最後の挑戦
太陽が少しずつ傾き始めた頃、先生たちは再び全校生徒を校庭に集めた。
何時間にもわたって競技が続いたため、ほとんどの生徒が疲れ切っている。
芝生の上に座り込んでいる者もいれば、水を飲みながら今日の結果について話している者もいた。
先生がマイクを手に取る。
「よし、みんな。
いよいよ体育祭最後の競技だ」
その言葉に、校庭からざわめきが起こった。
「各クラスで、最後のチーム対抗チャレンジを行う」
結衣がすぐに手を挙げる。
「また宝探しですか?」
「いや、今回は違う」
先生が校庭の中央を指差す。
そこには、いくつもの机が並べられていた。
「各チームに、一つの箱を渡す。
その中にはいくつかの道具が入っている」
先生は続けた。
「それらを使って、いくつかの簡単な協調作業に挑戦してもらう。
最も早くすべての課題を終えたチームの勝利だ」
「それなら簡単そうだな!」
悠真が叫ぶ。
「ネットに引っかかってた奴がよく言うよ」
恒一がすかさず返した。
「それはもう忘れてくれ!」
俺たちは笑いながら、指定された机へ向かった。
机の上には、閉じられた箱と一枚のカードが置かれていた。
小林がカードを手に取る。
「『すべての道具を、向こう側の机まで運ぶこと』だって」
「それだけ?」
俺が尋ねる。
佐藤が箱を開けた。
中には、小さなボールがいくつか。
それから、コップと何本かのリボンが入っている。
「……問題は、たぶんこれだな」
「何が?」
舞夜が尋ねる。
「手を使っちゃいけないんだ」
全員が黙り込む。
「……またかよ」
俺が呟く。
舞夜が小さく笑った。
「どうやら、ボールに追いかけられているみたいですね」
「俺たちに何か恨みでもあるんじゃないか?」
その時――。
笛が鳴った。
「開始!」
一斉に各チームが走り出す。
俺たちはすぐに役割を分けた。
小林と佐藤がコップを担当する。
そして、舞夜と俺がボールを運ぶことになった。
「今度こそ落とさないようにしよう」
俺が言う。
「分かっています」
舞夜が俺の前に立つ。
「準備はいいですか?」
「ああ」
俺たちは肩と肩の間にボールを挟んだ。
そして、ゆっくり歩き始める。
一歩。
もう一歩。
ボールが少しだけ動いた。
「ゆっくりです」
舞夜が言う。
「ああ」
慎重に進んでいく。
今回は――。
うまくいった。
俺たちは反対側の机までたどり着き、ボールを容器の中へ落とす。
「一個目!」
舞夜が嬉しそうに言った。
「あと二個だ」
俺たちは次のボールを取りに戻る。
その途中――。
突然、叫び声が聞こえた。
「危ない!」
別のチームの生徒がバランスを崩し、持っていたボールがこちらへ転がってきた。
舞夜が避けようとする。
俺も同時に避けた。
けれど――。
「わっ!」
俺たちの肩が軽くぶつかった。
その瞬間、運んでいたボールが勢いよく飛び出した。
「……嘘だろ」
俺たちは、転がっていくボールを無言で見つめた。
「またですね……」
舞夜が呟く。
「まただな」
俺もため息をつく。
舞夜が突然笑い始めた。
「もう、信じられません」
「これはもう呪いだろ」
二人でボールを拾いに行く。
そして戻ってくると、俺たちのチームはすでに他の道具のほとんどを運び終えていた。
「あと一個!」
小林が叫ぶ。
「行こう!」
俺たちはもう一度、ボールを挟んだ。
今度は、さらに慎重に進む。
一歩。
二歩。
三歩。
ゴールはもう目の前だ。
「やりました!」
舞夜が笑う。
最後のボールが容器の中へ落ちた。
「終わった!」
小林が両手を上げる。
先生が机の上を確認する。
「第三チーム!」
そして――。
「第一位!」
俺たち四人は一斉に喜んだ。
舞夜が俺に手を差し出す。
「勝ちました!」
俺もその手に自分の手を合わせる。
「やったな」
「今回はボールに負けませんでしたね」
「それだけでも、俺にとっては大勝利だ」
俺たちは笑い合った。
少し離れた場所では、結衣が俺たちを見ていた。
「……都合がいいなあ」
麻美が結衣を見る。
「今度は何?」
「別に」
結衣は楽しそうに笑う。
「ただ、今年いっぱい二人をからかうための材料を集めてるだけ」
美子がため息をつく。
「大樹がかわいそう」
「何で俺なんだよ?」
「結衣のお気に入りの標的だからじゃない?」
「それはもう知ってる……」
その後、先生が体育祭全体の結果を発表し始めた。
俺たちのチームは、すべての競技で勝ったわけではない。
それでも、それぞれの競技で獲得したポイントのおかげで、最終的には上位に入ることができた。
表彰が終わると、みんなが少しずつ荷物を片付け始める。
数時間前まで大勢の生徒で賑わっていた校庭も、少しずつ静かになっていった。
「今日は、いい一日でしたね」
舞夜が俺のところへやってくる。
「ああ。
思ってた以上に楽しかった」
舞夜は、自分が手にしている小さなメダルを見る。
「それに……また一つ、思い出が増えました」
「本当に、どんどん増えていくな」
「多すぎることなんてありませんよ」
舞夜が微笑む。
俺たちは数秒間、何も言わずに立っていた。
やがて舞夜は、宝探しで見つけた写真を取り出した。
「これも、大切にしまっておきます」
「みんなで変な顔をしてる写真だろ?」
「はい」
舞夜は写真を見ながら微笑む。
「だって、この日は――」
そこで言葉を止める。
「……また一緒に過ごすための理由が、一つ増えた日ですから」
俺は少し驚いて舞夜を見る。
舞夜も、自分が何を言ったのかに気づいたらしい。
「あっ……」
そして、少し顔を赤くする。
「ち、違います。
その……チームとして、という意味です」
「そうだな」
俺は笑って答えた。
「もちろん」
だけど――。
俺たち二人とも、その説明が全部本当ではないことを分かっていた。
体育祭は終わった。
それでも、俺と舞夜の間には――。
確かに、何かが少しずつ積み重なっている。
俺たちは並んで学校の校舎へ向かって歩き始めた。
その途中、俺はふと思った。
もしかすると――。
今日、本当にもらった一番大切なものは、メダルなんかじゃないのかもしれない。
舞夜と一緒に過ごした時間。
一緒に笑った瞬間。
そして――。
また一つ増えた、大切な思い出。
それこそが、今日俺が持ち帰る――。
本当の賞だった。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
体育祭を通して、大樹と舞夜の距離はまた一歩近づきました。
二人が積み重ねていく小さな思い出は、これからどんな未来へつながっていくのでしょうか。
次の物語も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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