小さなトラブル
翌日。
放課後になり、俺たちは昨日と同じように、誰もいない教室へやって来た。
机の上には、昨日作った建物の骨組みが並んでいる。
「今日は、提灯を完成させないといけませんね」
舞夜はリストを確認しながら言った。
「それと、橋も塗装しないと」
「じゃあ、今日は長い午後になりそうだな」
「はい」
舞夜は小さく笑った。
「でも、できます」
「そうだな」
俺たちはさっそく作業を始めた。
俺は小さな橋の塗装を担当し、舞夜は小さな提灯を一つずつ丁寧に塗っていく。
昨日と同じように、作業は順調に進んでいた。
――その時だった。
ガシャーン!
突然、大きな音が教室に響いた。
俺と舞夜は同時に顔を上げる。
見ると、教室の隅に置いてあった材料の箱が床に落ちていた。
「大変……!」
舞夜が慌てて立ち上がる。
床には紙のロールや段ボールの部品が散らばっていた。
「何か壊れたか?」
「確認します」
舞夜は急いで部品を一つずつ確認していく。
「たぶん、大丈夫です」
そして、少し間を置いてから――。
「……待ってください」
舞夜が一つの建物の骨組みを持ち上げた。
「これです」
小さな建物の壁が、少し折れ曲がっている。
「これなら直せる」
「本当ですか?」
「ああ。補強すれば大丈夫だ」
「よかった……」
舞夜はほっとしたように息を吐き、床に散らばった材料を拾い始めた。
俺も隣で拾う。
そして――。
一枚の段ボールに、俺たちの手が同時に伸びた。
「……」
「……」
二人とも動きを止める。
「すみません」
「すみません」
また同時だった。
顔を見合わせる。
そして、どちらからともなく笑ってしまった。
「もう、ここまでくるとおかしいですね」
舞夜が笑いながら言う。
「本当にそうだな」
「やっぱり、私たちは息が合いすぎなんでしょうか」
「たぶんな」
二人で笑いながら、散らばった材料を片付けていく。
その後、俺たちは並んで座り、壊れた建物を修理することにした。
「大樹くん、ここを押さえてください」
「ここ?」
「はい。そこです」
俺が壁をしっかり押さえると、舞夜が慎重に接着剤を塗っていく。
「動かないでくださいね」
「動いてないぞ」
「もう少しだけ、動かないでください」
「これ以上どうすればいいんだよ」
俺が困ったように言うと、舞夜が小さく笑った。
「分かりません」
「分からないのかよ」
「ふふっ……」
しばらくして、接着剤が乾いた。
舞夜が慎重に手を離す。
「……できました」
「完璧だな」
二人で建物を持ち上げて確認する。
折れていた壁は、まるで最初から壊れていなかったかのように元通りになっていた。
「俺たち、結構いいコンビなんじゃないか?」
「はい」
舞夜は嬉しそうに笑った。
「一緒に作業するの、上手ですね」
「まあ、事故も結構起こしてるけどな」
「それも……そうですね」
舞夜は苦笑した。
それでも、俺たちは再び作業に戻った。
しばらくして――。
ガラッ。
教室の扉が開いた。
入ってきたのは先生だった。
「お、どうだ? 作業は進んでいるか?」
「はい。かなり進みました」
舞夜が答える。
先生は教室を見回した。
机の上には、完成した建物や提灯、そして塗装途中の橋。
「ずいぶん進んだな」
「まだ、やることは残っていますけど」
「それでも順調だ」
先生はそう言って、俺たちが作った小さな橋を見た。
「この橋は誰のアイデアだ?」
「大樹くんです」
舞夜が答える。
「私はデザインを少し手伝いました」
「なるほど」
先生は頷いた。
「いい仕事だな。二人が協力しているのがよく分かる」
そう言い残して、先生は教室を出ていった。
俺は再び作業に戻ろうとした。
その時、舞夜が橋を見つめながら口を開いた。
「……ねえ、大樹くん」
「ん?」
「最初は、ただの学校の課題だと思っていたんです」
「今は?」
俺が尋ねると、舞夜は少しだけ考えた。
そして――。
「今は……楽しいです」
「俺もだ」
「たぶん……」
舞夜は少し照れたように笑う。
「大樹くんと一緒に作っているから、だと思います」
「……」
俺は思わず舞夜を見る。
すると舞夜も、自分が何を言ったのかに気づいたらしい。
「……あ」
頬が少し赤くなる。
「その……」
「?」
「一緒に作業する、仲間として……という意味です」
「うん」
俺は笑った。
「分かってる」
舞夜も少し恥ずかしそうに笑う。
「……はい」
それ以上は何も言わず、俺たちは再び作業を続けた。
それから数時間。
気づけば、主要な部分のほとんどが完成していた。
教室の中には、小さな建物や提灯、橋などが所狭しと並んでいる。
それはまるで――。
小さな伝統的な街並みだった。
「……できましたね」
舞夜が感慨深そうに呟く。
「まだ細かいところは残ってるけどな」
「でも、一番大変なところは終わりました」
舞夜は椅子に座り、疲れたように息を吐いた。
「……疲れました」
「俺も」
俺も隣の椅子に腰を下ろす。
しばらくの間、俺たちは何も話さなかった。
疲れているはずなのに、不思議と嫌な沈黙ではない。
むしろ、心地よかった。
やがて、舞夜が静かに俺の名前を呼ぶ。
「大樹くん」
「ん?」
「少し聞いてもいいですか?」
「もちろん」
舞夜は少し迷うように視線を落とした。
「……いつか」
「うん」
「こういうふうに、学校の課題とか……何か理由がなくても」
一度言葉を止める。
そして、ゆっくりと俺を見る。
「大樹くんと一緒に過ごすことって……できると思いますか?」
突然の質問だった。
俺は少しだけ考える。
「一緒に過ごすって?」
「……そのままの意味です」
舞夜は小さく頷いた。
「何かの課題がなくても、一緒に時間を過ごすことです」
俺は少し考えてから、笑った。
「それなら、もうやったじゃないか」
「……いつですか?」
「土曜日」
その瞬間、舞夜の顔が一気に赤くなった。
「……あれは違います」
「何が違うんだ?」
「だって……」
舞夜は少し困ったように視線を逸らす。
「私たちの『ノーデート』でしたから」
「それなら、まさに同じじゃないか」
「……そうですけど」
舞夜はしばらく黙った後、突然笑い始めた。
「ふふっ……」
「どうした?」
「いえ……」
笑いを抑えながら、舞夜が言う。
「そう考えると、私たちはもう経験済みなんですね」
「そうだな」
俺も笑った。
「じゃあ、またやればいい」
舞夜が俺を見る。
「……また?」
「ああ」
「……」
舞夜は少しだけ驚いたような顔をした。
そして――。
「……嬉しいです」
小さく、でもはっきりと笑った。
「私も、また一緒に過ごしたいです」
その言葉の後、静かな時間が流れた。
でも、今度は何も言う必要はなかった。
ただ隣にいるだけで――。
それだけで、十分だった。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
文化展示会の準備を通して、少しずつ変わっていく大樹と舞夜。
学校の課題がなくても、一緒に過ごしたいと思う二人の関係は、これからどうなっていくのでしょうか?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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