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無視できない結論

放課後。


教室は少しずつ人が減っていった。


部活動へ向かう生徒もいれば、そのまま学校を出ていく生徒もいる。


俺も荷物をまとめ終え、席を立った。


「大樹くん」


舞夜が教室の扉の前に立っていた。


「一緒に帰りませんか?」


「もちろん」


俺たちは教室を出た。


最初の数メートルは、二人とも何も話さなかった。


やがて、舞夜が口を開く。


「昨日のことなんですけど……」


「莉奈のこと?」


舞夜が頷く。


「はい」


「気にしなくていいよ」


俺は歩きながら言った。


「莉奈はいい人みたいだし。それに、彼氏もいるんだろ?」


「分かっています」


「じゃあ、どうしたんだ?」


舞夜は視線を落とした。


「……だからこそなんです」


「どういうこと?」


「昨日、何の理由もないって分かっていたのに……私は嫌な気持ちになりました」


俺は黙って舞夜の言葉を聞いた。


舞夜は一度、深く息を吸う。


「……たぶん、私は嫉妬していたんだと思います」


「嫉妬?」


舞夜はゆっくりと頷いた。


「はい」


そして、少し困ったように笑う。


「自分でも、かなりおかしいと思います」


「どうして?」


「莉奈さんには、もう恋人がいるんですよ」


舞夜は小さく首を振る。


「だから、そんな気持ちになる理由なんてないはずなのに」


俺は少し考えてから答えた。


「でも、感情って、いつもルール通りにはいかないだろ」


舞夜が顔を上げる。


「……え?」


「何を感じるかまで、自分で決められるわけじゃないと思う」


俺は肩をすくめた。


「大切なのは、その気持ちをどうするかを自分で決めることじゃないかな」


舞夜はしばらく黙っていた。


思っていたよりも、ずっと単純な答えだったのかもしれない。


やがて、舞夜が微笑む。


「大樹くんって、見た目よりずっと理解がありますね」


「それ、褒めてる?」


「はい」


「じゃあ、ありがたく受け取っておくよ」


俺たちはそのまま歩き続けた。


学校の門を出たところで、舞夜が足を止める。


「大樹くん」


「ん?」


「一つ、聞いてもいいですか?」


「もちろん」


舞夜は少しだけ迷ってから尋ねた。


「もし……私に、男の子がすごく近づいてきたら、嫌ですか?」


その質問に、俺は完全に不意を突かれた。


「男の子?」


「はい」


「そうだな……」


俺は少し考えた。


「状況によると思う」


「では、明らかに私に近づこうとしている人だったら?」


俺は黙り込んだ。


なぜか分からない。


でも――。


その光景を想像すると、胸の奥が少しだけざわついた。


「……たぶん」


俺は正直に答えた。


「嫌だと思う」


舞夜が少し目を見開く。


「本当に?」


「ああ」


「どうしてかは、分からないけど」


舞夜は微笑んだ。


「……じゃあ、私たちは同じですね」


「どういう意味?」


「何でもありません」


舞夜は少しだけ笑った。


「ただ……」


そして前を向く。


「自分の気持ちを理解できずにいるのは、私だけじゃないのかもしれないと思っただけです」


俺の顔が熱くなる。


「舞夜……」


舞夜は再び歩き始めた。


「行きましょう」


「ちょっと待って!」


「何ですか?」


「今の言い方じゃ、気になるだろ」


舞夜が振り返る。


そして、楽しそうに微笑んだ。


「どうしてですか?」


「だって、そんなこと言っておいて先に行くのはずるいだろ」


「では……」


舞夜は少し考えるように首を傾げた。


「いつか話します」


「それじゃ分からないよ」


「では、待っていてください」


舞夜はそう言って、また歩き始めた。


「……ずるいな」


俺もその後を追う。


しばらく歩いていると、俺たちの手が自然と近づいていった。


数秒間。


どちらも何もしない。


やがて――。


舞夜の手が、ほんの少しだけこちらへ近づく。


指先が触れた。


舞夜が俺を見る。


俺も舞夜を見る。


何も言わない。


そして――。


舞夜が、そっと俺の指に自分の指を絡めた。


小さな仕草だった。


まるで、ごく自然なことのように。


それなのに――。


俺の心臓は、また速くなった。


「……また?」


俺が尋ねる。


「はい」


「どうして?」


舞夜は微笑んだ。


「好きだからです」


「……」


思わず言葉を失った。


けれど、俺も自然と笑っていた。


「俺も」


俺たちは手を繋いだまま歩き続けた。


今度は、どちらも隠そうとはしなかった。


数メートル進んだところで、舞夜が小さな声で言う。


「……私、どうして嫉妬したのか、もう分かりました」


「どうして?」


舞夜は繋いだ手に、ほんの少し力を込めた。


「私の人生の中で、大樹くんがいる場所を……」


一度だけ言葉を止める。


「他の誰かに取られたくないと思ったからです」


俺は完全に黙り込んだ。


舞夜も、言ってしまったことが恥ずかしいのか、少しだけ頬を赤くしている。


それでも――。


手は離さなかった。


「……大樹くんは?」


舞夜が尋ねる。


「俺?」


「はい」


「私に、他の男の子が近づくのが嫌だと思った理由……分かりましたか?」


俺は繋いだ手を見る。


それから、舞夜を見る。


「……たぶん」


俺は小さく笑った。


「俺も分かったと思う」


「それは?」


「たぶん、俺たちは……同じことに気づき始めてるんじゃないかな」


舞夜が微笑む。


告白はなかった。


大げさな言葉もなかった。


ただ、俺たちは手を繋いだまま、夕暮れの街を歩き続けた。


それでも――。


二人とも分かっていた。


何かが変わったのだ。


そして今回は――。


結衣に説明してもらう必要なんて、もうなかった。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


大樹と舞夜は、ついに自分たちの気持ちに少しずつ気づき始めました。


まだ二人の間に「告白」はありません。

それでも、確実に何かが変わり始めています。


これから二人の関係がどこへ向かうのか、次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。


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