新しい課題
翌週。
週の始まりは、思いがけない知らせから始まった。
先生が何枚かのプリントを手に、教室へ入ってくる。
「おはよう。今日は新しい課題がある」
教室中に、不安そうなざわめきが広がった。
「安心しろ。テストじゃない」
その言葉を聞いて、みんなが一斉に息を吐く。
「二週間後、学校で小さな文化展示会を行うことになった」
先生は続ける。
「各クラスで、日本文化に関するテーマを一つ選んで、展示を作ってもらう」
「また行事ですか?」
悠真が声を上げる。
「体育祭が終わったばかりなのに?」
「だからこそだ」
先生は淡々と答えた。
「学校生活は止まらない」
結衣が勢いよく手を挙げる。
「食べ物はありますか?」
先生がため息をついた。
「ある」
「参加します!」
教室中に笑い声が響いた。
先生は、それぞれの担当を説明しながらプリントを配っていく。
装飾。
調査。
展示の準備。
運営。
そして、当日の案内。
俺たちの列まで来ると、先生は俺の机に一枚のプリントを置いた。
「南と八神」
「はい?」
「二人には、メインの装飾を担当してもらう」
舞夜が顔を上げる。
「私たちですか?」
「ああ」
先生は頷いた。
「二人はこれまでの活動でも、よく協力できていたからな」
そして、さらに続ける。
「それに、準備のために放課後も何度か集まってもらうことになる」
結衣がゆっくりと俺たちのほうへ顔を向けた。
その瞬間――。
笑顔になった。
「おお……」
「何も言うなよ」
俺は先に釘を刺した。
「まだ何も言ってないよ?」
「顔が言ってる」
舞夜が小さく笑った。
「かなり忙しくなりそうですね」
「そうだな」
俺もプリントを見る。
「でも、楽しそうじゃないか?」
「はい。私もそう思います」
先生はさらに詳しい説明を続けた。
俺たちのクラスが選んだテーマは――。
小さな日本の伝統的な町並みだった。
段ボールで建物を作り、提灯や看板など、さまざまな装飾を用意するらしい。
「結構、大変そうですね」
舞夜がリストを確認しながら言った。
「うん」
俺も頷く。
「でも、面白そうだ」
「私もそう思います」
休み時間。
俺たちは図書室に集まり、展示の計画を立てることにした。
舞夜が何枚かの紙をテーブルの上に広げる。
「建物は、こんな形にしてみませんか?」
一枚のスケッチを指差す。
「いいと思う」
俺はその絵を見る。
「それから、ここに提灯を並べる」
「はい」
「あと、小さな橋を作るのもいいんじゃないか?」
「橋?」
「うん」
俺は京都旅行のことを思い出した。
「旅行の時に見たような橋」
舞夜が嬉しそうに笑った。
「それ、いいですね」
俺たちは一緒にデザインを描き始めた。
しばらくの間、どちらも何も話さなかった。
ただ、二人で作業を続ける。
けれど――。
その沈黙は、もう不思議なものではなかった。
むしろ、とても自然だった。
そんな時。
一本の鉛筆に、俺たちの手が同時に伸びる。
「……」
「……」
二人とも動きを止めた。
「すみません」
「すみません」
声まで同時だった。
俺たちは顔を見合わせる。
そして――。
思わず笑ってしまった。
「これ、もう習慣になってきましたね」
舞夜が笑いながら言う。
「何が?」
「同じことを、同じタイミングで言うことです」
「確かに」
俺も笑う。
「息が合ってるってことじゃないか?」
舞夜は少しだけ首を傾げた。
「……少し、合いすぎているかもしれませんね」
そう言って、また笑った。
俺たちは再び作業を続ける。
数分後。
舞夜がふと顔を上げた。
「大樹くん」
「ん?」
「京都の後に話したこと、覚えていますか?」
「約束のこと?」
舞夜が頷く。
「はい」
そして、優しく微笑む。
「これからも、一緒に思い出を作っていくっていう約束です」
「ああ」
俺は頷いた。
「覚えてるよ」
舞夜は目の前のスケッチを見る。
「これも……その約束の一つになりますよね」
俺はテーブルの上に並んだデザインを見る。
それから、舞夜を見る。
「うん」
小さく笑った。
「間違いなく」
舞夜も微笑み、再び作業へ戻る。
その後も、俺たちは一緒に展示の準備を続けた。
今度は、二人とも自然と笑顔になっていた。
この学校行事は、クラスのみんなにとっては、ただの新しい課題なのかもしれない。
けれど――。
俺たちにとっては。
あの約束を、また一つ叶えるための時間だった。
新しい学校行事が始まりました。
大樹と舞夜が一緒に作る、小さな日本の町並み。
ただの展示準備のはずなのに、二人にとっては大切な思い出の一つになっていきそうです。
京都で交わした約束は、少しずつ形になっています。
これから二人は、どんな思い出を作っていくのでしょうか。
次回もぜひお楽しみに。
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