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必要のない弁明

翌日。


状況は、すっかりいつもの日常に戻ったように見えた。


……少なくとも、舞夜はそう願っていた。


午前の休み時間。


莉奈がスマートフォンを手に、俺たちのところへやってきた。


「みんな、ちょっと意見を聞きたいんだけど」


結衣がすぐに顔を上げる。


「何について?」


「彼氏へのプレゼントを買おうと思ってるの」


舞夜が瞬きをする。


「まだ探していたんですか?」


「うん」


莉奈はスマートフォンの画面を見せた。


「どれにするか迷ってて」


麻美と美子が、それぞれ意見を出し始める。


「こっちのほうが上品じゃない?」


「私はこっちかな」


「彼ってゲームが好きなんだよね?」


「うん」


「じゃあ、これがいいんじゃない?」


舞夜は、その会話を静かに聞いていた。


昨日のような嫌な感じは、もうない。


……そう思っていた。


その時――。


莉奈が大樹のほうを見る。


「大樹くんはどう思う?」


大樹が顔を上げた。


「俺?」


「うん。男の人の意見も聞きたくて」


「ああ……」


大樹はスマートフォンの画面を見る。


「俺なら、二つ目かな」


「どうして?」


「毎日使えそうだから」


莉奈が笑った。


「じゃあ、これにします」


「ありがとう」


「どういたしまして」


舞夜は、その様子を見ていた。


胸の奥に――。


また小さな違和感が生まれる。


「……また」


舞夜は視線を落とした。


おかしい。


莉奈は彼氏の話をしている。


大樹だって、その彼氏へのプレゼント選びを手伝っているだけだ。


心配するようなことなんて、何一つない。


それなのに――。


「……嫉妬してる?」


結衣が小さな声で尋ねた。


舞夜はびくっとする。


「違います!」


「誰に嫉妬してるかなんて、まだ言ってないけど?」


「……」


結衣が笑う。


「やっぱりね」


「何も分かっていませんよ」


「分かってるって」


舞夜はため息をついた。


「……分かりました」


少しだけ迷ってから、舞夜は小さく呟いた。


「……たぶん、少しだけ」


結衣が目を見開く。


「認めた!」


「認めてません!」


「今、認めたじゃん!」


「『たぶん』です!」


「それでも認めたことになるよ」


「なりません!」


そんな二人の会話を、近くにいた莉奈が聞いていた。


「……嫉妬って、何に?」


舞夜の体が固まった。


「な、何でもありません!」


結衣は笑いを堪えている。


「ちょっと話してただけだから」


莉奈は首を傾げた。


「そう?」


そして舞夜を見る。


「そういえば、舞夜さん」


「はい?」


莉奈は笑顔で言った。


「心配しなくても大丈夫ですよ」


「……え?」


「大樹くんが私を手伝ってくれているのは、ただ優しいからです」


そしてスマートフォンを持ち上げる。


画面には、莉奈と彼氏が仲良く写っている写真が表示されていた。


「それに――」


莉奈は笑う。


「私、大樹くんには全然興味ありませんから」


「……!」


「彼氏のことが大好きなので」


「わ、私はそんなこと考えてません!」


舞夜があまりにも早く答えた。


莉奈が瞬きをする。


「……そうなんですか?」


「はい」


舞夜は慌てて頷く。


「もちろんです」


「それならよかった」


莉奈は笑った。


「でも、どうして結衣さんがあんなに質問していたのか、今なら分かった気がします」


結衣が両手を上げる。


「私はただ調査してただけ!」


「それが一番怖いんですけど」


美子が呆れたように呟いた。


そこへ大樹が近づいてきた。


「何の話?」


「何でもありません」


舞夜が即答する。


「全部、大丈夫です」


大樹は結衣を見る。


次に莉奈を見る。


そして最後に舞夜を見る。


「……本当に?」


「はい」


舞夜は笑顔を作った。


「本当に大丈夫です」


大樹は少しだけ不思議そうな顔をした。


「そうなら、よかった」


莉奈がスマートフォンをしまう。


「昨日は手伝ってくれてありがとう、大樹くん」


「気にしなくていいよ」


「じゃあ、また後で」


莉奈は自分の席へ戻っていった。


舞夜は、その背中を見送った。


そして――。


小さく息を吐く。


「……恥ずかしいです」


結衣が近づいてくる。


「どうして?」


「彼氏がいる人に嫉妬してしまったので」


「それは、確かにちょっと面白いね」


「笑わないでください」


「ごめん、ごめん」


結衣は笑いを堪える。


「でも、自分でもちょっとおかしいと思わない?」


舞夜は机に額をつけた。


「……思います」


「それに、大樹が何も変なことをしてないって分かったでしょ?」


「はい」


「じゃあ――」


結衣が少し間を置く。


「今回のことで、何が分かった?」


舞夜はゆっくり顔を上げた。


「……私は、かなり面倒な人間なんだと思います」


「違うよ」


結衣が優しく笑った。


「大樹のことを、それだけ大切に思ってるって分かったんだよ」


舞夜は黙り込んだ。


今回は――。


否定しなかった。


「……はい」


小さな声で答える。


「たぶん……そうなんだと思います」


結衣は満足そうに笑った。


「ようこそ」


「……何のクラブですか?」


「好きな人のことが大切すぎて、どうすればいいのか分からなくなってる人たちのクラブ」


「結衣!」


二人は顔を見合わせて笑った。


その頃、教室の反対側では、大樹がこちらを見ていた。


「何を笑ってるんだ?」


「何でもないよ」


結衣が即答する。


舞夜も顔を赤くしながら頷いた。


「はい。何でもありません」


大樹は怪訝そうな顔をする。


「……二人とも変だな」


「大樹くんは何も分かってないね」


結衣が笑う。


舞夜も、また小さく笑った。


今回の嫉妬騒動は、あまりにもくだらなくて――。


自分でも笑ってしまうほどだった。


けれど、一つだけ分かったことがある。


もう、舞夜は自分の大樹への気持ちを、ただの友達だからという言葉だけでは片づけられなくなっていた。


大樹のことを考えるたびに――。


胸の奥にある気持ちは、新しい形を見せ始めていた。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


舞夜はついに、自分の大樹への気持ちを少しだけ認め始めました。


まだ「恋」だとは言い切れないけれど、その気持ちは確実に変わり始めています。


これから二人の関係がどう進んでいくのか、次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。


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