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一番おかしな言い訳

午後の授業も、いつも通りに過ぎていった。


……少なくとも、舞夜はそう思おうとしていた。


最後の授業が終わると、生徒たちは一斉に帰り支度を始める。


そんな中、莉奈が再び大樹のところへやってきた。


「大樹くん、少し時間いいですか?」


「うん。どうした?」


「写真部について聞きたいことがあって」


「写真部?」


「はい。大樹くんや何人かのクラスメイトは、学校の活動について詳しいと聞いたので」


「そんなに詳しいわけじゃないけど、俺が知ってることなら説明できるよ」


「ありがとうございます」


二人は窓際で話し始めた。


舞夜は、そんな二人を数秒間見つめた。


そして、すぐに視線を逸らす。


――私は嫉妬なんてしていない。


心の中で繰り返す。


――嫉妬する理由なんて、どこにもない。


「まだ、そのこと考えてるの?」


結衣の声に、舞夜はびくっと肩を震わせた。


「ち、違います!」


「まだ何のことか言ってないけど?」


「……」


結衣が笑う。


「今の、すごく分かりやすかったよ」


「何のことを言っているんですか?」


「莉奈のこと」


舞夜は小さくため息をついた。


「だから、何もありません」


「じゃあ、どうして莉奈が大樹と話すたびに見てるの?」


「それは……」


舞夜は必死に答えを探す。


「大樹くんが、ちゃんと彼女を案内できているか確認しているだけです」


結衣は無言で舞夜を見つめた。


「……今までで一番ひどい言い訳だね」


「言い訳じゃありません!」


「じゃあ、質問」


結衣が舞夜へ身を寄せる。


「もし、莉奈に彼氏がいなかったら――」


舞夜の動きが止まった。


「……え?」


「もっと嫌だった?」


「違います!」


あまりにも早く答えてしまった。


結衣がニヤリと笑う。


「なるほど」


「何も分かってないでしょう」


「はいはい」


舞夜は腕を組む。


「それに、さっき彼氏がいるって分かったばかりです」


「うん」


「だから、大樹くんと彼女が……」


そこで言葉が止まった。


結衣が片眉を上げる。


「大樹と彼女が、何?」


「……何でもありません」


「へえ」


舞夜は小さく息を吐いた。


「……こんなの、おかしいです」


「何が?」


「こんな気持ちになることです」


舞夜は自分の胸元に手を当てる。


「何の理由もないのに……」


結衣は、しばらく黙っていた。


今回は、からかうこともしなかった。


「もしかしたら、理由なんて必要ないのかもね」


舞夜が顔を上げる。


「どういう意味ですか?」


「誰かのことをすごく大切に思っていると……」


結衣は優しく笑った。


「自分で気づくより先に、いろんな気持ちが出てくることってあるから」


舞夜は視線を落とした。


「でも……」


「うん?」


「私は、大樹くんを信じています」


「知ってるよ」


「大樹くんが、莉奈に興味がないことも分かっています」


「それも知ってる」


「だったら……」


舞夜は小さく呟く。


「どうして、嫌な気持ちになるんでしょう?」


結衣は優しく微笑んだ。


「たぶん……」


少しだけ間を置いてから。


「舞夜が思っていた以上に、大樹のことを大切に思ってるからじゃない?」


舞夜は完全に黙り込んだ。


その頃、教室の反対側では、大樹が莉奈との話を終えていた。


「助かりました。ありがとうございます」


「気にしなくていいよ」


莉奈はバッグを肩に掛けた。


「あ、それと……」


「ん?」


「明日、よかったら一緒に来ませんか?」


「誰と?」


「部活の友達とです。放課後にみんなで勉強する予定なんです」


「そうだな……」


大樹は少し考える。


「あー……明日はちょっと用事があるかもしれない」


「そうですか」


莉奈は残念そうに笑った。


「では、また今度ですね」


「ああ。またな」


莉奈はそう言って教室を出ていった。


大樹が自分の席へ戻る。


「どうした?」


舞夜と結衣の様子を見て、大樹が尋ねた。


「何でもありません」


舞夜がすぐに答える。


「本当に?」


「はい」


「なんだか心配そうだけど」


「心配していません」


結衣は舞夜を見た。


それから大樹を見る。


そして――。


ゆっくりと笑った。


「舞夜、大樹に言いたいことがあるんじゃない?」


「ありません!」


「じゃあ、私は帰るね」


結衣はバッグを持ち上げた。


「もう帰るの?」


大樹が尋ねる。


「うん。ちょっと用事があるから」


そう言って、結衣は教室を出ていった。


舞夜は、しばらく席に座ったままだった。


大樹がこちらを見る。


「本当に大丈夫?」


「はい」


「何か悩んでるように見えるけど」


「悩んでいません」


舞夜は少しだけ間を置いた。


「……ただ、考え事をしていただけです」


「何を?」


舞夜は答えるかどうか迷った。


そして――。


「私って……少し変なのかもしれないって」


「どうして?」


「……何でもありません」


舞夜は小さく笑った。


「忘れてください」


大樹は、それ以上聞かなかった。


「分かった」


そして、少しだけ微笑む。


「でも、話したくなったら、いつでも言ってくれよ」


その一言を聞いた瞬間。


舞夜の表情が、ふっと柔らかくなった。


「……ありがとうございます」


「どういたしまして」


大樹が帰り支度を始める。


その隣で、舞夜は静かに視線を落とした。


今なら、一つだけ分かる。


私は、莉奈に嫉妬しているわけじゃない。


そもそも、そんなふうに考えること自体がおかしい。


私が本当に嫌だったのは――。


自分が少しずつ特別だと思い始めていた場所に、いつか誰か別の人が入ってしまうこと。


それが怖かったのだ。


そして、そのことに気づいてしまった今――。


もう、簡単には無視できそうになかった。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


舞夜自身も気づき始めた、大樹への特別な気持ち。


果たして、この感情の正体に舞夜はいつ気づくのでしょうか?


二人の関係がこれからどう変わっていくのか、次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。


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