思いがけない試練
次の競技は、俺たちが想像していた以上に難しいものだった。
先生たちは、チーム全員で協力していくつもの障害を乗り越えるコースを用意していた。
ネットをくぐり抜ける。
二人一組でボールを運ぶ。
そして最後に、短い距離を走ってゴールする。
「これ、誰が考えたんだ?」
グラウンドの反対側から悠真の声が聞こえてくる。
「明らかに俺たちを嫌ってる奴だろ」
恒一が答えた。
俺たちのチームもスタートラインへ並んだ。
「いいか、覚えておけ」
先生が説明する。
「大切なのは、一人一人の速さではない。チーム全員で協力して、最後までコースを進むことだ」
小林が頷く。
「じゃあ、みんなで息を合わせないとな」
「それなら簡単そうだな」
佐藤が言う。
「始まるまではな」
俺が答える。
その直後――。
笛が鳴った。
最初の選手たちが一斉に走り出す。
小林は素早くネットの下をくぐり抜け、そのまま佐藤が通れるように手を貸した。
そして、俺たちの番が来る。
舞夜が先にしゃがみ込み、ネットの下をくぐっていく。
俺もその後に続いた。
あと少しで抜けられる――。
そう思った瞬間。
俺の足が、ネットの隙間に引っかかった。
「待って!」
舞夜が振り返る。
「大丈夫ですか?」
「ああ。
ちょっと待ってくれ」
足を抜こうとする。
けれど、引っ張れば引っ張るほど、余計に動かなくなっていく。
舞夜がすぐに戻ってきた。
「そんなに引っ張らないでください」
舞夜はしゃがみ込み、慎重にネットを持ち上げる。
「今です」
俺は足を抜いた。
「助かった。
ありがとう」
「どういたしまして」
俺たちは再び走り出した。
次の障害は――。
手を使わずにボールを運ぶ競技だった。
「これ、どうやって運ぶんだ?」
佐藤が困ったように尋ねる。
小林がボールを見る。
「二人一組だろ」
そして俺たちを見る。
「二人で挟んで運ぶんじゃないか?」
舞夜が俺を見る。
「……私たちですね」
「……そうみたいだな」
俺たちはボールを肩と肩の間に挟んだ。
「ゆっくり行きましょう」
舞夜が言う。
「ああ」
一歩。
もう一歩。
ボールが少し動いた。
「大樹、あまり動かないでください!」
「いや、舞夜が動いてるだろ!」
「大樹が速すぎるんです!」
「お前が遅いんだよ!」
「だから――」
その瞬間。
ボールが地面に落ちた。
「……」
「……」
俺たちは無言でボールを見つめた。
そして――。
観客席から笑い声が聞こえてきた。
「それって競技なの!?
それともデート!?」
結衣だった。
「「結衣!!」」
俺たちは同時に叫んだ。
観客席からさらに大きな笑い声が起こる。
舞夜は完全に顔を赤くしていた。
「無視してください」
「努力はする」
俺たちはもう一度ボールを挟み直した。
今度は、もっと慎重に進む。
一歩。
もう一歩。
さらに一歩。
今度はボールを落とさず、無事に指定された場所まで運ぶことができた。
「やった!」
舞夜が嬉しそうに言う。
「成功したな!」
俺たちはそのままゴールへ向かって走り出した。
そして、俺たちのチームは最初のチームから数秒遅れてゴールラインを越えた。
優勝はできなかった。
でも――。
最下位でもなかった。
「まあ、悪くなかったな」
小林が言う。
「ボール一個に負けそうになったことを考えれば、上出来だろ」
佐藤が付け加える。
「それは言わなくていい」
俺が答えると、舞夜が笑い始めた。
「でも、楽しかったですね」
「ああ」
俺も舞夜を見て笑った。
「ただ、結衣は絶対にさっきのことを忘れないだろうな」
「間違いありません」
その数メートル先で、結衣が両手を上げた。
「新しいお気に入りの思い出ができたー!」
「「うるさい!」」
俺と舞夜は、また同時に叫んだ。
競技が終わった後、先生たちは次の種目まで少し休憩する時間をくれた。
俺たちは自分たちの待機場所へ戻る。
その途中――。
舞夜が数歩後ろに残った。
「大樹」
俺は振り返る。
「ん?」
舞夜が手を差し出した。
「それ、貸してください」
「これ?」
「はい」
俺はポケットからメダルを取り出した。
「何に使うんだ?」
舞夜は俺からメダルを受け取り、じっと眺める。
「ちょっと見てみたかったんです」
「気に入った?」
「はい」
そう言うと、舞夜は自分のメダルも取り出した。
そして――。
二つのメダルを並べる。
「同じですね」
「そりゃそうだろ」
舞夜は二つのメダルを見つめながら、微笑んだ。
「……一緒にしまっておいてもいいかもしれませんね」
「一緒に?」
俺が聞き返す。
舞夜は自分の言葉がどう聞こえたのかに気づいたらしい。
少しだけ顔を赤くする。
「ち、違います。
その……」
そして、少し考えてから言った。
「二つ並べて、写真を撮っておくんです。
体育祭の思い出として」
俺は微笑んだ。
「それ、いいな」
舞夜も嬉しそうに笑う。
「じゃあ、そうしましょう」
舞夜は自分のメダルをポケットへしまった。
俺たちは再び、みんなのところへ戻っていく。
その途中、俺はふと思った。
もしかすると――。
俺が舞夜と一緒に過ごす時間の中で、一番好きなのはこういう瞬間なのかもしれない。
特別なことをする必要なんてない。
たとえ、くだらない競技だったとしても。
たった一つのボールを二人で運ぶだけでも。
それはいつの間にか――。
大切な思い出になっている。
そして――。
体育祭が終わるまでには、まだ最後の競技が一つ残っていた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
体育祭も、いよいよ最後の競技を残すだけとなりました。
大樹と舞夜に待っている最後の出来事とは――?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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