に?」


「はい」


「もちろん」


俺たちは窓の隣に並んだ。


舞夜がスマートフォンを構える。


「笑ってください」


「笑ってるだろ」


「そうは見えません」


「これが俺の笑顔だよ」


「では、もっと練習したほうがいいですね」


「厳しいな」


舞夜が声を出して笑う。


そのままシャッターを切った。


撮った写真を二人で確認する。


窓の向こうには夕暮れの校庭。


そして、その前に並んでいる俺たち。


「……こっちのほうがいいですね」


「見せて」


舞夜が画面を見せてくれる。


「うん。いい写真だ」


「保存しておきます」


「またコレクションが増えたな」


「はい」


「今、何枚くらいあるんだ?」


「そんなに多くないですよ」


「それは嘘だろ」


「……少しだけ、多いかもしれません」


舞夜は照れたように笑った。


俺たちは再び歩き始めた。


そして、校門まで来たところで、舞夜が立ち止まった。


「大樹くん」


「ん?」


「今日も……楽しかったです」


「俺も」


「ほとんど作業していただけなのに」


「だからだよ」


俺は自然に答えていた。


「舞夜と一緒に何かするのが、好きなんだ」


舞夜が少しだけ視線を落とす。


「……私もです」


数秒間、俺たちはその場に立ったままだった。


やがて舞夜が、ゆっくりと手を伸ばす。


「……行きましょうか?」


俺はその手を見る。


そして、その手を取った。


「ああ。行こう」


俺たちは手を繋いだまま、学校を出た。


夕方の空気は少し冷たく、通りには家へ帰る学生たちの姿があった。


俺たちはあまり話さなかった。


でも、それでよかった。


何も話さなくても、不思議と気まずくない。


そのまま数分歩いていると――。


「――やっぱりね!!」


突然、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


振り返る。


道路の向こう側に、結衣が立っていた。


そして、俺たちの繋いだ手を指差しながら、勝ち誇ったような顔をしている。


「やっぱり二人とも手を繋いでるじゃん!!」


「結衣!」


舞夜の顔が一瞬で真っ赤になる。


「違う! これはそういうんじゃなくて!」


俺が慌てて言う。


すると結衣は腕を組んだ。


「じゃあ、何なの?」


「それは……」


舞夜が自分たちの手を見る。


少し考えてから――。


「……習慣です」


結衣が固まった。


「……え?」


「習慣です」


舞夜はもう一度言った。


「そう! 習慣!」


俺も頷く。


結衣はしばらく俺たちを見つめていた。


そして、にっこり笑う。


「そっか」


「うん」


「習慣なんだ」


「そうです」


「じゃあ、その習慣――」


結衣は楽しそうに笑った。


「これからも続けてね」


「ちょっと待――」


俺が言い終わる前に、結衣は笑いながら走っていってしまった。


「……」


「……」


俺と舞夜は顔を見合わせる。


「結衣には、何も隠せませんね」


「無理だな」


「……どうしましょう」


「別に、困ることでもないだろ」


舞夜が俺を見る。


「……大樹くんは、嫌じゃないんですか?」


少し考える。


「いや、そんなに」


舞夜は小さく笑った。


「私も……です」


そして俺たちは、再び歩き始めた。


その日の午後に、特別な出来事があったわけじゃない。


大きな告白をしたわけでもない。


劇的な事件が起きたわけでもない。


ただ、誰もいない学校。


一枚の写真。


そして、手を繋いだ帰り道。


でも――。


もしかしたら、だからこそ特別だったのかもしれない。


一緒にいることが、少しずつ当たり前になっていく。


気づかないうちに――。


俺たちの「ノーデート」は、もっと日常的な何かへと変わり始めていた。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


一緒に作業をする時間も、帰り道に手を繋ぐことも、少しずつ当たり前になってきた大樹と舞夜。


二人の「ノーデート」は、これからどんな形に変わっていくのでしょうか?


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。


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