作業の午後
翌日。
俺たちは、また放課後に集まった。
今回は、装飾を作るために使われていない教室を借りることになった。
机の上には、段ボールやハサミ、接着剤、絵の具など、いろいろな材料が並んでいる。
「こんなにたくさん必要だとは思いませんでした」
舞夜が材料を見ながら言う。
「俺もだよ」
「どこから始めましょうか?」
俺は、前日に作った設計図を見る。
「まずは建物からかな」
「では、私は窓を作ります」
「俺は壁をやるよ」
俺たちは作業を分担し、それぞれの作業を始めた。
最初の数分は、順調だった。
――それまでは。
「大樹くん」
「ん?」
「……たぶん、接着剤をつけすぎました」
俺は舞夜が作っている段ボールを見る。
そこには、隅に大きな接着剤の跡ができていた。
「……ちょっとな」
「ちょっと?」
「いや……」
俺は苦笑する。
「かなり」
舞夜が口元に手を当て、笑いを堪える。
「笑わないでください」
「すみません」
それでも、肩が小さく震えている。
「だって……」
「そんなに?」
「はい。かなりすごいです」
「じゃあ、手伝ってくれる?」
「もちろんです」
俺たちは二人で段ボールについた接着剤を拭き取ろうとした。
けれど――。
気づけば、二人の指にまで接着剤がついていた。
「……今度は俺たちのほうがひどくなったな」
「はい」
舞夜が両手を持ち上げる。
「見てください」
「なんだか、見えない手袋をしてるみたいだな」
「ふふっ……」
俺たちは顔を見合わせ、同時に笑い出した。
その時。
教室の扉が開いた。
「何してるの?」
結衣が顔を出した。
「作業中」
俺が答える。
結衣は俺たちの手を見る。
それから、机の上を見る。
「作業してるの? それとも接着剤で遊んでるの?」
「作業してる」
「本当に?」
結衣が近づいてくる。
「手伝おうか?」
「大丈夫」
「大丈夫です」
俺たちは同時に答えた。
結衣がニヤリと笑う。
「やっぱり、息ぴったりだね」
「前にも舞夜に言われたよ」
「へえ?」
結衣が眉を上げる。
「それは面白い」
舞夜は慌てて作業へ視線を戻した。
「結衣さんは、他にやることないんですか?」
「あるよ」
結衣は笑う。
「でも、二人がちゃんとやってるか確認しに来たの」
「それで?」
「二人とも、仲良くやりすぎ」
「どういう意味だよ……」
結衣は楽しそうに笑いながら、教室を出ていった。
「……結衣さんは、いつになったら私たちを放っておいてくれるんでしょう」
舞夜が呟く。
「たぶん無理だな」
俺は苦笑した。
「でも、もう慣れてきた気がする」
「……私もです」
俺たちは再び作業を続けた。
それから、ほぼ一時間。
ようやく最初の建物が完成した。
舞夜が小さなパーツを机の上に置く。
「見てください」
「結構いい感じじゃないか?」
「はい」
舞夜は満足そうに頷く。
「でも、まだ細かい部分が残っています」
「それは明日やればいいよ」
舞夜が時計を見る。
「もう遅いですね」
「そうだな」
「今日は、そろそろ帰りましょうか」
俺たちは材料を丁寧に片づけた。
教室を出ると、廊下にはほとんど人がいなかった。
窓から夕暮れの光が差し込んでいる。
「大樹くん」
「ん?」
「駅まで、一緒に歩いてもいいですか?」
「もちろん」
俺たちは並んで廊下を歩いた。
しばらくして、舞夜が口を開く。
「私、大樹くんと一緒に作業するの……好きです」
「どうして?」
「大樹くんと話す時、無理をしなくていいからです」
舞夜は少しだけ微笑んだ。
「頑張って話そうとしなくても……自然に自分でいられる気がします」
俺も笑った。
「俺も同じだよ」
舞夜は少しだけ視線を落とした。
「それなら……」
「ん?」
「これからも、こうしていてもいいですか?」
「一緒に作業するってこと?」
「はい」
舞夜は少しだけ間を置く。
「それから……」
「それから?」
「一緒に過ごす時間も」
俺は自然と笑った。
「もちろん」
「俺も、そうしたい」
舞夜が嬉しそうに微笑んだ。
俺たちは学校を出る。
夕方の街は、静かだった。
駅まで、俺たちは肩を並べて歩いた。
別れる前。
舞夜が手を上げる。
「では、また明日」
「ああ。また明日」
一瞬だけ――。
俺たちの手が近づいた。
舞夜は少し迷った。
そして、そっと俺の手を握る。
ほんの数秒だけ。
「……これも、好きです」
「俺も」
舞夜はゆっくりと手を離し、自分の乗るホームへ向かって歩き始めた。
俺は、その背中をしばらく見つめていた。
文化展示会の準備は、これから何日も続いていく。
けれど――。
俺は少しずつ気づき始めていた。
俺たちが本当に作っているものは、装飾なんかじゃない。
きっと――。
もっと大切なものなのだ。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
文化展示会の準備を通して、また少しずつ距離を縮めていく大樹と舞夜。
二人が本当に作り始めた「大切なもの」とは――?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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